北方謙三版「水滸伝」第十一弾!
毎週月曜日は北方謙三版「水滸伝」の感想を書く日!ということで、前回の十巻に続いて本日は第十一巻である。単行本版は2003年に登場。
集英社文庫版は2007年に登場している。
おススメ度、こんな方におススメ!
おすすめ度:★★★★★(最大★5つ)
「水滸伝」中でも最重要エピソードの一つを堪能したい方。北方版「水滸伝」をもってしても、あのキャラクターの運命は変わらないことを嘆きたい方。うらぶれたオッサンがいぶし銀の輝きを放つ瞬間を見届けたい方におススメ!
あらすじ
戦線拡大派の晁蓋と、現状維持派の宋江。水面下で続いていた梁山泊両巨頭の対立は、次第にその激しさを増していく。周囲の心配をよそに、進んで最前線に立ちたがる晁蓋に、宋江は一抹の不安を覚える。平原の城郭を奪った晁蓋は勇躍して入城を果たす。この街で一人の老人が従者として召し抱えられる。男の名は史文恭。彼こそは青蓮寺の送り込んだ最強の暗殺者だった。
ここからネタバレ
遂に来るべき時が来た
「水滸伝」本編を知る人であれば、ついに来るべきものが来てしまったかと慨嘆することしきりだろう。出来うることならば永遠に訪れて欲しくなかった。原作を大胆にアレンジしてみせた北方版ならあるいは、とも思ったがやはりこればかりは変えようかが無かったか。快男児晁蓋ここに死す。
横山光輝版の「水滸伝」を小学生の頃に読んだ時には、後半のヤマ場に入る前に死んでしまう彼の評価は至って低かった。だいたい百八星の中にも入ってないんだよな。わたしの周囲では一時期ヘタレの代名詞が「晁蓋」だったくらいだ。今になって思うと、本当に悪いことをしたと思う。すまない晁蓋。
着実にフラグを立てていく晁蓋
総大将なのに好んで前線に出たがったり、田舎の保正(名主みたいなもの)出身なのに、何故か軍事的才能に恵まれていたり、保守派の宋江と真っ向から対立して主戦論を唱えてみたりと、もはやいつ死んでもおかしくなかった晁蓋。北方版はどう改編されているか予想がつかないので、こないだの呼延灼戦で死ぬのかとばかり思っていた。
扈三娘が仄かな好意を寄せはじめ、史進、林冲らといい感じの語らいをしてみたり、次第に高まっていく死亡フラグがあまりに濃厚で、これはもはや運命からは逃れられないかと読み手としても覚悟を決めてしまった。
気になった点としては、暗殺者史文恭のキャラクターが、いわゆる一般的な「水滸伝」の印象とまるで異なっていたこと。これも北方風というところか。それにしても、自分で晁蓋を暗殺させておいて、いざ討たれてみると、自分で殺したかったと悔やむ李富さんはいい人だと思います。
かくして、快男児晁蓋は死に、梁山泊は陰険ネチネチ好色野郎の宋江の手に(←あんまり宋江を愛せていないわたし)。
杜興のエピソードが良い!
晁蓋のエピソードに目を奪われがちだが、相変わらずその他の人物のミニエピソードも良いのである。
梁山泊メンバーの中でも、群を抜いてオッサンな杜興(50余歳)。弟のようにかわいがってきた旧主は独り立ちをし、よりにもよって梁山泊精鋭中の精鋭史進の遊撃隊の副長に任じられる。
いやでも、オレ体力無いし。そんな杜興に息子のような若さの史進は敗残兵の取りまとめを命じる。杜興らを置いて出撃していく史進。ぶち切れた杜興は敗残兵らにことのほか過酷な訓練を課す。兵たちに恨まれた挙げ句にのたれ死に出来ればと思っていた杜興だったが、この兵たちが見事に復活。しかも皆が皆で、再生のチャンスをくれた杜興を慕いだす始末。こういううらぶれたオッサンが報われる話は嬉しいよね。