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『教室が、ひとりになるまで』浅倉秋成 同調圧力の檻の中で

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本格ミステリ大賞、日本推理作家協会賞候補作

2019年刊行作品。筆者の浅倉秋成(あさくらあきなり)は1989年生まれ。デビュー作は2012年に講談社BOX新人賞“Powers”にてPowersを受賞した『ノワール・レヴナント』。浅倉冬至の筆名で『進撃の巨人』のノベライズを手掛けたこともある。

本作『教室が、ひとりになるまで』は、2020年の本格ミステリ大賞、日本推理作家協会賞の候補作となっている。

教室が、ひとりになるまで

角川文庫版は2021年に登場。解説は千街晶之(せんがいあきゆき)が担当している。表紙デザインが変わってしまってちょっと残念。単行本版は裏表紙に「あの人」がいる分、より雰囲気出ていたのになあ。

教室が、ひとりになるまで (角川文庫)

千街晶之は本書の刊行時にもコメントを寄せているので、読みたい方はWEB本の雑誌のこちらのコーナーをどうぞ。

おススメ度、こんな方におススメ!

おすすめ度:★★★★(最大★5つ)

学園を舞台としたミステリを読みたい方。ビターテイストの青春小説に触れてみたい方。恩田陸の『六番目の小夜子』みたいな作品を探している方。タイプの違う人間とはわかりあえないなと思っている方におススメ!

あらすじ

私立北楓高校で立て続けに三人の生徒が自殺した。「私は教室で大きな声を出しすぎました。調律される必要があります」。同じ文面の遺書を残して死を遂げた彼らは本当に自殺だったのか。クラスメイトの白瀬美月は、彼らは殺されたのだと主張する。垣内友弘は、とある理由から事件を巡る謎に巻き込まれていく。果たして犯人は誰なのか。そしてその殺害方法は?

ここからネタバレ

学園に伝承される不思議な力

私立北楓高校では、代々受け継がれる不思議な四つの能力があり、それを持つ者は《受取人》と呼ばれる。

以下、ルールを簡単にまとめておこう。

  • 《受取人》は四人。全て生徒である
  • 能力は四人全て違い、それぞれ発動条件がある
  • 能力の内容と発動条件を他人に知られたり、言い当てられたりすると力は失われる
  • 能力が発揮されるのは北楓高校の敷地内のみ
  • 《受取人》は卒業時に次の受取人を新入生を含めた全校生徒の中から指名する
  • 《受取人》が継承者を指名しなかった場合は、新一年生の中からランダムで次の《受取人》が決まる
  • 《受取人》死亡時には、先代の《受取人》が在校生の中から新たな《受取人》を指名する
  • 能力を見破られ、力が失われた場合、《受取人》は三年後の新入生の中からランダムに選ばれる

『教室が、ひとりになるまで』は、学園に伝承される不思議な力系のお話である。恩田陸の『六番目の小夜子』とか、最近なら貴戸湊太の『そして、ユリコは一人になった』系統の物語。こういうの大好きなんだよね。ワクワクしながら読んだ。

それぞれの《受取人》は自分以外の《受取人》が誰であるかはわからない。《受取人》は何かをしなくてはいけないわけではないし、どうして能力が与えられ、継承されているのかも説明されない。

能力バトルものでもある

本作の面白いところは、「能力バトルもの」としても楽しめる点である。自殺に偽装して次々と生徒を殺している《受取人》が居る。それが誰かは判らないし、どんな能力を使って自殺を偽装しているのか、そしてその能力の発動条件もわからない。

主人公の垣内友弘(かきうちともひろ)は、在校生の《受取人》が死亡したことを受け、急遽その力を受け継ぎ、成り行きから犯人探しに乗り出す。同じく《受取人》である、八重樫卓(やえがしすぐる)と共闘することで、やがて隣のクラスの女子生徒、壇優里(だんゆうり)が有力な容疑者として浮上してくる。

壇優里が犯人である可能性は濃厚だが、彼女がどうやって自殺を偽装しているのかはわからない。相手は殺人を厭わない人物であるだけに、慎重に対応しなければ自分自身の命さえ危なくなる。

着実に目的を果たしていく壇優里に対して、垣内と八重樫はそれぞれの能力を合わせ技で用いることで対抗しようとする。緊張感のある心理バトルが実に楽しい。

なお、ここで《受取人》たちの能力をまとめておこう。()内はその発動条件である。

  • 垣内友弘:嘘を見抜く力(強い痛みを受ける)
  • 八重樫卓:好き嫌いを見抜く(?)
  • 壇優里:幻想を見せる(畏怖させた対象者に触れる)
  • 白瀬美月:傷を癒す(対象者の患部に触れる)

スクールカーストの超えられない壁

本作は「同じ檻に入れられた別の動物」たちの物語である。

社交的に振舞い、リーダーシップを取り、自然にクラスの中心となってしまうよう八重樫を始めとする体育会系の部活出身者たち。一方で、孤独を愛し、群れることを良しとしない垣内や、壇優里のような存在。

とかく学校社会は、同調圧力が強く働きがちな空間である。強者として振る舞う八重樫たちと、コンプレックスを感じ弱者として壁を作る垣内たち。これは、決してどちらが悪いものではないのだが、両者が理解しあうことは難しい。なにせ別の生き物なのだから。

「最高のクラス!」を本気で信じて、同調圧力を振りかざしてくる人間は、大人になっても普通に存在する。ただ、大人にはまだ逃げる場所がある。しかし、教室という名の檻からは一定期間逃げることが出来ない。それだけに自らを「下」だと断じるタイプには、過酷な空間になってしまうのである。

ちなみに、わたしの高校時代は文化部所属のオタク男子生徒だった。そのクラス内ステータスはだいたいお分かりになると思う。自分がこの学校に在籍していたとしたら、壇優里が作り出したギュゲスの調律空間に、憧れのような気持ちを抱いてしまうことは間違いないだろう。

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