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『ノワール・レヴナント』浅倉秋成 特殊能力を持つ四人の高校生が事件の謎に迫る

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浅倉秋成のデビュー作

『ノワール・レヴナント』は2012年刊行作品。講談社のライト文芸レーベル、講談社BOXが実施していた公募新人賞「講談社BOX新人賞"Powers"」の第13回受賞作。浅倉秋成(あさくらあきなり)のデビュー作だ。「講談社BOX新人賞"Powers"」は十年を経ずに終了してしまった短命の公募企画だったが、最大の功績は浅倉秋成を世に出したことかもしれない。

講談社BOX版の表紙イラストはN村雄飛が担当。その後、別名義である中村ゆうひの筆名で、『フラッガーの方程式』『失恋覚悟のラウンドアバウト(文庫版タイトルは『失恋の準備をお願いします』)』の表紙イラストも手掛けている。

講談社BOX版の『ノワール・レヴナント』はしばらくの間、入手困難な状態が続いていたが、『六人の嘘つきな大学生』の大ヒットを受けてか、2021年に角川文庫版が登場した。これによって浅倉秋成の初期作品が現在でも全て入手可能となっている。ちなみに、表紙イラストはwataboku(ワタボク)によるもの。

ノワール・レヴナント (角川文庫)

おススメ度、こんな方におススメ!

おすすめ度:★★★(最大★5つ)

浅倉秋成にハマっていて、デビュー当時の作品も読んでみたくなった方。特殊能力を使って困難を乗り越えていくタイプの物語がお好きな方。丁寧に張り巡らされた伏線の妙味を堪能してみたい方。700ページを超える鈍器本でもメゲない方(でも読みやすいので安心してね)におススメ。

あらすじ

幸運偏差値の可視化。瞬時の完全暗記。未来予知。触れたものの破壊。

彼らに与えられた能力には何の意味が、いかなる目的があるのか?異能力を持った四人の高校生たちは、なにものかの意思によって同じ場所に集められる。四年前に起きた少女の死。事件の背後には驚くべき真相が隠されていたのだが……。

ここからネタバレ

登場人物を確認しておこう

最初に本作に登場するキャラクターをチェックしておきたい。

まずはメインを張る、特殊能力を持つ四人

  • 大須賀駿(おおすがしゅん):高校二年生。他人の背中を見ると、その日の幸運レベル(幸運偏差値)を見ることができる
  • 三枝のん(さえぐさのん):高校一年生。背表紙をなぞるだけで本の内容を暗記できる
  • 江崎純一郎(えざきじゅんいちろう):高校二年生。その日聞くことになるセリフ(5つ)を予知できる
  • 葵静葉(あおいしずは):高校三年生。触れたものを念じるだけで、完全に壊すことができる

続いて関連キャラの皆さん(奇しくも全員血縁者だ)

  • 黒澤孝介(くろさわこうすけ):大手電子機器メーカ、レゾン電子社長
  • 黒澤皐月(くろさわさつき):孝介の娘。四年前に謎の死を遂げている
  • 真壁弥生(まかべやよい):大須賀駿のクラスメイト
  • ボブ:江崎純一郎が通う喫茶店の常連

特殊能力を駆使して謎を解く

『ノワール・レヴナント』の魅力は、それぞれに特徴のある異能力を持った、四人の高校生が協力しあって謎を解いていく展開にある。本の背表紙をなぞるだけで情報を読み取れる三枝のんの異能は、企業の秘密情報を瞬時に盗み取れる(レゾン電子はアナログ情報に異存し過ぎだとは思ったけど(笑))。葵静葉の心の中のレバーは、思いっきり倒せば、意図したものを何でも壊せてしまう。そして最強の切り札は、その日の出来事を予測できる江崎純一郎の未来予知だろう。

特に秀逸だと思ったのは江崎純一郎の能力の使い方だ。彼の予知はその日聞くであろう、誰かの「セリフ」を事前に知ることが出来る。という形で示される。となれば、常時音楽を大音量で流して、他者の「セリフ」を出来るだけ聞かないようにする。そうすれば、他者の「セリフ」を聞くシーンを限定できるので、予知の価値を最大限に高めることが出来る。江崎純一郎は、この能力を賭けトランプ「ノワール・レヴナント」のプレイ時に全投入するのだ。このギャンブルのシーンは、作中でも一番面白かった。

大須賀駿の能力は何のために?

本作では四人の高校生が、独自の能力を用いて謎に迫っていく。四人の位置づけはほぼ同格ではあるのだが、それでも大須賀駿に割かれているページ数が、他の三人よりも多く感じられる。

また、明確に謎解きに有用な他の三人の能力と比較して、幸運偏差値が可視化出来る大須賀駿のスキルは、「別になくても良かったのでは」と、どうしてもツッコミたくもなってくる。

そして黒澤皐月との関係性が、他の三人は比較的早期に判明していたのだが、大須賀駿との関係は物語の後半まで明かされることがない。とはいえ、そこは浅倉秋成作品。周到な伏線を丁寧に張ってきているので、その「理由」が明らかになったシーンでは、さすがに唸らされた。上手いな、やっぱり。

黒澤皐月の狙いは、父である黒澤孝介の狂気の取り組みを阻止して欲しい。これが第一目標。ただ彼女の目的はもう一つあって、残されてしまったただ一人の妹、真壁弥生に幸せな人生を歩んでもらうことにあった。事件後にも大須賀駿の能力が残されたのは、真壁弥生の将来を案じてのものなのだろう。

交際相手の幸福度が可視化されるのは、便利に思えるかもしれないが、それが常時表示ともなればプレッシャーにもなってくる。考えようによっては黒澤皐月の呪いのようにも思えるのだけど、大須賀駿本人が納得しているようだから問題ないのかな?

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