浅田次郎、初の歴史小説
2000年刊行作品。もともとは「文藝春秋」誌に1998年~2000年にかけて連載されていたもの。タイトルの『壬生義士伝』は「みぶぎしでん」と読む。
日本を舞台とした歴史小説は、浅田次郎(あさだじろう)としては初めての作品となる。第13回の柴田錬三郎賞の受賞作にもなっている。
文春文庫版は2002年に登場している。
おススメ度、こんな方におススメ!
おすすめ度:★★★★(最大★5つ)
時代設定が幕末となっている歴史小説を読んでみたい方。幕末は新選組派だ!と確信している方。新選組の人々の生きざまについて知りたい方。とにかく猛烈に感情を揺さぶられたいと思っている方。浅田次郎が書いた、日本の歴史小説を読んでみたい方におススメ。
あらすじ
南部藩士吉村貫一郎は文武両道に秀でた傑物でありながら、出自の低さから志を得られず、貧困に喘ぐ家族を救うため遂には脱藩。流浪の果てに京都に流れ着き、動乱の地で新撰組に身を投じる。人斬り貫一として、薩長の心胆を寒からしめた吉村であったが、鳥羽・伏見の戦いに敗れ非業の死を遂げる。守銭奴と蔑まれた異端の新撰組隊士の生き様を描く。
ここからネタバレ
ボロボロ泣きたいときには浅田次郎を読む
かつて『蒼穹の昴(そうきゅうのすばる)』でボロ泣きさせられた身としては、浅田次郎はそう気軽に読むにはならない作家だ。心憎いまでに泣かしのツボを心得た作風は、あざとい、あざとすぎるよあんた、と、ガシガシ作者の肩を掴んでなじり倒したいくらい。とにかく泣かせることに特化した、見事に計算され尽くした職人の技なのである。
多面的に描かれていく主人公の姿
冒頭、いきなり瀕死の吉村貫一郎から物語は始まる。主人公の死を予見させつつ、場面は過去に遡り、吉村を知る人々たちが順々にその思い出を語っていく形式で進んでいく。それぞれの章の間で吉村の運命は綴られていくわけだが、それは全体のボリュームとしては僅かな分量で、大部分は彼を知る人々の回想で本編は費やされており、本人を直接描かずに、周囲の人々の目線が、誠の南部武士、吉村貫一郎の生涯を浮き彫りにしていく。
語り手はかつての友人、新撰組の同僚たち(斉藤一もいる!)、貫一郎の子供たちと多岐に渡り、複数の視点から捉えなおすことで、多面的に吉村の人生を読み進むことが出来るような構成となっている。それぞれの語り手が別の語り手について語る場合もあり、これにより物語の奥行きがぐんと増している。周到に張り巡らされた泣かしのための伏線が、連鎖的に炸裂していく後半部は、テクニックだよなあと思いつつも、ただもう泣くしかないのであった。
映像化は二種類
本作の映像化は二つのバージョンがある。
2002年のテレビドラマ版では渡辺謙が吉村貫一郎を演じている。ちょっと渡辺謙だと、ビジュアル的に立派過ぎるきらいはある。重要な役どころの斉藤一は竹中直人が演じている。
一方、2003年の映画版では、中井貴一が吉村貫一郎を演じている。こちらの斉藤一は佐藤浩市が担当。特筆すべきは、沖田総司を堺雅人が演じていることだろう。総司ならではの透明感のある狂気が仄かに垣間見える好演となっていた。
マンガ版もある
コミカライズはながやす巧によるもの。2007年から始まっているが、連載誌がKADOKAWA『コミックチャージ』⇒講談社『別冊少年マガジン』⇒ホーム社『画楽.mag』次々と変わっており、現在はホーム社版が入手できる版となっている(Amazonリンク見る限り電子版は集英社なのかな)。
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