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『罪灯(つみともしび)』佐々木丸美 未必の故意による犯罪

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当ブログは原則としてネタバレありでお届けしているが、本作については佐々木丸美の「館」シリーズについても軽度のネタバレを含んでいる。未読の方はご注意ください!

最後期の佐々木丸美作品

1983年刊行作品。佐々木丸美(ささきまるみ)としては15作目の作品。『罪灯』は『つみともしび』と読ませる。

佐々木丸美作品の刊行は1984年の17作目『榛家(はしばみけ)の伝説』を最後にストップするため、最後期の作品と言ってよいだろう。講談社からの刊行となったが、講談社からの文庫化はされなかった。

その後長らく入手困難な時期が続くが、2000年代に入りファンによる復刊運動が始まり、ブッキングによる「佐々木丸美コレクション」が刊行され、本作も2007年に24年ぶりの復刊を遂げた。挿画には、1983年版同様に味戸ケイコが起用されており、ファンには嬉しいこだわりとなっている。

その後更に、東京創元社より創元推理文庫版が登場。念願の文庫化も果たしている。現在手に入りやすいのはこちらの版であろう。 

罪灯 (創元推理文庫)

おススメ度、こんな方におススメ!

おすすめ度:★★★(最大★5つ)

未必の故意。可能性(プロバビリティー)の犯罪。といったワードに惹かれる方。昭和の時代に書かれたミステリ短編集を読んでみたい方。佐々木丸美の短編作品に興味がある方。「館シリーズ」のキャラクターにもう一度会いたい方におススメ。

あらすじ

冬の湖、氷の割れ目に落ちて死んだ娘。その死にまつわる真相は?(危険区域)。春の川、おぼれていた親子の死にまつわる物語(顔)。夏の夜、燃え盛る炎に焼かれて死んだ女。秘められた事件の真実を描く(魔火)。冬の奈良。二件の殺人事件に隠された秘密とは?(通訳)。春夏秋冬、四人の少女たちが犯した罪、そして罰を描く連作短編集。

ここからネタバレ

未必の故意をテーマにした連作短編

本作には四編の物語が収録されている。友人関係にある、冬都(ふゆこ)、春都(はるこ)、夏都(なつこ)、秋都(あきこ)の四人の少女が順番に主役を務める。

「未必の故意」については、wikipedia先生の記事を参照のこと。

未必的故意(未必の故意)
犯罪的結果の発生自体は確実ではないが、それが発生することを表象しながらも、それが発生するならば発生しても構わないものとして認容している場合の故意を未必的故意(未必の故意)という。

故意 - Wikipediaより

直接的に手を下すわけでは無いが、自身の行為(あるいはしないこと)によって、犯罪が発生する可能性を自覚していながらもそれをあえて見逃す。そんな行動を指す法律用語である。

憎んでいる相手を手を汚さず殺せるかもしれない。致命的な出来事が起こるとわかっていながら見て見ぬふりをする。自分が何も言わなければ、憎い相手を罪に落とせるかもしれない。こんなことを言ったら事件が起きるかもしれない。本作はそんなプロバビリティー(可能性)の犯罪を描いていく。

「館」シリーズから懐かしいメンバーが再登場

この物語の主役は四人の少女だが、彼女たちにはそれぞれ想い人が存在する。罪を犯した彼女たちは、その想い人によって裁かれ、自身の内面に向き合うことになる。

ここで想い人として登場するのが「館」シリーズではお馴染みの面々である。精神科医の二科は、もちろん『崖の館』から登場する二科哲文の成長した姿であろうし、巴田、堂本、吹原は『水に描かれた館』から登場するキャラクターである。これは、ファンにとっては嬉しい趣向と言えるだろう。

では、以下、各編ごとに簡単にコメント。

危険区域

主人公は冬都(ふゆこ)。冬の湖。高慢な同級生が、氷の薄い危険区域に入るのをあえて見過ごし、死に至らしめた。罪悪感にさい悩まされ、犯罪の露見に怯える冬都。

「法の裁きを逃れたものに心理のロープをかける」哲文ならではの、正義感に基づくよる裁きかたがいかにも”らしい”感じ。描かれる冬の湖の光景が美しく、個人的にはこの話がいちばん好き。佐々木丸美の本領はやはり冬なのだなと思う。

主人公は春都(はるこ)。春都は、川でおぼれている親子が川で溺れているのを目撃しながらも見て見ぬふりをして死なせてしまう。

罪を裁くのは巴田さん。というか、巴田さんが優しすぎてヤバい。他の目撃者も同様に見て見ぬふりをした可能性を示唆し、春都の罪を相対化させていくのだけど、だからと言ってそれが許されることとは思えない。

さすがにこれは酷いのではないか?本作中、このエピソードだけは擁護がまったく出来ない事件である。

魔火

主人公は夏都(なつこ)。恨みを持つ女の家が火事になり、女の母親が焼死してしまう。夜遊びをするために女は母親に睡眠薬を飲ませていた。女による放火ではないかと疑われるが、夏都は女が無実であることを知りながらそれを誰にも言わずにいた。

こちらのエピソードには堂本さんが登場。堂本さんらしい意地の悪さが際立つ。最初にガツンとやっつけてから、後で優しくして惚れ込ませるのは佐々木丸美描くところの男性キャラに多いパターン。

通訳

主人公は秋都(あきこ)。狂信的な外国人女性の言葉を悪戯半分に訳していたら、激高した女は人を殺してしまう。その殺意は、秋都の通訳から生じたものなのか?

最後に登場するのは吹原さん。これ、奈良の話だし、吹原さんが奈良に行っていた時のおまけエピソードなのかな?ロジカルに淡々と事件を整理して、理路整然と秋都を諭していくスタイルがさすがの吹原さんなのであった。

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