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『むかしむかしあるところに、死体があってもめでたしめでたし。』青柳碧人 昔ばなしシリーズの最終巻が登場!

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シリーズ累計50万部突破の人気シリーズ第三段

2023年刊行作品。双葉社から発売されている小説誌「小説推理」に2022年~2023年にかけて掲載された作品をまとめたものである。青柳碧人(あおやぎあいと)による、日本の昔話をベースにしたミステリ作品「昔ばなし」シリーズの第三弾にして、最終巻にあたる。『むかしむかしあるところに、死体がありました。』『むかしむかしあるところに、やっぱり死体がありました。』にの続巻である。

むかしむかしあるところに、死体があってもめでたしめでたし。

表紙イラストは今回も五月女ケイ子が担当。帯の記載によるとシリーズ累計の発行部数は50万部を突破したとのこと。すごい!

双葉社による公式サイトはこちら。

おススメ度、こんな方におススメ!

おすすめ度:★★★(最大★5つ)

ミステリ×昔ばなしの絶妙なマリアージュを堪能したい方。ちょっと変わったミステリ作品を読んでみたい方。日本の昔話の世界観がお好きな方。青柳碧人作品が気になっている方。気軽に読めるミステリ作品を探していた方におススメ。

あらすじ

容疑者のこぶには特徴的な傷跡がついていて(こぶとり奇譚)。平家の亡霊に悩まされる耳なし芳一と密室殺人の謎(陰陽師、耳なし芳一に出会う。)。雀を助けた爺さんと、その舌を切ってしまった婆さん、因果がもつれたその果てに(女か、雀か、虎か)。雪女の怪異と若返りの泉、自宅から決して出ようとしない太郎の名推理とは(三年安楽椅子太郎)。殺人ギミック満載の金太郎城で起きた事件、果たしてその真相は?(金太郎城殺人事件)

昔話の世界観を使った特殊設定ミステリ

本作は、こぶとりじいさん、耳なし芳一、舌切り雀、三年寝太郎、金太郎といった、日本の昔話をベースとしたミステリ短編集となっている。連作形式をとっており、各編はゆるく繋がっているので、最初から順番に読んだ方が良い。

『むかしむかしあるところに、死体がありました。』『むかしむかしあるところに、やっぱり死体がありました。』で、青柳碧人は、昔ばなしの世界を下敷きにした特殊設定ミステリの世界を確立した。昔ばなしだからこそ許される、超自然的な現象や、便利なアイテムをミステリの世界に持ち込むことに成功したわけだ。昨今、ミステリ界で流行の特殊設定ミステリに、昔ばなし世界の親しみやすさが加味されて、本作は、多くの読者の支持を得たのではないかと思われる。

さすがに三冊目ってことで、ネタが尽きてきたのか、今回でこのシリーズは終了のようなのだけど、ちょっともったいない気もするね。

以下、各編ごとにコメント。

ここからネタバレ

こぶとり奇譚

初出は「小説推理」2022年9月号。

雲落山(くもおちやま)の鬼には、生きものの一部をもぎとり、別の相手につけ替える能力がある。村で起きた殺人事件。容疑者には有力な手掛かりとなるこぶの傷。しかし、それはなにものかによって、くっつけられたこぶだと云うのだが……。

冒頭で芋作(いもさく)、葱作(ねぎさく)による、基本的なこぶとりじいさん物語が提示され、本編はその後の、彼らの血縁者を巡る因縁譚として描かれる。こぶが移植できるのだから、人体ならなんでもつけ替えられるはず。まさかの顔交換トリックに驚かされる。語り手である岩塚甚五(いわつかじんご)の意外な正体にもビックリ。

陰陽師、耳なし芳一に出会う。

初出は「小説推理」2022年11月号。

平家一門の霊をなぐさめるべく、夜な夜な琵琶をかなでる芳一。しかし、とある晩、芳一のいた屋敷では殺人事件が発生する。容疑者とされた兄を救うべく、都からやってきた陰陽師、蘆屋桃花(あしやももか)は知恵を巡らせるのだが……。

耳なし芳一エピソードに、陰陽師、蘆屋道満(あしやどうまん)の子孫であるとする、蘆屋桃花を絡めた密室殺人作品。盲目の琵琶法師という芳一の特性と、経文を書き込まれた芳一の肉体は亡霊からは不可視化される現象をうまくつかったお話。芳一、目が見えないとはいっても、気配で気づくんじゃね?って気もするけど。

女か、雀か、虎か

初出は「小説推理」2023年1月号。

雀の命を助けた作兵衛(さくべえ)爺さんは、お礼に雀のお宿に招かれる。お土産にと示されたのは三つのつづら。果たしてどれを選ぶべきか?そして、村では評判の美女がなにものかに殺害されていて……。知らず知らずに事件に巻き込まれてしまった爺さんの運命は?

舌切り雀の物語がベースになっているが、加えて、アメリカ人作家ストックトン(Frank R. Stockton)の書いた「女か虎か?(The Lady, or the Tiger?)」のインスパイア作品にもなっている。「女か虎か?」は、明確な解決を提示せず、読み手に謎の解釈を委ねるリドル・ストーリーの典型作として知られる。

「女か、雀か、虎か」であ、爺さんがどのつづらを選んだかで、結果が変わってくる構成を取っており、多重解決とも言える終わり方となっている。

三年安楽椅子太郎

初出は「小説推理」2023年3月号。

12歳の村娘なえは、魚井戸(うおいど)のお殿様に呼ばれて、今日も不思議な話を披露する。家から一歩も出ないのに、話を聞いただけで事件を解決してしまう太郎。彼は村で起きた事件の謎を鮮やかに解決していく。

ベースとなるお話はもちろん三年寝太郎。寝太郎を安楽椅子探偵にする発想が良い!さらに、雪女、傘地蔵、若返りの泉のエピソードがミックスされて、複雑に事件は絡み合う。これ解決できた寝たろうってすごくない?

金太郎城殺人事件

初出は「小説推理」2022年5月号及び6月号。

金太郎城の主、坂田金柑(さかたのきんかん)に招かれたなえと魚井戸の殿様、そして九本松の殿様。城内に隠された坂田家の家宝「鬼の右腕」を探せとの謎解きに、頭を悩ませる面々。しかし、招かれた客が次々に殺害されていき……。

金太郎こと坂田金時(さかたのきんとき)と、その同輩であった渡辺綱(わたなべのつな)の伝承を下敷きに、姥捨て山のエピソードを融合させ、更にアガサ・クリスティの『そして誰もいなくなった』的なミステリ展開を加えた作品。最終エピソードらしく、これまでの作品の内容を踏まえた集大成的な構造となっている。

シリーズ最後の締めとして、作者はこんな危惧を太郎に抱かせる。多くの昔話の登場人物たちは、富や名声を得て「めでたしめでたし」となる。だが、分不相応の財を得た彼らはほんとうに幸せになれるのだろうか、と。

平凡ではあるけれども、変わらない暮らしが毎日続いていくことこそが、ほんとうの幸せ「めでたしめでたし」なのかもしれない。

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