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『むかしむかしあるところに、死体がありました。』青柳碧人


2020年本屋大賞の第10位!

2019年刊行作品。筆者の青柳碧人(あおやぎあいと)は1980年生まれ。2009年に数学を題材としたミステリ『浜村渚の計算ノート』で、講談社Birth小説部門を受賞し小説家デビューを果たしている。デビューしてからの十年で、作品数は30作を超えており、相当に筆の早い作家と言える。

『むかしむかしあるところに、死体がありました。』は双葉社の月刊小説誌「小説推理」に2017年~2018年にかけて掲載された作品をまとめたものである。

むかしむかしあるところに、死体がありました。

2020年(第17回)の本屋大賞では第10位にランクインしている。

おススメ度、こんな方におススメ!

おすすめ度:★★★(最大★5つ)

気軽に読めるライトなミステリ作品を探している方、昔話の世界を舞台とした本格ミステリを読んでみたい方、本格ミステリの様々な要素をちょっとずつ楽しんでみたい方におススメ。

あらすじ

容疑者となった一寸法師。しかし彼にはアリバイがあって(一寸法師の不在証明)。殺害された花咲か爺。彼が遺したメッセージの意味は?(花咲か死者伝言)。命を救われた恩を返しに現れた鶴。しかしそこで彼女が見たものは(つるの倒叙がえし)。竜宮城で起きた密室殺人の謎に挑む浦島太郎(密室竜宮城)。桃太郎の去った鬼ヶ島で残されたものたちに起きた悲劇(絶海の鬼ヶ島)。

ここからネタバレ

昔話をモチーフとした五編のミステリ短編集

一寸法師、花咲か爺、鶴の恩返し、浦島太郎、桃太郎。本作は、誰もが知っているであろう昔話のストーリーを下敷きとしたミステリ短編集である。基本的なあらすじが人口に膾炙したものであるだけに、読み手の頭に登場人物の関係性や、展開がスッと頭に入ってくるのは優位点と言える。

五編の短編が収録されているが、アリバイ崩し、ダイイングメッセージ、倒叙、密室殺人、某有名作品のパロディと、それぞれに趣向が凝らされた仕掛けが施されており、かなり手が込んでいる。昔話ならではの解決法、昔話だから使えるアイテムの数々と、特異な世界設定をしっかり使いこなせている点も面白い。

では、以下、簡単に各編をコメントして行こう。

一寸法師の不在証明

初出は「小説推理」2017年12月号。

鬼を懲らしめて、打ち出の小槌をゲット。体も大きくなって、お姫様と結ばれることになった一寸法師。ところが、彼に殺人の嫌疑が!?事件発生時には、鬼の身体の中で暴れ居ていたから犯行は不可能!と主張する一寸法師だが……。

本作のキモは「アリバイ崩し」。自分自身に使うことは出来ない。死んだ生き物には使えない。そんな打ち出の小槌の特性と、一寸法師ならではの小さい体を絡めたトリックが面白い。死者について語ることがタブーとされる「在生祀り」の観念が取り込まれているのも雰囲気が出ていて良いのではないかと。

花咲か死者伝言

初出は「小説推理」2018年9月号。語り手はまさかの「犬」!

枯れ木に花を咲かせて、お殿様からご褒美をもらったお爺さん。しかし彼は何者かによって殺害されてしまう。死んだ花咲か爺は、右手にぺんぺん草(なずな)を握りしめて息絶えていた。これは爺の残したメッセージなのか?

こちらのネタは「ダイイングメッセージ」を巡る謎である。ぺんぺん草の「音」に注目すべきか、「別名」が大事なのか、それとも「字面」に意味があったのか。比較的、容易に犯人の目星はつくのだが、どんどん牽強付会なメッセージ解釈になっていくところがちょっと楽しい。

つるの倒叙がえし

初出は「小説推理」2018年6月号。

命を救われた鶴が、女の姿になって恩返しに現れる。しかし、男はその直前に庄屋を殺害していた。機を織るところを見られたくない女と、庄屋の死体を見られたくない男。男の完全犯罪は成立するのか?

最初から犯人が分かっているタイプのミステリを「倒叙(とうじょ)」型と呼ぶ。「刑事コロンボ」や「古畑任三郎」みたいな作品ね。

もともとの「鶴の恩返し」は、鶴の姿になって機を織っている女が自分の姿を見られまいとするお話。それに対して本作では、人を殺してしまった男が、なんとかしてその犯罪の証拠を女に見られまいとする。二重になった「見られたくない」構造が上手い。更に、最後には円環的な構造にまで物語を落とし込んでいて、とりわけ作者の技巧が際立つ一作と言えるだろう。

密室竜宮城

初出は「小説推理」2017年6月号。

助けた亀に連れられて、竜宮城を訪れた浦島太郎は、そこで伊勢海老のおいせの死を知る。不可能とも思えた状況下で、いかにしておいせは殺されたのか。そして犯人は誰なのか?浦島太郎の推理は?

竜宮城の見取り図がついてる本なんてなかなかないと思うぞ(笑)。

この作品のミステリ的要素はタイトルからもわかるとおり「密室殺人」である。時間の進行を遅らせる「ととき(止時)貝」が犯行に大きな役割を果たす。特殊な世界設定だからこそ成り立つハウダニットが面白い。

絶海の鬼ヶ島

初出は「小説推理」2018年12月号。

桃太郎一行去りし後。鬼ヶ島で生き残った鬼たちにふりかかる連続殺人の恐怖。次から次へと殺されていく鬼たち。犯人は外部に居るのか?それとも身内の犯行なのか?恐慌に駆られ、疑心暗鬼に陥っていく鬼たち。事件の真相は?

桃太郎を巡る血の因果が、現世に災いをもたらす。鬼ヶ島をなんと「クローズドサークル」にしてしまった意欲作である。十三頭の鬼が次々と死んでいく展開は、アガサ・クリスティの『そして誰もいなくなった』系の作品を想起させられる。

もっとも、お話的には物語の前段階である、桃太郎一行によって次々と鬼たちが惨殺されていくシーンがとてもエグかった。逆の立場から見てみると、桃太郎って怖い話だよね。

むかしむかしあるところに、死体がありました。

むかしむかしあるところに、死体がありました。

  • 作者:青柳碧人
  • 発売日: 2019/06/14
  • メディア: Kindle版
 

余談ながら、西洋の昔話をモチーフにした続篇?『赤ずきん、旅の途中で死体と出会う。』も発売されているので、いずれ読んでみるつもり。

赤ずきん、旅の途中で死体と出会う。

赤ずきん、旅の途中で死体と出会う。

  • 作者:青柳碧人
  • 発売日: 2020/08/19
  • メディア: Kindle版
 

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