津原やすみ時代に書かれた作品をリライト
津原泰水(つはらやすみ)のデビュー作は1989年の講談社X文庫ティーンズハートの『星からきたボーイフレンド』である。当時は津原やすみ名義で作品を刊行していた。
もともと少女小説の書き手であったこの作家が、同様に講談社X文庫ティーンズハートレーベルから上梓した『うふふ(ハート)ルピナス探偵団』『ようこそ雪の館へ ルピナス探偵団』が本書のオリジナルとなっている。
『ルピナス探偵団の当惑』は2004年刊行作品。先ほどの二作品を改稿した上で、書下ろし作品「大女優の右手」が追加されている。
単行本は原書房から刊行されていたが、文庫版は東京創元社から出ている。こちらは2007年に登場。版元は変わっても、カバー絵は北見隆が担当している。こういうのはありがたいね。
おススメ度、こんな方におススメ!
おすすめ度:★★★(最大★5つ)
少女小説家時代の津原泰水(やすみ)の片鱗を感じ取りたい方、ユーモアミステリが好きな方、ぶっとんだ姉キャラが好きな方におススメ。
あらすじ
吾魚彩子は私立ルピナス学園高等部に通う女子高生。直感力に優れた彩子は、刑事である姉の無茶ぶりで、数々の事件にかかわっていくことになる。殺人者はどうして犯行後に冷えたピザを食べたのか「冷えたピザはいかが」。閉ざされた雪の館での密室殺人の謎「ようこそ雪の館へ」。往年の大女優の死にまつわる因縁話「大女優の右手」。三編を収録した本格ミステリ短編集。
ココからネタバレ
では、以下、各編ごとにコメント。
冷えたピザはいかが
オリジナルは1994年に津原やすみ名義で、講談社X文庫ティーンズハートから刊行された『うふふ(はーと)ルピナス探偵団』である。(はーと)の部分は実際には記号のハートマークが入る。北見隆バージョンの表紙と比較すると、そのギャップに衝撃を受けるが
本作では主人公の吾魚彩子(あうおさいこ)。その友人としてボーイッシュキャラの桐江泉(きりえいずみ)と、お嬢様キャラの京野摩耶(きょうのまや)。彩子の想い人である祀島龍彦(しじまたつひこ)。彩子の姉で刑事の吾魚不二子(あおうふじこ)の五人をメインとして物語が展開されていく。登場人物の過半が高校生であるわりには、事件は学校では起きず、全て校外の事件が描かれる。
直感力に優れ「正義感でも職業意識でもなく無責任で貪欲な好奇心」で事件を解決してしまうヒロイン。知識が豊富で洞察力にも優れているが、いつも推理が迷走しがちな祀島くんとのコントラストが面白い。ただ、桐江泉と京野摩耶のキャラの書き込みが弱く、ほとんどモブのような扱いになっているのがやや残念。
ようこそ雪の館へ
オリジナルは1995年に津原やすみ名義で、講談社X文庫ティーンズハートから刊行された『ようこそ雪の館へ ルピナス探偵団』である。
駿河屋HPより
雪に閉ざされた洋館”雪屋敷"での物語。本格テイストが高く、確かにこれは一般作として世に出してみたくなるかも。オリジナル版を読んでいないのでなんとも言えないが、ティーンズハートでよくぞここまで本格ミステリを書けたなという印象。
天竺桂(たぶのき)という姓はかなり珍しいが、いちおう現実に存在する苗字であるようだ。
ヒロインの姉の不二子が、刑事職であるにもかかわらず、まともに事件に関与しようとしないばかりか、現場保存にすら関心がないのが謎過ぎる。
大女優の右手
衆人環視の舞台上で死んだ大女優、野原鹿子(のはらかのこ)。死因は心筋梗塞であったが、彼女の遺体は忽然と消え失せ、右手が切断された状態で発見される。津原泰水時代になってから書き下ろされただけあって、さすがにこの作品だけクオリティが高いように思える。どうして犯人はリスクを冒してそんな行為を行ったのか。しんみりしたラストが心に残る一編。
これまで影の薄かった桐江泉と京野摩耶も、多少なりとも出番が増えてきたものの、依然として謎解きは彩子と祀島くんが担当なので、「ルピナス探偵団」と呼ぶほどチーム感が無くて、物足りなさはどうしても残るかな。
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