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『土左日記』紀貫之・堀江敏幸訳
虚と実の間をたゆたう五十五日の船旅

『むかしむかしあるところに、やっぱり死体がありました。』青柳碧人 昔ばなし×ミステリの第二弾!!

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累計部数50万部突破の人気シリーズに

2021年刊行作品。青柳碧人(あおやぎあいと)による『むかしむかしあるところに、死体がありました。』に続く、日本の昔ばなしの世界を下敷きとした本格ミステリ短編集の第二弾である。ストーリー的な関係性はないので、シリーズのどの作品から読んでもオッケー。

双葉社の月刊小説誌「小説推理」に2020年~2021年にかけて掲載された作品をまとめたものである。

文庫版の帯によるとシリーズの累計部数が50万部を突破したとのこと。いつの間にか双葉社の専用サイトも出来ていた。

作者のインタビュー記事も発見!

双葉文庫版は2023年に刊行。解説はミステリ評論家の千街晶之が書いている。

むかしむかしあるところに、やっぱり死体がありました。 (双葉文庫 あ 66-04)

おススメ度、こんな方におススメ!

おすすめ度:★★★(最大★5つ)

前作『むかしむかしあるところに、死体がありました。』を読んでハマった方。昔話をもとにした本格ミステリ作品を読んでみたい方。有名な昔話の、ちょっと変わった解釈を楽しみたい方におススメ。

あらすじ

竹から生まれた不思議な女と、五人の求婚者をめぐる密室殺人の謎(竹取探偵物語)。転がるおむすびを追いかけた翁の不思議な体験(七回目のおむすびころりん)。一本のわらしべから大金持ちになった男の意外な真実(わらしべ多重殺人)。猿蟹合戦の物語に隠された謎(真相・猿蟹合戦)。なんにでも化けることが出来る狸が犯した罪とは(猿六とぶんぶく交換殺人)。

有名な昔話の「もうひとつの結末」

このシリーズは有名な昔話のストーリーを下敷きにして書かれている。今回使用されているエピソードは、かぐや姫(竹取物語)、おむすびころりん、わらしべ長者、猿蟹合戦、ぶんぶく茶釜の五編。

いずれもお馴染みの超有名作品ばかりだが、青柳碧人の手にかかると、思いもよらぬ結末まで連れていかれてしまうので驚く。前作に比べると、本作は有名な昔話の「もうひとつの結末」を強く意識して書かれているように思える。誰もが知っているあのお話も、角度を変えてみるとこんな解釈も出来る。そんな可能性の数々が、ミステリタッチで示されていくのが楽しい。

以下、簡単に各編ごとにコメント。

ここからネタバレ

竹取探偵物語

初出は「小説推理」2021年1月号。

竹取を生業としている堤重直(つつみしげなお)は、竹から生まれたかぐやを、友人の有坂泰比良(ありさかやすひら)と共に育てている。美しく成長したかぐやには、五人の求婚者が現れるのだが……。

密室殺人モノ。主人公の堤重直のハードボイルド調の語りで物語は進行する。かぐや姫が五人の求婚者に探索を命じた五つのアイテム(仏の御石の鉢、蓬萊の玉の枝、火鼠の皮衣、龍の首の玉、燕の子安貝)の属性を活かした、特殊設定ミステリとしても楽しめる。かぐや姫が「探偵」の概念を地上にもたらしたとするオチには笑った。

なお、本作は声優福山潤による朗読版が公開されている。

七回目のおむすびころりん

初出は「小説推理」2020年9月号。

隣人の米八(よねはち)が転げたおむすびを追いかけたことから大金持ちになる。欲の深い惣七(そうしち)は自分も財をなそうとおむすびを転がす。ネズミの巣穴に飛び込んだ惣七は、そこで不可解な殺人事件に巻き込まれる。

まさかのループもの。巣穴に飛び込んできたおむすび。そして殺害対象がネズミだからこそ成立するトリック。殺されたネズミ、万福の死をめぐり、やりたくもない探偵役を務める惣七の雑な推理が笑える。

わらしべ多重殺人

初出は「小説推理」2020年11月号。

ある時は行商人、ある時は山賊、そしてまたある時は金貸し。複数の立場を使い分ける謎の男八衛門が殺害される。八衛門の殺害について、三人の下手人が浮かび上がる。事件の背後には、わらしべから財をなした長者の影がちらつく。

多重殺人モノ。複数の場所で多重生活を送っていた八衛門が殺害される。八衛門は何故「三回も殺される」ことが出来たのか。死者を蘇生させるマジックアイテム剣健布(けんけんぷ)の特性が遺憾なく発揮された一編。元ネタのわらしべ長者との関連がやや弱いのが難点か。

真相・猿蟹合戦

初出は「小説推理」2021年3月号。

猿蟹合戦には知られざる真実が隠されていた。身代わりに狸の栃丸を殺させて、見事に生き延びた猿の南天丸。父の仇を討たんと、策略を巡らせる息子は、兄を兎に殺された茶太郎に相談を持ち掛けるのだが……。

叙述トリックモノ。お馴染みの、蟹、栗、鉢、牛の糞、臼のキャラクターには、それぞれ本来の姿があった!猿蟹合戦の別解釈とも言えるストーリー。南天丸が極悪非道過ぎる。このお話は、最終エピソードである「猿六とぶんぶく交換殺人」に続いていく。

猿六とぶんぶく交換殺人

初出は「小説推理」2021年5月号。

もどろ沼に浮かぶ小島で殺害された南天丸。犯人は密室状態の小島に、どうやって入り、どうやって立ち去ったのか。南天丸に恨みを持つ栃丸に容疑の目が向けられる。しかし栃丸には鉄壁のアリバイがあった。

交換殺人モノ。「真相・猿蟹合戦」とセットで読むべき作品。探偵役を務める猿六は、さるろく→サルロク→シャーロックということで、シャーロック・ホームズのパロディか?薬物(ムカデ草)中毒だしね。交換殺人を実行に移した、茶太郎と栃丸のその後が描かれる。短い作品だが、二段三段とどんでん返しが仕込まれており、最終エピソードにふさわしい一編といえる。

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