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『犬は勘定に入れません あるいは、消えたヴィクトリア朝花瓶の謎』コニー・ウィリス 時間モノの傑作

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ヒューゴー賞・ローカス賞ダブル受賞作

2004年刊行作品。作者のコニー・ウィリス(Connie Willis)は1945年生まれのアメリカ人エスエフ作家。

オリジナルの米国版は1998年に刊行されている。原題は『To Say Nothing of the Dog』。ヒューゴー賞・ローカス賞受賞。日本では「このミステリがすごい!2005」海外部門第九位、「SFが読みたい2005」海外部門で第三位にそれぞれランクインしている。

慟哭の名作『ドゥームズデイブック』の姉妹作なので未読の人はこちらも是非読むべし。その他、関連作として2015年刊行の『ブラックアウト』『オール・クリア』がある。

犬は勘定に入れません…あるいは、消えたヴィクトリア朝花瓶の謎

ハヤカワ文庫版は2009年に登場。上下巻の二巻構成になっている。表紙のテイストは単行本版の方が個人的には好みだったので、変わってしまって残念。

おススメ度、こんな方におススメ!

おすすめ度:★★★(最大★5つ)

ヴィクトリア朝時代のイギリスを舞台とした作品を読んでみたいと思っている方。コニー・ウィリスのエスエフ作品に興味がある方。時間を扱ったエスエフ作品がお好きな方。『ドゥームズデイブック』を読んで、似た世界観のお話を続けて読んでみたいと思っている方におススメ!

あらすじ

時間旅行が可能となった未来のイギリス。戦災で焼亡したコヴェントリー大聖堂の調査を続けるネッドは、責任者のミス・シュラプネルが厳命する「主教の鳥株」の捜索が思うようにいかず疲労困憊。事態をみかねたダン・ワージー教授はネッドをゆっくり休めるヴィクトリア朝の時代へと送りこむ。しかし時間旅行ボケのために、ネッドは大事な使命をすっかり忘れてしまっていて……。

ここからネタバレ

ヴィクトリア朝時代のイギリスが舞台

本来死んでしまう筈のネコを、時間旅行中のヒロインが衝動的に助けてしまったことから歴史の流れに歪みが発生してしまう。出会うべきであった二人はチャンスを逃し、出会うべきでない二人が出会ってしまう。齟齬は連鎖を続け、遂には第二次大戦の帰趨をも左右することに……。

物語は歴史の流れを元通りに戻そうとする主人公カップルの悪戦苦闘を中心に展開していくのだが、彼らの行為そのものが新たな歴史の齟齬となる場合もあって、事態の修正は容易にははかどらない。時空連続帯の危機が迫る中、主人公は正しい歴史を取り戻すことが出来るのか、というのがおおまかな本作の内容。

大長編を楽しむ

本作はとにかく長い。単行本は段組で540ページの特大ボリューム。十分に時間に余裕が持てるときに、じっくりと読み進めることをお勧めする。

なかなか、物語が動き出さず、導入部での取っつきにくさには閉口させられる。しかしヒロインのヴェリティが出てきてからはポンポン話が進むので、それまではじっくりヴィクトリア朝のイギリスの雰囲気を味わいながら、のんびり急がずまったり読み進んだ方が良いかもしれない。

のんびりとしたヴィクトリア朝の時間

貸しボート。運河。がらくた市。厳格な階級社会。降霊会とインチキ霊媒師。性に関しての話題はタブーで、独身女性は一人歩きすら許されなかった時代。素晴らしきかな大英帝国の最盛期。十分にページを割いているだけあって雰囲気作りは十分。現代から見ればおおらかに過ぎるように見えるヴィクトリア朝時代の人々がとても魅力的。読み終えるのが惜しいと思えた作品は久しぶりだ。

タイムパラドックスモノならではの醍醐味

事態を改善するのにはどうすればいいのか、判っているのにいつも邪魔が入って目的を果たすことが出来ない。ハプニング続きで、徹底的に気を持たせるストーリーテリングの冴えっぷりがもはや職人芸。ちょっとした脱線や、些事にすぎないと思えたエピソードもきちんと本筋に絡んでくる。

こういう複雑で込み入った話を書けるひとはどれくらい推敲して書いているのだろうか。キーアイテムとなる「主教の鳥株」はどこにあるのか。どうして消えたのか。そんなミステリとしての楽しみと、歴史は変えることが出来るのか、時空連続帯はいかにして平衡を保とうとするのか、エスエフとしての楽しみを共に満足させてしまう剛腕には痺れるしかない。

これまでに読んだ『ドゥームズデイブック』『航路』に較べて悲惨な箇所が微塵も無い、最初から最後まで明るく楽しい誰も死なない娯楽作品として終わったことも評価したい。

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