ネコショカ

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『鬼憑き十兵衛』大塚已愛 成長物語、ボーイミーツガール、伝奇小説の愉しみ、全てがここにある!


2018年の日本ファンタジーノベル大賞受賞作

2019年刊行作品。大塚已愛(おおつかいちか)のデビュー作である。2018年の日本ファンタジーノベル大賞受賞作だ。ちなみに応募時タイトルは『勿怪の憑』。

鬼憑き十兵衛

作者の大塚已愛は『ネガレアリテの悪魔 贋者たちの輪舞曲』にて第4回角川文庫キャラクター小説大賞・大賞を受賞しており、Wでの大賞受賞デビューを果たしている。

ネガレアリテの悪魔 贋者たちの輪舞曲 (角川文庫)

ネガレアリテの悪魔 贋者たちの輪舞曲 (角川文庫)

 

あらすじ

松山十兵衛は、細川藩の剣術指南役であった父を何者かに殺害される。父の仇を追い求め、殺戮の日々を過ごす十兵衛の前に、僧侶の姿をした謎の男が現れる。己は鬼であると告げたその男は、その血と引き換えに十兵衛に憑りついてしまう。黒幕とされる「御方さま」とは何者なのか。二人はいつしか、藩政を揺るがす陰謀に巻き込まれていく。

新人離れした完成度

『鬼憑き十兵衛』は物語におけるさまざまな要素を内包した贅沢な作品である。

本作には少年の成長物語、バディ(相棒)モノ、ボーイミーツガール、伝奇小説、歴史小説、復讐モノこれら全ての要素が詰め込まれている。それでいて高いリーダビリティを誇り、大きな破綻を見せることなく最後までノンストップで突き進む。新人作家としては信じられない程の完成度に驚かされた。

以下、それぞれの要素ごとに本作の魅力をご紹介していきたい。

少年の成長物語

本作のベースストーリーは、少年十兵衛の成長物語である。

松山十兵衛は父、松山主水(もんど)を細川三斎(忠興)の愛妾安珠によって殺害される。十兵衛は両親とは離され山人の中で育ち、長じてからは父とは知らされぬまま主水に剣術の手ほどきを受け、抜群の腕前を発揮するまでに至る。

十兵衛は主水が死んでから剣の師匠が実の父親であったことを知る。細川藩の武士として生きていく将来を絶たれた十兵衛。彼は父であり剣の道に導いてくれた主水の仇を討つことを唯一の人生の目標として殺戮に明け暮れる日々を過ごす。

まるで野生の獣のようなギラギラとした目。父の仇を探し当ててはただ殺すだけ。そんな殺伐とした生活を過ごしていた十兵衛が、大悲(だいひ)に出会い、そして運命の女、紅絹(もみ)に出会うことで少しずつ変わっていく。

バディモノとしての魅力

大男で息をのむほどの美男子。十兵衛とコンビを組む大悲は鬼と呼ばれる不死の存在である。永劫に近い時を生きてきた大悲は様々な不可思議な術を使い、死者を喰うことでその記憶を読むこと出来る。

あまりに未熟な十兵衛に対して、ほぼ完成系の成人男性として大悲は登場する。大悲は十兵衛が迎える再三のピンチを救い、その精神の成長をも支えていく。どこか浮世離れしていて、のんびりとした大悲のキャラクターは、研ぎ澄まされた刃のような十兵衛の個性とは対極の存在とも言える。凸凹コンビのような二人の道中が実に楽しいのである。

ボーイミーツガールとして

本作のヒロイン紅絹はセイレン(セイレーン)である。故郷である欧州から、拉致されて戦国時代の日本に連れてこられた薄倖の金髪美少女だ。人外の存在であり、不死に近い寿命と再生能力、そしてその声は航海者たちを惑わす力を持つ。その力故に、彼女の喉は潰されており喋ることが出来ない。

外国人であるばかりでなく、最初から最後まで一言も喋らないヒロイン!

ヒロインの設定としては相当に難易度を上げて来たなと、登場時はビックリしたのだが、この二人のやりとりが初々しくてこれまた泣けるのである。彼女の出自や能力、日本に運ばれてきた理由を考えると、悲劇的な結末は容易に想像できる。

十兵衛との出会いは不幸な人生を歩んできた紅絹にとって一筋の光明であっただろう。そして十兵衛自身にとっても、初めて知る異性への想いは、敵討ち以外の行動原理を知るきっかけとなっていく。

絶望的なまでの孤独の中で生きてきた二人が惹かれあい、そして別離を迎える。ボーイミーツガールとしては完璧とも思える筋立てで、これだけでご飯三倍くらい食べられそう。

伝奇小説としての魅力+歴史小説の隠し味

 

忍術を使う渋いオッサン、不死の兵士「継続する丸血留」、人体合成によって作られたエグイ敵、そして妖艶でエロいラスボス。伝奇小説としてのお約束を本作では忠実に踏襲している。スピーディで迫力のある戦闘シーン描写とも相まって、伝奇小説ならではの楽しみもしっかりケアされているのである。

本作では細川藩(熊本藩)を舞台としており、戦国武将として名を馳せた細川忠興(三斎)が登場する。彼の妻ガラシャは、かの明智光秀の子女である。また、歴史背景的に、この物語は島原の乱勃発寸前の時代を描いており、島原や天草の惨状が仄めかされ、隠れキリシタンの暗躍も示される。

しかしながら、これらの歴史的事実は深堀せず、あくまでも背景事情として描かれるに留まる。歴史好きであればニヤニヤしながら読めるところだが、あえて深追いしないのが素晴らしい。本作は書くべきことと、書かないでいいことの切り分けが見事なのである。

最後の最後で「少年の成長物語」に戻ってくる

本作はこれらの様々な要素を盛り込みんだ、物語としての愉しみを堪能できる一作である。完成度の高さに衝撃を受けたのは、ストーリーの最後の最後で、ベースストーリーである、少年の成長物語、敵討ちモノに話が戻ってくるところである。

「松山十兵衛、いざ、参る」の名乗りに震撼させられた読み手は多いのではないだろうか。幾多の危機を乗り越えた来た十兵衛の前に、遂に父の仇である安珠が現れる。しかし、その前に立ちはだかるのは、父主水の肉体を使った傀儡なのである。ここで、父と子の絆まで描いて見せるか!至れり尽くせりの達者な書きっぷりは、本当に新人とは思えない。

続きが気になる!

本作の中ではやがて島原の乱が起きる筈である。細川藩にはあと少しすれば、宮本武蔵もやってくる筈である。冒頭に名前だけ出てきたが、柳生十兵衛の本体は登場しないのか?

そして、大悲の過去エピソードも気になる。神蟲の牙による傷は誰がつけたのか?彼が生きている人間を喰わなくなった理由は何なのか?八尾比丘尼との関係は?

てい人国との関わりも具体的には描かれていないし、紅絹のその後も気になる。この物語はまだまだ謎ばかりである。ネットで見る限り、他の方の評判も良いようなので、続篇を是非とも期待したい。

鬼憑き十兵衛

鬼憑き十兵衛

 

おまけ・表紙と背表紙に注目!

まず表紙だが、一枚絵の中に作品の情報がふんだんに詰め込まれている。大悲の鎖骨のあたりに刺さった神蟲の牙も確認できる。十兵衛の体躯に見合わない長刀、天狗(てんこう)の<狗(こう)>の異常な長さもよくわかる。

足元をよく見てみよう。大悲の影がもしゃもしゃと人を喰っているのがよくわかる。見えにくいが死体も転がっている。

そして注目すべきは裏表紙だ。恥ずかしながらtwitterで教えて頂いたが、危うく気づかずに本をしまってしまうところだった。あえて、詳しくは書かないが、背表紙は絶対確認するように!