re〜シリーズの一作目
2012年刊行作品。ハヤカワSFシリーズ Jコレクションレーベルからの刊行。
作者の法条遥(ほうじょうはるか)は1982年生まれ。『バイロケーション(応募時タイトルは「同時両所存在に見るゾンビ的哲学考」)』が、日本ホラー小説大賞の長編賞を受賞し、2010年に作家デビューを果たしている。
ハヤカワ文庫版は2013年に登場している。解説は佐々木敦。
法条遥の「re〜シリーズ」とは?
法条遥の「re〜シリーズ」は『リライト』から始まる、全四作で構成される作品群である。タイトルは以下の通り。
- 『リライト』(2012年4月)
- 『リビジョン』(2013年7月)
- 『リアクト』(2014年4月)
- 『リライブ』(2015年3月)
『リライト』単刊でも、いちおうの決着はついているのだが、最終的な真相は全四作を読まないと明らかにならないようだ(わたしはまだ読めてない)。今後読んでいく予定なので気長にお待ちを。
おススメ度、こんな方におススメ!
おすすめ度:★★★(最大★5つ)
とにかく複雑な時間エスエフを読んでみたい方、『時をかける少女』っぽいお話が好きな方、1990年代の学生生活を懐かしみたい方、静岡県岡部町、静岡市を舞台とした作品を読んでみたい方におススメ。
あらすじ
10年前に起きた旧校舎の崩壊事件。事故に巻き込まれた園田保彦を救うため、美雪は未来へとタイムリープした。大人になった美雪は、かつての自分がやってくるのを待つが、いっこうに「彼女」は現れない。過去が「リライト」されている?次第に乖離していく記憶と現実。美雪の周辺に現れるストーカーの存在。知らなかったいくつもの悲劇。やがて、驚くべき真相が明かされる。
ココからネタバレ
「時をかける少女」へのオマージュ作品
時間モノの名作にしてオールタイムベストと言えば、筒井康隆の『時をかける少女』であろう。過去に感想をあげているので、よかったらこちらもどうぞ。
『リライト』はこの『時をかける少女』へのオマージュ色が濃厚な作品である。未来からやってきた転校生。ラベンダーの香り。そして作家となった美雪が上梓する作品のタイトルが『時を翔ける少女』なのである。
本作を読むにあたって、筒井康隆の『時をかける少女』は必読ではないが、もはや古典とも言える時間モノの定番なので、お時間があれば読んでおくと良いかと。本作に比べると時間モノとしての難易度もかなーり抑え目である。
複雑なループの世界
『リライト』では2002年の現代パートと、1992年の過去パートが交互に描かれる。現代パートの視点は美雪なのだが、過去パートの視点は良く読むと全て違う人物であること気付く。1992年パートのヒロインをまとめるとこんな感じ。
- プロローグ:大槻美雪(結婚前の石田美雪)
- 1992年①:桜井唯
- 1992年②:長谷川敦子
- 1992年③:増田亜由美
- 1992年④:林鈴子
- 1992年⑤:雨宮友恵
おいおい、ヒロイン何人いるんだよ!と、読み手のアタマはこんがらがってくる。よくもまあ、これだけ複雑な作品を思いついたものである。
本作で、作者が作り上げたループ構造は、非常に複雑かつ手の込んだもので、このもつれにもつれた世界を現実化した園田保彦の長年の労苦を考えると同情の念を禁じえない、、と書こうと思ったけど、やってることがけっこう非道だから自業自得という気も……。
時間の牢獄に繋がれた彼が、今後どうなっていくのかは、続篇を読めってことなのかな。本人の描写があまりなくて、感情移入がし難いのが難点。
静岡県岡部町。かつての宿場町の風景を味わう
この物語は、静岡県岡部町(現藤枝市)を舞台としている。岡部は、旧東海道の宿場町として栄えた町だ。現在でも国道一号や、東名高速、東海道本線や新幹線といった交通の大動脈が域内を通過しているものの、立地的に鉄道駅が作られず、町としての繁栄を静岡や藤枝に奪われてしまった経緯がある。
市街としての発展に取り残された反面、古い町並みが残されているのが魅力である。作中では、古い宿場町での夏の光景が鮮やかに描き出され郷愁を誘う。
余談ながら、かつて旧街道ハイカーであったわたしは、2000年頃の岡部を訪れているので、ちょっとだけ当時の写真をご紹介しておこう。物語的には「現在」パートと同じころである。
その他の時間モノの名作としてこちらもおススメ