「閻魔堂沙羅の推理奇譚」シリーズの五作目
「閻魔堂沙羅の推理奇譚」シリーズの全巻読破企画の五回目。
本作は2019年に刊行されている。木元哉多(きもとかなた)の五作目の作品である。デビュー二年で五冊刊行とはあいかわらず凄まじい執筆速度である。一定のクオリティを保ちつつ、早くたくさん書けるというのは作家にとっては大きな武器だよね。
おススメ度、こんな方におススメ!
おすすめ度:★★★(最大★5つ)
スポ根小説・マンガが好きな方、学園ラブコメが好きな方、犯人当てを自分でもやってみたいと思う方、短時間で手軽に読めるライトミステリを探している方におススメ。
あらすじ
高校生の相良大地は、学園屈指のイケメンとして女子の人気が高いが、未だに誰とも付き合ったことが無かった。しかし、彼はクラスで苛められている神里亜弥に一目惚れしてしまう。彼女はどうしてイジメを受けているのか。その背後には、クラスのリーダー的な女子生徒、佐々岡鳴海の存在があった。鳴海の謎の行動にはどんな意味があるのか。真相を追う、大地と亜弥だったが悲劇が彼らを待ち受けていた。
ココからネタバレ
バラエティ豊かな作品集
シリーズ五作目となる今回は、三編の物語が収録されている。
自分を殺した犯人を死者が当てる!閻魔堂の主、沙羅に謎解きゲームで勝利すれば甦ることが出来る。「死者復活・謎解き推理ゲーム」はミステリのシステムとして秀逸なのだが、どうしても何度も続けていればマンネリ化のリスクがある。
それだけに作者としては、様々な人物設定や、世界観、トリックを用意して読者を飽きさせない工夫をしなくてはならない。今回はスポ根小説、学園ラブコメ、スピリチュアル展開と全く異なるテイストの三編が提供されており、作者のサービス精神に感心させられた。
では、今回も各編ごとにコメントしていこう。
澤木夏帆 23歳 元バドミントン選手 死因・轢死
バドミントンのオリンピック選手であった澤木夏帆(さわきかほ)は、靭帯の断裂により引退を決める。生まれ持っての圧倒的な才能だけでプレイをしてきた彼女には競技への執着心が薄い。父、明嵩(あきたか)の死をきっかけに、ふたたびバドミントンに向き合おうとする夏帆だったが、思わぬアクシデントが彼女を襲う。
容疑者は以下の皆さん。
- 澤木南緒(さわきなお):バドミントン選手。夏帆の姉。泥臭いプレイが信条
- 志田舞(しだまい):バドミントン選手。世界3位の実力者
- 内山静香(うちやましずか):バドミントン選手。小六。若手の有望株
- 小野寺典広(おのでらのりひろ):地元のクラブチームの監督
- 稲葉弘保(いなばひろやす):バドミントン日本代表監督
- 美輪洋介(みわようすけ):バドミントン日本代表コーチ
静香の残したバドミントンのシャトルから犯人当てるのって難しくない??とっさにそれが出来た静香も凄いけど、その手がかりから正解までたどり着けた夏帆も凄い。
それにしても木元哉多は、スポ根小説を書かせても上手い。競技に賭ける人々の想いや、試合の空気感がしっかり伝わってきてこの先が読みたくなるのである。そろそろこの人は、「閻魔堂沙羅の推理奇譚」以外の作品を書いてもいい頃だと思う。是非読んでみたい。
相楽大地 17歳 高校生 死因・圧死
今回のサブタイトル「落ちる天使の謎」は本作から取られている。好きな女の子が苛められている。主人公である相良大地(さがらだいち)、イジメの原因を探っていたら、屋上から当の本人が落ちてくる。懸命に受け止めようとするものの、落ちてきた女の子に潰されて、大地は圧死してしまう。自殺、他殺、それとも事故なのか?
空から落ちてくる美少女を受け止めるのは、男子憧れのシチュエーションだが、ファンタジー世界ならいざしらず、比較的軽めの女性でも体重40キロ台はあるわけで、現実世界でそれをやったら死んでしまう。死因としてはかなり悲惨なうちの一つであろう。
容疑者は以下の皆さん。
- 井筒敦史(いつづあつし):高校生。大地の友人。佐々岡鳴海と以前交際していた
- 野沢富美加(のざわふみか):高校生。ミス文高。大地に告白するが振られる
- 神里亜弥(かみざとあや):高校生。大地の想い人。眼鏡を美人。イジメを受けている
- 佐々岡鳴海(ささおかなるみ):高校生。バレー部。クラスの中心的な女子
- 津村耕太(つむらこうた):前の担任教師。突然退職してしまう
神里亜弥がどうして落ちてきたかは、あまり他の選択肢もないので、比較的結論にたどりつくのはカンタンそう。
受けたのは落下してきた亜弥の助け方。沙羅のマントにそんな使い道があったとは(笑)。感触的にかなり気持ち悪そう。しかも沙羅本人もマントを持って助けるところがローテクで笑える。
土橋昇 39歳 子会社社長 死因・渇え死に
海難事故で大企業の御曹司の命を救ったことから、実力不相応な地位にまで昇りつめた土橋昇(どばしのぼる)が主人公。子会社の社長の地位に安住していたところ、思わぬ恨みを買い、別荘の地下室に監禁されてしまう。果たして彼を殺したのは誰なのか「渇え死に」とは相当に苦しそう。
容疑者は以下の皆さん。
- 野田(のだ):土橋の会社の社員。50歳。無能でリストラされてしまう
- 土橋智代里(どばしちより):土橋の妻。岩永と不倫している
- 岩永浩貴(いわながこうき):弁護士。
- 雲龍院秋輔(うんりゅういんしゅうすけ):オーナー一族の跡取り息子
- 雲龍院和正(うんりゅういんかずまさ):秋輔の父。故人。
- 雲龍院勇輔(うんりゅういんゆうすけ):土橋の友人。秋輔の兄。故人。
- 鈴木創一(すずきそういち):秋輔の研究室の後輩。天体観測仲間
このシリーズでは珍しい失敗パターン。デフォルトが地獄行きだし、制限時間も「3分」とハードモードである。
そして、まさかのスピリチュアル展開!「輪廻転生はある」。雑談のように思えた、最初の沙羅との会話の中にヒントが隠されているとは。
次回は初の長編作品!
シリーズ六作目となる『閻魔堂沙羅の推理奇譚 金曜日の神隠し』は初の長編作品となっているらしい。この作品のシステムで、長編をいかにして成立させているのか気になる。もうすぐドラマ版も始まるようなので、早めに読んでしまうつもり。
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