ネコショカ

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往年の「孤島モノ」作品への言及が楽しい、古野まほろ『天帝の愛でたまう孤島』


シリーズ三作目は孤島モノ

2007年刊行。シリーズ三作目。

天帝の愛でたまう孤島 (講談社ノベルス)

デビュー作の『天帝のはしたなき果実』が2007年の1月刊行。第二作の『天帝のつかわせる御矢』が2007年の6月刊行。そして本作が2007年の10月刊行なのだけど、全作500頁を超える大ボリュームなのに、こう矢継ぎ早に刊行出来るのは何故なのか?ここまでは書き溜め分だったのだろうか?

背表紙の著者挨拶に「三部作が夢でした」とあるが、ここで終わるはずはなく。次巻の『天帝のみぎわなる鳳翔』までは一年以上刊行間隔が空くことになる。

文庫版は、幻冬舎より2014年に刊行。この際に、かなりの改稿がなされている。

天帝の愛でたまう孤島 (幻冬舎文庫)

天帝の愛でたまう孤島 (幻冬舎文庫)

 

あらすじ

絶海の孤島天愛島。頸草館高校吹奏楽部有志と生徒会による一団は、夏休みのひとときを過ごすためこの地を訪れていた。この島には隠れキリシタンによる莫大な財宝が眠ると噂されており、その在りかは古来より伝えられてきた祈歌にあるのだと云う。滞在初日。館とコテージに分かれて夜を過ごした彼らだったが、早くもその夜に異変は起きた。

今回の舞台は「孤島」

今回のお題はクローズドサークル。南海の孤島天愛島が舞台となる。修野さんと栄子ちゃんが購入した天愛島。高校生で島所有って、そんなところに突っ込む人はもうこのシリーズを読んでいないだろうからその点はスルーで。天愛島はかつては津軽伯爵家の所有物。津軽家の断絶により修野子爵家に売却話が回ってきたらしい。

天愛島には外洋を航行出来る船舶が停泊できる港湾部。本館である天愛館部分。そして砂洲に作られたコテージ棟が存在する。この島には野生のマングローブ林が密生しており、それぞれの地域間は船舶でしか移動出来ない。河川には獰猛なピラニアが生息しており泳いでの移動も不可。もちろん徒歩での移動は不可という設定になっている。

往年のクローズドサークル作品ネタが登場して楽しい

過去二作では往年の名作へのオマージュ色を濃厚に押し出してきたこのシリーズ。孤島モノの今回は『そして誰もいなくなった』や『十角館の殺人』 『孤島パズル』などなど、いにしえのクローズドサークルネタが続々と登場。ミステリオタとしてはたまらない展開である。逆に言うと、これらの作品を読んでいないと、少々読みに進めるのが辛いお話かもしれない。

クローズドサークル下におかれた登場人物が、過去の名作群から今後の展開を類推するのは別に珍しいケースでは無いけれど、クリスティクラスの古典ならまだしも、綾辻や有栖川みたいな新本格期の作家まで引っ張り出されてくると、読んでいる自分も年を取ったなという気持ちにさせられる。「十角館」の登場からもう四半世紀以上も経ってしまっているのである。

初期三作中、もっとも「ミステリ」作品っぽい

序盤にかなり判りやすい伏線があるので、事件の動機部分についてはわりとバレバレ。だが、ミステリとしての構造は非常に精緻に組まれていて感心した。普通にミステリ作品として読んだら三作中このお話が一番読めるのではないかと思う。普通の人は一巻で挫折すると思うけど。ただ終盤の推理合戦が無かったのはかなり残念かな。期待していたのだけど。

密室殺人の謎解きについては満足のゆく解決を示したものの、埋蔵金や、天愛島そのものについての解決はあまりに急ぎすぎ。予想通りのトンデモ展開は、このシリーズだから許容範囲内なのだけど、ちょっと詰め込みすぎだったかな。なんだかとても勿体なかった。個人的にはそんなことよりも、由香里ちゃんの出番が無かったことの方が遙かに罪は重いけどね。

アンチミステリ成分も健在(笑)

しかし毎回毎回、相も変わらず最後の最後になって全ての努力を踏みにじられ愚弄される探偵役が悲惨。至高界から探偵存在を嘲け笑うアンチミステリなふるまいは今回も健在なのであった。まほろをあんな役どころでしか使えないのであれば、そもそもこの島に連れてこなければ良かったと思うのだけど、それじゃ物語が始まらないのだろうね。

天帝の愛でたまう孤島 (講談社ノベルス)

天帝の愛でたまう孤島 (講談社ノベルス)