第二次大戦下のドイツを舞台とした作品
作者の皆川博子(みながわひろこ)は1929年(もしくは1930年)生まれで、1970年のデビューから現在に至るまで、連綿と現役の作家として活動を続けている。80代に入っても一向に刊行ペースが衰えない驚異の作家である。
『死の泉』は1997年刊行作品。第32回の吉川英治文学賞を受賞している。
ハヤカワ文庫版は2001年に登場している。
あれ、いつの間にか文庫版のデザインが変わってる!昔はこんなデザインだったはず↓。
おススメ度、こんな方におススメ!
おすすめ度:★★★★★(最大★5つ)
第二次大戦中のドイツを舞台としたミステリ(ホラーでもあり、ファンタジーでもある)作品に興味のある方。皆川博子作品ならではの狂気と幻想の世界に惹かれる方。「命の泉(レーベンスボルン)」という言葉にピンとくる方におススメ!
あらすじ
第二次大戦中のドイツ。私生児を身篭ったマルガレーテはナチスの施設「命の泉(レーベンスボルン)」に身を寄せていた。日々の糧を得るためにナチスの医師クラウスの求婚を受け入れたマルガレーテだったが、不老不死を研究するクラウスは忌まわしき人体実験に手を染めていた。激しさを増していく戦況の中で、クラウスの狂気がマルガレーテを追い詰めていく。
ここからネタバレ
実在したナチスの育児施設が舞台
「命の泉(レーベンスボルン)」はナチスが建設した育児施設である。優秀なアーリア民族の血統を守ることを至上命題とし、各地の占領地から「保護」された幼児たちが養われている。この設定だけで背筋が震えてきたのだが、驚くべきことに、戦争中のドイツでは実際に存在した施設なのだそうだ。
詳しくはWikipedia先生をどうぞ。
皆川博子が贈る狂気と幻想の世界
史実に裏付けられたリアリティなのだろうか。レーベンスボルンの汚濁に塗れた地獄絵がありありと浮かび上がってくるのだ。狂気の医師、天使の声を持つポーランド孤児、薬物投与で成人させられた少女、双頭のカストラート、地下迷宮、そして忘れ去られた古城。作者独特の美への憧憬によって全編が貫かれている。狂気の医師クラウスによってもたらされる悪夢の世界は、禍々しくもなんと美しいことだろうか。
本作は、皆川博子構想十年の大作(当時)であったらしい。確かにこれは量産の効く作品じゃないよなあ。かくも感動的な大団円で締めくくっておきながら、最後の最後に「あれ」が待っているのである。ほとほと愕然とさせられる怪作なのだ。
この作品を読む際には、十分な時間を確保してから臨みたい。いざ、読み始めて調子に乗ってきたら、もうページをめくる手は止めれないのだから。物語読み冥利に尽きる至福の時を過ごさせてくれる一冊であることは保証できる。
あわせて読むなら
深緑野分の『ベルリンは晴れているか』がお勧め。こちらは、第二次大戦直後のベルリンを舞台とした作品だが、本作と続けて読むと楽しいかもしれない。チラッとだけど、「命の泉」もちょこっと言及されている。。
舞台版『死の泉』
劇団スタジオライフによる舞台版『死の泉』が存在する、1999年から繰り返し上演されている演目だが、2020年2月に新バージョンが登場するもよう。今回で四回目かな?
スタジオライフはかれこれ四半世紀ほど前に一度だけ観に行ったことがある。依然として健在であるようでうれしい限り。