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『アンデッドガール・マーダーファルス3』青崎有吾 人狼の里で起きた連続殺人事件の謎

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「アンデッドガール・マーダーファルス」シリーズの三作目

2021年刊行作品。『アンデッドガール・マーダーファルス1』『アンデッドガール・マーダーファルス2』続く、青崎有吾(あおさきゆうご)による「アンデッドガール・マーダーファルス」シリーズの第三作になる。前作が2016年刊だったので、なんと五年振りのシリーズ続巻で、初期から追いかけてきた方はビックリしたのでは?普通、五年も新刊が出なかったらシリーズ終わったと思うよね。

アンデッドガール・マーダーファルス 3 (講談社タイガ)

表紙イラストを描いているのは今回も大暮維人(おおぐれいと)。一巻の頃とタッチが全然変わってるけど、五年も経過しているのだし仕方がないか……。登場しているのは鳥籠使いの三人?となるとセンターは輪堂鴉夜(りんどうあや)なのか。全身が描かれているのは新鮮な感じがする。

おススメ度、こんな方におススメ!

おすすめ度:★★★(最大★5つ)

特殊設定の要素をふんだんに盛り込んだ本格ミステリ作品を読んでみたい方。人外VS人外の白熱のバトル展開を楽しみたい方。19世紀の欧州世界を舞台としたミステリ(&伝奇)作品を読んでみたいと思っている方におススメ。

あらすじ

次なるターゲットは人狼。その姿を追い求めて、ドイツ山中、ホイレンドルフ(遠吠え村)を訪れた鳥籠使いの三人。この地では、人狼が出没し、村の少女たちが次々に連れ去られているのだという。人狼たちが住まう村はどこにあるのか?夜宴(バンケット)やロイズの一党もホイレンドルフに参集。凄惨なバトルが展開されていく。

ここからネタバレ

登場人物まとめ

今回も登場するキャラクターをグループごとに雑にまとめておこう。

鳥籠使い:怪物専門の探偵一味

  • 輪堂鴉夜(りんどうあや):美少女。後天的な不死者で、963歳。肉体的な年齢は14歳。主に謎解きを担当
  • 真打津軽(しんうちつがる):怪異を殺せる半人半鬼の鬼殺し。動けない鴉夜の手足となって働く。戦闘&ヨタ噺担当
  • 馳井静句(はせいしずく):一族で古くから鴉夜に仕えているメイド。お茶を淹れるのが上手い。

夜宴(バンケット):「教授」が率いる謎の犯罪組織

  • カーミラ:吸血鬼。前作より静句とは宿敵とも言える間柄に
  • アレイスター・クロウリー:魔術?を操る狡猾な青年。
  • ヴィクター:人造人間。夜宴の中ではいちばんの常識人かも

ロイズ諮問警備部:保険機構の武装エージェント

  • アリス・ラピッドショット:第三エージェント。拳銃を使う
  • カイル・チェーンんている:第四エージェント。鎖を使う

ホイレンドルフ関係者:人狼の存在に怯える村

  • ホルガー:村長
  • グスタフ:猟師。娘を人狼に攫われている
  • ルイーゼ:グスタフの娘。人狼によって誘拐された
  • ハイネマン:医師。村の外部の出身
  • クヌート:技師。村の外部の出身
  • アルマ:絵描き。村の外部の出身

ヴォルフィンヘーレ関係者:人狼たちの里。住人は全員人狼

  • レギ婆:ヴォルフィンヘーレの長老
  • ギュンター:自警団を率いる隊長
  • ノラ:村娘
  • ヴェラ:村娘
  • カーヤ:村娘

シリーズ三作目は大長編

過去二作は複数の章で構成されていて、中編作品を一冊の本にしました。というスタイルだった。しかし第三巻は第五章「人狼」の単独章で構成されており、シリーズ初の大長編(478頁)となっている。第五章「人狼」はさらに細かな32の章と5つの挿話で構成される。

所属する陣営についても、鳥籠使い、夜宴(バンケット)、ロイズ、更にはホイレンドルフ、ヴォルフィンヘーレと5つものグループが存在し、かなり込み入った展開を構成している。登場人物が多く、頭がこんがらがりそうになるので、迷った時は冒頭の「登場人物」一覧を見返すと良いだろう。

二つの村で進行する連続殺人

「アンデッドガール・マーダーファルス」シリーズの魅力は、まずなんといっても丁寧に作りこまれた特殊設定ミステリの楽しさだろう。今回登場する怪物は「人狼(じんろう)」だ。彼(彼女)らは、強靭な身体能力を誇り、二本(人間モード)、五本(狼モード)、三本(獣人モード)の三形態を使い分ける。ここで登場する「本」とは足と尻尾の合計数を指す。二本モードの時の人狼は、普通の人間とまったく見分けがつかない。しかし、五本、三本モードに変移したとき、人狼は驚異的な身体能力を発揮することが出来る。

ホイレンドルフとヴォルフィンヘーレでは、それぞれで村の少女が次々に行方不明になる事件が続いている。しかもその人数、タイミングまでもが一致している。なんとも手の込んだ設定を用意したものだが、しっかり人狼ならではの特殊能力を織り込んだミステリ的な解法が示されているのが素晴らしい。

バトルパートも楽しい

特殊設定ミステリと並んで、本シリーズのもう一つのウリは伝奇アクションパートだ。鳥籠使いVS夜宴(バンケット)VSロイズの三つ巴バトルが楽しい。今回の対戦ラインナップはこんな感じ。

  • カイル・チェーンメイル VS ヴィクター
  • アリス・ラピッドショット VS アレイスター・クロウリー
  • 馳井静句 VS カーミラ
  • 真打津軽 VS ノラ

ヴィクターの手動ロケットパンチには笑った。しかし、ロイズの皆さんが、すっかり「噛ませ」的な立ち位置になっているような……。毎回最後はボコられて終わるからちょっと可哀想。終盤に第一エージェントのオックス・セブンリーグ、第二エージェントのジャンクソードなる人物が登場したけど、彼らはもうちょっとは強いのだろうか。

静句とカーミラの女の戦いは、ファンサービス的な側面も強い因縁のバトル。今回も痛み分けに終わり、さらに因縁が積みあがっていきそうな気配。輪堂鴉夜が戦えないだけに、静句ちゃんはこの先、実質的なヒロインポジションを占めてきそうな気もする。

ベースとなる戦闘能力は高いんだろうけど、加えてはったりや、駆け引きで更に強さを増している真打津軽の戦い方も面白い。ジョジョ第二部のジョセフ・ジョースター的な趣きがある。

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