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『彼女は存在しない』浦賀和宏 どの「彼女」が存在しないのか?

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浦賀和宏、初の非講談社系作品

2001年刊行作品。作者の浦賀和宏(うらがかずひろ)は1978年生まれ。1998年の『記憶の果て』で第5回メフィスト賞を受賞してデビュー。ちなみに、メフィスト賞デビューの同期生としては、乾くるみ『Jの神話』、積木鏡介『歪んだ創世記』がある。

多くの作品を世に送り出したが、残念ながら2020年に41歳の若さで早逝されている。

本作は浦賀和宏としては第7作目の作品であり、当時としては初の非講談社系作品でもあった。

幻冬舎文庫版は2003年に登場している。

彼女は存在しない (幻冬舎文庫)

おススメ度、こんな方におススメ!

おすすめ度:★★★(最大★5つ)

作者に見事に騙されてみたい方。騙されないぞ!と気合を入れてミステリ作品を読んでみたい方。心理サスペンス的な要素の強いミステリがお好きな方。安藤直樹も、八木剛士も出てこない、ノンシリーズ系の浦賀和宏作品を読んでみたい方におススメ。

あらすじ

香奈子と貴治が出会った奇妙な女、由子は明らかに様子がおかしかった。「あなたはアヤコさんではないですか?」と執拗にいいつのる由子を、貴治はちょっとした好奇心から家に連れ帰る。一方、大学生根本は、引き籠もりを続ける妹の亜矢子が、実は多重人格障害であることを知る。その数日後貴治は何物かに刺殺される。その背後には一人の女の影が見え隠れしていた。

ここからネタバレ

「浦賀小説」を賛美せよ!

本作は浦賀作品の中では、いずれのシリーズにも属さない、ノンシリーズ系のタイトルである。しかし安藤直樹シリーズだろうが、松浦純菜(八木剛士)シリーズだろうが、、浦賀和宏の書く小説である以上、それはミステリでもホラーでもなく「浦賀小説」である。心の中のなにかが壊れたキャラクターたちが織りなす、不生産で不毛で欲望ドロドロで、それでいてどこか名状しがたい切なさが奇跡のようにラストに漂う物語群。それが「浦賀小説」なのだ。本作もその例に漏れない。

多重人格がもたらす悲劇

って、のっけから少々褒めすぎのような気もするが、本作もとても良かったのだ。なにしろタイトルが『彼女は存在しない』なのだ。『眠りの牢獄』でしっかりしてやられた読者としては、今度こそ浦賀には騙されないぞ!と心に誓って読み進める。

いったいどの彼女が「存在しない」のか、選択肢は限られているのに最後までミスリードされまくりなのであった。用心していたわりにはキレイに騙されてるあたり、かなり頭が悪いのかもしれない>自分。一人称の彼女が一番怪しいのは分かり切ってる筈なのにね。

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