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『蜜の森の凍える女神』関田涙 第28回のメフィスト賞受賞作&ヴィッキーシリーズ三部作

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当ブログ開始初期からの不定期連載企画、メフィスト賞作品、全作感想書くぞシリーズも今回で31作目。メフィスト賞は現在第62回まで開催されているので(2020年8月現在)、これでようやく半分。先が長すぎる!

本日、第28回のメフィスト賞受賞作、関田涙『蜜の森の凍える女神』である。併せて、本作を含めて、全三作となっているヴィッキーシリーズについてもご紹介したい。

おススメ度、こんな方におススメ!

おすすめ度:★★★(最大★5つ)

「読者への挑戦」について考えるのが大好きな方、ミステリと言えば本格だろ!という方、ちょっと毛色の変わった本格ミステリを読んでみたい方におススメ。

ココからネタバレ

『蜜の森の凍える女神』関田涙のデビュー作

2003年刊行作品。第28回のメフィスト賞受賞作であり、関田涙(せきたなみだ)のデビュー作である。関田涙は1967年生まれ。

女子高生名探偵ヴィッキーシリーズの第一作。本作が登場するまでのメフィスト賞は『それでも、警官は微笑う』『死都日本』『フレームアウト』と、非本格系のミステリ作品の受賞が続いたので、メフィスト系では久々にまともな本格推理作品の登場ということになる。第24回の『『クロック城』殺人事件』以来かな。

蜜の森の凍える女神 (講談社ノベルス)

なお、ノベルス版のみで、文庫化はされていない。

あらすじ

姉とその友人と共に高原の別荘を訪れた「僕」。しかし三人は吹雪に追われ避難してきた大学生の一行を館に招き入れる羽目になる。吹雪に閉じこめられた山荘内で、座興として始められた探偵ゲームだったが、翌朝本物の刺殺死体が発見され事態は急変を遂げる。疑心暗鬼の空気が立ちこめる中、女子高生名探偵の推理が冴え渡る。

 「読者への挑戦」付き!

本作は本格ミステリ定番のアレ、「読者への挑戦」がついてくる。当然アホなわたしはまったくわからなかった(笑)。

それにしても地の文章の硬さを中学生の「僕」が書いたせいにしてしまうのはいいアイデア。新人作家はこの手を使うといいんじゃないだろうか。ヴィッキーちゃんの豪腕恐るべしである。真相そのものはありきたりだけど、「僕」の個人的事情はまるで予想出来なかったのでそれなりに満足。思わせぶりに描いてきた、五十年前に死んだ絵描きとの絡みがイマイチ弱いのが惜しまれる。

蜜の森の凍える女神 (講談社ノベルス)

蜜の森の凍える女神 (講談社ノベルス)

  • 作者:関田 涙
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2003/03
  • メディア: 新書
 

『七人の迷える騎士』

ヴィッキーちゃんシリーズ第二弾。今回も挑戦状つきである。2003年刊行作品。本作もノベルス版のみで文庫化はされていない。

七人の迷える騎士 (講談社ノベルス)

あらすじ

更衣室に仕掛けられた奇妙な密室。子猫の死体と奇怪な暗号文は何者かの残した警告なのか。果たして、一年後に起きた連続殺人事件は、平和な校内を争乱の坩堝に叩き込む。白雪姫の見立て通りに進んでいく殺人。犯人、スノウ・ホワイトの目的は何なのか。美少女名探偵ヴィッキーの名推理が冴え渡る。

伏線がわかりやすすぎるような

 相変わらず不真面目な読者なので、トリック関連はサッパリ判らないながらも、ジェンダーに関するネタが頻繁に出てき過ぎるのでなんとなくオチの予想がついてしまう。もうちょっとさりげなく伏線を織り交ぜられるようになると、この人はもっと良くなると思うのだけど。

でも、一番最初の更衣室の事件があまりにひねり過ぎなのではないかと。この時点ではヴィッキーの探偵スキルは世に知られていなかったわけで、誰にも気付いてもらえないままスルーされていた可能性が高いんだけど。それでも良かったのか>犯人。

七人の迷える騎士 (講談社ノベルス)

七人の迷える騎士 (講談社ノベルス)

  • 作者:関田 涙
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2003/07/01
  • メディア: 新書
 

 『刹那の魔女の冒険』

2004年刊行。女子高生名探偵ヴィッキーちゃんシリーズの三作目にして最後の作品である。本作も過去二作同様、ノベルス版のみで文庫化はされていない。

刹那の魔女の冒険 (講談社ノベルス)

 

あらすじ

人気小説『ヴィッキーの隠れ家』の続編が十年ぶりに発売される。自らのニックネームの由来となった作品の復活に心躍らせるヴィッキー。しかし刊行記念サイン会の場で惨劇は起きた。作者関田涙は無惨な惨殺死体となり果て、あろうことか刊行されていた本の内容が消えてしまう。事件を解く鍵は物語世界の中に?二人のヴィッキーの対決はいったい何をもたらすのか。

二通りの読み方できる

本作は異なる二通りの読み方が出来るように書かれている。

(1)指定された章のみを読む
(2)最初から最後まで全部読む

片方の読み方をしてしまうと、もう片方の読み方では二度と読めなくなる。いきなり重大な決断を迫られることになる。これは難しい選択だ。購入から三年悩んだ末に(笑)、結局最初から最後まで全部通して読むことにした。

本作では漢数字の章と、算用数字の章が交互に綴られていく形式になっている。漢数字の章は既刊二作『蜜の森の凍える女神』『七人の迷える騎士』に似た設定の殺人事件を翻案したかのような内容。でも内容もトリックも違っている。

そして算用数字の章は作家関田涙殺人事件についての真相解明編。作品の造りがメタ構造になっている旨は最初に提示されていて、それぞれの章の記述が作品全体の中でどのような意味合いを持つのか、その場面がどの階層に属しているのか(2)の読み方を選択した場合、そんなことも考えながら内容を捉えていく必要がある。って、難しい~。

現実世界ではあり得ない殺され方をした、関田涙の死の真相を追い求め、虚構の世界へ乗り込むヴィッキーちゃんと主人公。書かれた世界に書いた側が乗り込むのはまだ理解出来るにしても、書かれた側が、書いた側に干渉出来るのはあり得ないのでは?

訪問先の虚構世界はなんちゃってファンタジー世界なので、これまで普通のミステリ作品だと思ってこのシリーズを読んできた人間にとってはものすごい違和感。非常に読みにくい。虚構世界にもヴィッキーちゃんが居て、元のヴィッキーとの区別がこれまた実に紛らわしい。意図的にやっているのだろうけど、単にリーダビリティを下げているだけのように思える。

結果的に本作はこの作家自らのデビュー作ヴィッキーちゃんシリーズを、自身で葬る結果に終わっている。勇気ある決断だと思うが、かけた手間と志の高さのわりには内容が伴わなかったように思えるのだけど。

刹那の魔女の冒険 (講談社ノベルス)

刹那の魔女の冒険 (講談社ノベルス)

  • 作者:関田 涙
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2004/02
  • メディア: 新書
 

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