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『閻魔堂沙羅の推理奇譚 業火のワイダニット』木元哉多 どうして彼は殺されたのか?

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「閻魔堂沙羅の推理奇譚」シリーズの三作目

2018年刊行作品。先月から開始した「閻魔堂沙羅の推理奇譚」シリーズの全作読破企画の三回目である。作者の木元哉多(きもとかなた)としてもこれが三作目。2018年はこのシリーズ、いきなり四冊も刊行されているんだよね。すごい執筆速度である。

閻魔堂沙羅の推理奇譚 業火のワイダニット (講談社タイガ)

秋にドラマ版が放映されるまでに全巻読み終えるのが目標。このペースなら、なんとかなりそうかな。

おススメ度、こんな方におススメ!

おすすめ度:★★★(最大★5つ)

隙間時間にサクッと読めるミステリ作品を求めている方に、ちょっとジーンと来るいい話を読みたい方、犯人当てゲームを楽しみたい方におススメ。

あらすじ

不幸続きの人生の中、自宅で謎の死を遂げた冴えない女。溺死した孫を助けるために自身も転落死してしまった老人。親友だと思っていた男に焼き殺された浪人生。どうして彼は殺される必要があったのか。閻魔堂沙羅との勝負に勝てば甦ることが出来る。死者復活をかけた奇妙な推理ゲームが、今日も冥界で繰り広げられていく。

ここからネタバレ

「死者復活・謎解き推理ゲーム」が今回も面白い

閻魔大王の娘、沙羅ちゃんとの「死者復活・謎解き推理ゲーム」に勝てば、現世に復活出来る!この設定を思いついただけで勝ったようなもので、毎回趣向を凝らした推理ゲームを提供してくれるのが本シリーズである。

一作目は比較的善人ばかりを、二作目では悪人や癖のある人物たち、そして三作目となる今回は、本当はいい人なんだけど、ちょっと拗らせてしまっていたり、人生に行き詰ってしまっている人々が登場する。

「死者復活・謎解き推理ゲーム」はシステムとして完成されている反面、どうしてもワンパターンになりがちであるだけに、挑戦者のキャラクターでお話のバリエーションを出していくのは必要なことなのであろう。

では、以下、簡単に各編をコメント。

外園聖蘭 30歳 契約社員 死因・?

主人公の外園聖蘭(ほかぞのせいらん)は「努力しても、このブサイクな顔がすべてを帳消しにしてしまう」究極のブスとして描かれる。彼氏なし。契約を円著してもらえず定職もなし。不幸続きの人生を送ってきた彼女には絶望しかない。そんな彼女が殺されてしまう。果たしてどんな事情が考えられるのか?

今回の容疑者リストはこちら。

  • 岡島美々香(おかじまみみか):高校以来の親友。ミュージシャン
  • 曾根伸弥(そねしんや):ゼミの一年後輩。大手保険会社勤務
  • 外園(母):聖蘭の母親
  • 正和(まさかず):聖蘭の母親の弟

豪華な料理を用意したり、新品のネグリジェを購入したりと、聖蘭が殺される前の母親の挙動があからさまに怪しいので、比較的気がつきやすいかな?保険会社勤務の曾根伸弥がミスリードを誘うところなのかもしれないが、殺人までするリスクを冒すとは思えない。

聖蘭に対する沙羅の裁定は天国行き。聖蘭の場合は推理ゲームに敗れても天国に行けるという、かなり甘めのルール設定となっている。苦労してきた人には沙羅は優しいよね。何もしないなら何も起きない。前に進んでいくことで人生は良くなっていく。正解した後の人生アドバイスも超親切なのであった。

仙波虎 78歳 無職 死因・転落死/遠山賢斗 11歳 小学生 死因・溺死

シリーズ初の挑戦者が二人のパターン!

家族が同時に事故で死んだような場合に、お互いを強く思いあっていると魂がくっついて一緒に運ばれてきてしまう事例があるみたい。

仙波虎(せんばとら)は人口500人の過疎村の元村長で、いわゆる偏屈な頑固ジジイ。末期の胃ガンで余命一年と宣告されている。遠山賢斗(とおやまけんと)は、虎の内縁の妻、典子(故人)の孫。虎には退職金として2,000万円の資産があり、この金を巡って事件が起こる。

容疑者リストはこんな感じ。

  • 野口英道(のぐちひでみち):村で唯一の弁護士。
  • 仙波弦太(げんた):虎の長男。高校教師
  • 仙波恒泰(つねやす):虎の次男。中小企業のサラリーマン。妻が病気
  • 仙波諒太郎(せりょうたろう):恒泰の息子
  • 仙波丑男(うしお):虎の弟。左官職で飲んだくれ
  • 丸高喜和子(まるたかきわこ):虎の妻、梅子(故人)の妹

虎と賢斗に対する沙羅の裁きは、二人とも天国行き。今回も、正解できなくても天国に行けるという優しいゲーム設定である(ゴネたら虎は地獄行きのようだが)。

賢斗の事件に諒太郎が関与している時点で、なんとなく犯人の想像はつくけど、入れ替えのトリックまでは気づけなかったかな。今回は賢斗がいなかったら、どう考えても正解は出来なかったと思われるので、二人で挑戦して大正解といったところか。

土田裕太 19歳 浪人生 死因・焼死

主人公の土田裕太(つちだゆうた)は天涯孤独の身。父親はそもそもおらず、シングルマザーの母親とも死別している。

第三巻のサブタイトルは「業火のワイダニット」とあるだけに、この話がメインエピソードなのではないかと思われる。

ワイダニット(ホワイダニット)は英語で書くと「whydunit」。意味は以下の通り。

ホワイ‐ダニット【whydunit】 の解説
《Why done it?の略。「なぜおこなったか」の意》犯行に至った動機の解明を重視した推理小説。

whydunit(ホワイダニット)の意味 - goo国語辞書より

「閻魔堂沙羅の推理奇譚」シリーズは、フーダニット(whodunit)、つまり誰が殺したかに焦点を当てた作品群であった。しかし今回は例外として「何故殺されたのか」がテーマとなっている。こういう変化球も面白い。

よって今回の容疑者は一択。

  • 夏目広西(なつめこうせい):裕太の幼馴染

独善的で犯罪性向が強く、人格的にも問題ありの夏目広西が。彼はどうして主人公を殺したのか。戸籍謄本や、どう考えてもヒントっぽい歯の治療についてのエピソードが出てくるので、比較的気づきやすいかな。

最後にあくまでも「嗤う」広西の心の闇が怖い。

今回は全部いい話!

もうすこしバッドエンドも織り込んでくるかなと予想していたけど、今回の三編は全てハッピーエンドであった。そろそろゲームで「ハズレ」を出すキャラクターが出てくるかと思ってた。

「死者復活・謎解き推理ゲーム」正解後の、沙羅による改悛アドバイスがハートフルで滋味に溢れていてけっこう良い感じ。こういう聖母的な側面を持ちながらも、ブチ切れると角が生えて、牙が伸びてくる沙羅の二面性も面白い。

「閻魔堂沙羅の推理奇譚」シリーズの感想はこちらからどうぞ