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『夏の王国で目覚めない』彩坂美月 ひと夏のクローズドサークルツアー


彩坂美月の第三作、本格ミステリ大賞の候補作

2011年刊行作品。作者の彩坂美月(あやさかみつき)は1981年生まれのミステリ作家。デビュー作は2009年の『未成年儀式』(富士見ヤングミステリー大賞に準入選、後に改稿改題の上で『少女は夏に閉ざされる』として幻冬舎文庫版が刊行)。第二作は2011年の『ひぐらしふる』。

そして本日ご紹介する『夏の王国で目覚めない』が、三作目の作品ということになる。ハヤカワ・ミステリワールドレーベルからの登場。カバーイラストはくまおり純。第12回本格ミステリ大賞の候補作にもなっている。

夏の王国で目覚めない (ハヤカワ・ミステリワールド)

夏の王国で目覚めない (ハヤカワ・ミステリワールド)

  • 作者:彩坂 美月
  • 発売日: 2011/08/10
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

ハヤカワ文庫版は2018年に刊行されている。解説は書評ライターの小池啓介が担当している。カバーイラストはTamaki。

夏の王国で目覚めない (ハヤカワ文庫JA)

おススメ度、こんな方におススメ!

おすすめ度:★★★(最大★5つ)

いろいろなタイプの密室の謎に挑戦してみたい方、爽やかな青春ミステリを楽しみたい方、このタイトルなんか気になる!と思った方におススメ。

あらすじ

父の再婚により家庭内での居場所を無くした美咲は、推理作家三島加深のファンたちが集う奇妙なミステリーツアーに参加することになる。謎を解いた参加者には、三島加深の未発表作が贈呈される。ツアーの最中に発生する事件の数々。主催者"ジョーカー"の狙いは何なのか。美咲たちは次第に追い詰められていくのだが……。

ココからネタバレ

三重構造の凝った世界観

複雑な家庭環境の中に居る少女、天野美咲が義母や義弟、実父との関係がきまずくなり、偶然誘われた三日間のミステリツアーに逃れるように参加してしまう。一部の熱狂的なマニアに強く支持されている覆面作家、三島加深(みしまかふか)のファンサイト管理人が主催する謎の旅。実世界に加えて、ファンサイトにおけるハンドルネーム。更に"ジョーカー"主催のツアー内で繰り広げられる推理劇。

主人公は本名の天野美咲、ハンドルネームの蝉コロン、そして推理劇中の役名である九条茜と三つの名前を持つ。ファンサイトに集うメンバーが、推理劇中でどの役柄を演じているかも個々のメンバーにはわからないし。各メンバーたちは現実世界で、それぞれの問題を抱えている。三重の世界構造が複雑で、よくこれだけ入り組んだ話を書いたなと驚かされる。

なお、ハンドルネームと推理劇(ミステリーツアー)中の役名対照は以下の通り。

  • 蝉コロン:九条茜(くじょうあかね)
  • ゆっぴい:青井瑞穂(あおいみずほ)
  • シェリング:高瀬浅黄(たかせあさぎ)
  • 司:草薙透吾(くさなぎとうご)
  • モナド:藤森紫苑(ふじもりしおん)
  • ジョーカー:羽霧藍人(うむあいと)
  • 三島加深:羽霧泉音(うむいずね)
  • (存在しない):黒木高志(くろきたかし)

魅力的なクローズドサークルの数々

本作ではクローズドサークルにとにかくこだわった作品である。一日目の寝台列車。二日目のアートフェスティバル開催中の街での探索行、そして山荘での過去の事件の謎。これでもかとばかりに惜しげもなく繰り出される、趣向を凝らした閉鎖空間の描き方が楽しい。

推理劇で提示される謎は、現実世界で起きた事件に繋がっており、最終的には三島加深の死の真相に迫っていく筋書きとなっている。"ジョーカー"の計画は、相当に綱渡り状態のハイリスク案件で、実際にやろうとしたら相当に高難易度なのではないかと思われるが、まあ、そこは敢えて突っ込まないのがお約束ということで。

少女のひと夏の冒険物語

最後まで読んでビックリしたのだが、主人公まだ17歳だった!女子大生くらいだと思ってた。なんと女子高生なのね。未成年女子を成人男性と同室で一晩過ごさせる"ジョーカー"のコマンドはちょっとやりすぎだろう。そりゃお父さんも怒るよ(笑)。

実母の家出と再婚で深く傷ついていた主人公が、今回のミステリツアーでの体験を経ることで自分自身を見つめなおし、一歩前に進めるようになる。ミステリとしての構造の複雑さも興味深かったけど、ひと夏の少女の成長物語としても相応の納得感があり、最後まで楽しめた。

かわらないこころは存在すると思いますか?

再三引用される、三島加深の作品テキストも良い感じなのであった。

夏の王国で目覚めない (ハヤカワ文庫JA)

夏の王国で目覚めない (ハヤカワ文庫JA)

 

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