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『六人の嘘つきな大学生』浅倉秋成 六つの告発文×密室の心理戦が熱い!


浅倉秋成の最新作!

2021年刊行作品。『ノワール・レヴナント』『フラッガーの方程式』『失恋覚悟のラウンドアバウト(失恋の準備をお願いします)』『教室が、ひとりになるまで』『九度目の十八歳を迎えた君と』に続く浅倉秋成(あさくらあきなり)の第六作である。

六人の嘘つきな大学生 (角川書店単行本)

表紙イラストは人気イラストレータの雪下まゆが担当している。

おススメ度、こんな方におススメ!

おすすめ度:★★★★(最大★5つ)

就活シーズンを戦っている方、これから戦う方、かつて戦っていた方。大学生を主人公としたミステリ小説を読んでみたい方。先の展開が全く読めないスリリングな作品を探している方。浅倉秋成作品を読んでみたいけど、どれから読んでいいかわからないという方におススメ!

あらすじ

人気IT企業スピラリンクスの最終選考はグループディスカッションだった。最後に残った六人の大学生は、ディスカッションのテーマを知り驚愕する。会議室という密室の中で繰り広げられる心理戦。突如として出現する六通の告発文。犯人は誰なのか。採用を勝ち取るのは誰なのか。そして明かされる、犯人の真の狙いとは?

ココからネタバレ

登場キャラクターはこの六人

『六人の嘘つきな大学生』は六人の大学生男女による、就活最終選考を舞台とした物語だ。彼らが入社を希望するスピラリンクスはSNSの「スピラ」が大ヒットし、一躍有望企業となった。その後、メッセージサービスの「リンクス」、決済アプリの「スピラPay」がヒットし国内屈指のIT企業にまで成り上がる。実在の会社に置き換えるなら「LINE」あたりのイメージだろうか。

まず、最初に登場する六人のキャラクターと属性をまとめておこう。

  • 波多野祥吾(はたのしょうご):立教大学経済学部、前半パートの主人公
  • 九賀蒼太(くがそうた):慶応大学総合政策学部
  • 袴田亮(はかまだりょう):明治大学、高校時代は野球部キャプテン
  • 矢代つばさ(やしろ):お茶の水女子大学で国際文化を学ぶ
  • 嶌伊織(しまいおり):早稲田大学で社会学を学ぶ、後半パートの主人公
  • 森久保公彦(もりくぼきみひこ):一橋大学

物語は二部構成となっており、前半の「就職試験」では波多野祥吾が主人公を務め、舞台設定は2011年。後半の「それから」では嶌伊織が主人公となる。こちらの舞台設定は2019年である。

就職活動の闇

私事で恐縮だが、わたしは学生時代のアルバイト先にそのまま就職してしまったので、就職活動をしたことがない。恥ずかしい話だが、そもそも留年しまくっていたので、正規の学年で就活をすることが出来なかった。

それだけに、本作で描かれたような過酷な就活現場は驚きだった。お揃いのリクルートスーツを身にまとい、エントリーシートを出しまくり、志望動機を熱く語り、自己分析に勤しむ。時には経歴を盛り、体裁を取り繕い、ハッタリすらかましてみせる。実際の就活最前線とはこのようなものなのだろうか。

日本社会では未だに、新卒時の就活が全てという雰囲気がある。失敗したらやり直しは出来ない。そのためには他人を蹴落としてでも、学業を犠牲にしても、嘘をついても差し支えない。そんな考え方が当たり前になってしまう。改めて考えてみると異常な一年間である。

本作では、一見すると非の打ちどころの無いような、六人の大学生たちの裏の顔が描かれる。最終のグループディスカッション。突如として始まる、告発合戦。

告発実行犯としての森久保、彼を裏で操っていたとされてしまう波多野、そして真犯人?と思われる嶌。二転三転する犯人探し。密室で繰り広げられる頭脳バトルは迫真の展開である。

しかしまあ、これほど前代未聞の最終選考で選抜された嶌は、伝説の就活勝者として、スピラ社内で語り継がれていそう。この映像をリアルで見ていた人事担当者(鴻上)は唖然としていただろうね。

投票の結果まとめ

この物語では、六人の投票で一人の内定者を選出するシステムになっている。投票は30分ごとに繰り返され、計六回行われた。

考察に役立つように、各回の投票結果をまとめておく。告発が進行していく中で、刻々と情勢が移り変わっていることが読み取れるはずである。

なお、赤文字は、その投票時点でのトップ得票者を表している。

  • 第一回 九賀2 袴田2 波多野1 嶌1 森久保0 矢代0

→袴田のスキャンダルが判明

  • 第二回 九賀3 袴田0 波多野1 嶌2 森久保0 矢代1

→九賀のスキャンダルが判明

  • 第三回 九賀1 袴田0 波多野2 嶌2 森久保1 矢代0

→矢代のスキャンダルが判明、森久保の関与が判明

  • 第四回 九賀1 袴田0 波多野2 嶌2 森久保0 矢代1

→波多野が残りの封筒の処分を提案

  • 第五回 九賀0 袴田0 波多野5 嶌1 森久保0 矢代0

→波多野が告発される

  • 第六回 九賀1 袴田0 波多野0 嶌5 森久保0 矢代0
  • 最終結果 九賀8 袴田2 波多野11 嶌12 森久保1 矢代2

浅倉秋成ならではの毒と救済

後半パートは就活グループディスカッションから八年後。スピラリンクスの若手有望社員となった嶌伊織の視点から物語は進行していく。嶌の視点では、犯人は波多野である。しかし、波多野は犯人ではなかった。そして、嶌自身も犯人ではなかったことが明らかにされる。解決済みとなっていた過去の事件に、改めて疑問符が提示されるのだ。

後半パートで、嶌はかつての就活メンバーを訪ねて歩くのだが、この過程で事件の真相が浮かび上がってくる趣向である。「伏線の狙撃手」の二つ名を持つ、浅倉秋成の本領発揮ともいえる怒涛の伏線回収が始まる。

八年前のグループディスカッションは、参加メンバーたちに様々な影響を与えた。露悪的な態度を取る彼らに、読者は就活の闇を垣間見るわけだが、なにせ浅倉秋成作品なので一筋縄ではいかない。

一見すると悪い印象を与えてしまう事柄が、見方を変えると全く異なった意味を持ってしまう。クズ大学生ばかりかと思えた彼らのキャラクターが、最終版に鮮やかに裏返っていく展開は圧巻である。就活のプレッシャーは時として人間性を大きく歪めてしまうが、根っからの悪人などいるはずもない。浅倉秋成作品は、人間の醜い部分をこれでもかと見せつけてくれる。それでも、本当の悪人は居ないのだ。人間の善性を信じたいとする作者の願いが、本作には込められているように感じるのである。

浅倉秋成、いま来てます!

2020年末から、浅倉秋成作品のリリースが続いている。

なんと半年間で六冊である。

六人の嘘つきな大学生 (角川書店単行本)

六人の嘘つきな大学生 (角川書店単行本)

  • 作者:浅倉 秋成
  • 発売日: 2021/03/02
  • メディア: Kindle版
 

『六人の嘘つきな大学生』はTBS系列のテレビ番組「王様のブランチ」で紹介され、いきなり品薄になった。出版社もしっかりプロモーションを仕込んできているようで、これからますます売れていきそう。

ミステリ書評家、若林踏(わかばやしふみ)による記事もあったので、併せてご紹介しておこう。

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