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グイン・サーガ外伝27巻『サリア遊郭の聖女3』円城寺忍 三か月連続刊行の最終巻。マリウスの秘密が明らかに!

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グインサーガ外伝、三か月連続刊行の三冊目!

2023年5月刊行作品。同年3月に『サリア遊郭の聖女1』、4月に『サリア遊郭の聖女2』と続いてきた連続刊行も遂にラスト!いよいよ完結編の登場だ。栗本薫の死後、グイン・サーガ外伝は何人かの作家が手掛けているが、本作の執筆は円城寺忍(えんじょうじしのぶ)が担当している。2014年のグインサーガ外伝26巻『黄金の盾』以来の二作目ってことになるのかな。

サリア遊廓の聖女 3 (ハヤカワ文庫JA)

『サリア遊郭の聖女1』の正ヒロインのジャスミン・リー、『サリア遊郭の聖女2』は主人公であるマリウス、そして『サリア遊郭の聖女3』では第二ヒロインであるワン・イェン・リェンが表紙絵に描かれていて、三冊を連結すると一枚絵として繋がる仕掛けとなっている。こういう取り組みは嬉しいね。表紙イラストはもちろん丹野忍(たんのしのぶ)が担当している。

サリア遊廓の聖女 1 (ハヤカワ文庫JA) グイン・サーガ外伝27 サリア遊廓の聖女2 (ハヤカワ文庫JA) サリア遊廓の聖女 3 (ハヤカワ文庫JA)

あらすじ

失踪したジャスミンとイェン・リャンを追いもとめ、マリウスはタイスの地下水路に潜入する。水賊たちの襲撃。水路に潜む禍々しき生物たち。そして明かされる、マリウス自身の幼少期の秘密。苦境に陥ったジャスミンとイェン・リャンを救うため、マリウスは最後の大勝負に出る。果たしてその結果はいかなる形になったのか?

ここからネタバレ(グインサーガ本編のネタバレを含む)

マリウスの過去がいろいろ明らかに!

ちょいちょい登場していた子ネコ(ミオ)が、実は重要キャラクターだった!

その昔、パロ王アルウィンとクム大公タルエリが絹戦争を戦っていた時代。パロ王族出身の参謀にして魔導師アルドランが虜囚の憂き目を見て、クムの地で無念の死を遂げる。その残留思念が子ネコを通じて、マリウスを助けてくれるという、ちょっと都合良すぎじゃない?と、突っ込みたくもなる展開。

ジャスミンは元の名前がエッナで、母親がマリウスの母エリサの姉。よってマリウスとジャスミンはいとこどうし。エリサは、夫のアルシスの死後、正妻であるラーナ大公妃の悋気により緩慢なる自死を選ばざるを得なくなったとの設定。ラーナ大公妃って、今回も悪役。まともに内面が描写されることがないだけに、便利に使われるのはちょっと可哀想な気もするな。

衝撃的だったのはマリウスとジャスミンの間に隠し子ディーンが生まれていた点だろうか。マリニア(オクタヴィア=イリスとの子)にお兄ちゃんがいたとは!ってまあ、マリウスの下半身の節操のなさは今回に始まったことではないので、数えだしたらまだまだ御落胤のひとりやふたりは見つかりそうな気がする。しかし、パロの王位継承権者は黒竜戦役やら、アモン襲来やらで激減しているので、この子の存在がバレたらいろいろ大変な目に遭いそうな気もするな。

自分の運命との決着をつけるときがくる

現在のマリウス(正篇148巻時点)は、彼の基本行動パターンである「自由」に生きることを封じられた状態であるため、とにかく精彩が見られない。パロの王位継承権者がほとんど生き残っていない以上、彼を野放しにはできないのだろうけど(すぐ誰かに誘拐されそう)、ここしばらくまったくいいところがない。

外伝2巻『イリスの石』や、正篇16巻からのケイロニア編時代のマリウスは、駄目なところは多々あるけれど、決めるときは決める男だったと思うんだよね。パロ宮廷から、そしてケイロニア宮廷から、かつて二度自らの運命から逃げてきたマリウス。予言者ルカからは「三たび、自らの運命から逃れようとするときには、あなたは導きの光を失い、そしてさらにもういちど逃亡の罪をかさねるときには、あなたの魂はもはやドールのものでありましょう」と予言されているだけに、正篇でのマリウスのその後が気になるところではある。彼が「運命との決着」をつけるときは、いつやってくるのだろうか。

いまだ語られざる物語はまだ眠っているはず

『サリア遊郭の聖女』は時系列的に考えると、正篇10巻『死の婚礼』と、外伝2巻『イリスの石』の間の補完エピソードになっている。グインに出会う直前の、行き倒れていたマリウスが、どうしてボロボロの状態でそこに居たのかが描かれる。更に正篇110巻『快楽の都』~117巻『暁の脱出』の、いゆわる「タイス編」にも繋がってくるかな。

あとがきで円城寺忍はこう書いている。

いまだ語られざる物語は、グイン・サーガ世界の過去にも、現在にも、そしてもちろん未来にも、いくらでも眠っているはずなのだから。

『サリア遊郭の聖女3』p365より

前作『黄金の盾』でも感じたけど、円城寺忍は、この「いまだ語られざる物語」を、グイン・サーガ世界から発掘する能力が卓越している。わたしは完全に忘れていたのだけど、正篇110巻『快楽の都』の時点で、ジャスミン・リーやワン・イェン・リャン、メッサリナの名前は既に登場していたらしい。そして外伝2巻『イリスの石』の冒頭、マリウスがタイスで身ぐるみ剥がれて瀕死になっていたという設定。

こうした本編中の断片的な手がかりから、もっともらしい、いかにも「ありそう」な話を紡ぎだす力が本当に素晴らしいと思う。個人的には円城寺忍にも正篇の書き手に加わって欲しいくらいなのだけど、本業が別にありそうだから難しいかなあ。何年かかってもまたこの人にはグイン・サーガの世界から「いまだ語られざる物語」をすくい上げて欲しいものだ。

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