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『弟切抄 鎌倉幕府草創記』森山光太郎 源範頼の視点で鎌倉幕府のはじまりを読み解く


『隷王戦記』の作者が描く鎌倉モノ

2021年刊行作品。タイトルの『弟切抄』は「おとぎりしょう」と読む。

作者の森山光太郎は1991年生まれの小説家。本作『弟切抄 鎌倉幕府草創記』が八作目の作品になるだろうか。

弟切抄 ―鎌倉幕府草創記―

森山光太郎は2019年刊行の『火神子 天孫に抗いし者』でデビューして以来、歴史小説系の作品と、ライトノベル系(雑なくくりですみません)の作品を上梓してきた。

ざっくり分けてみるとこんな感じ。

歴史小説系

  • 『火神子 天孫に抗いし者』(2019)
  • 『卑弥呼とよばれた少女』(2021)
  • 『弟切抄 鎌倉幕府草創記』(2021)

ライトノベル系

デビュー三年で九冊も書いてるのは凄いなあ。

今回紹介する『弟切抄 鎌倉幕府草創記』は前者の歴史小説に分類される作品だ。素材的なタイミングとしては大河ドラマの『鎌倉殿の13人』にあわせてきたものかな?作者としても鎌倉モノは初めてであるだけに期待は高まる。

おススメ度、こんな方におススメ!

おすすめ度:★★★(最大★5つ)

源平の合戦や、鎌倉時代初期の歴史がお好きな方。大河ドラマ『鎌倉殿の13人』にハマっている方。『鎌倉殿の13人』とは違った解釈でこの時代を読んでみたい方。蒲殿のファンの方。源範頼の視点からこの時代を振り返ってみたい方におススメ。

あらすじ

源義朝の六男、範頼は、平治の乱での父の敗死により故郷を追われることになる。藤原範季に庇護され、下野の小山氏のもとで命を繋ぎ、穏やかな日々を過ごしていた範頼だったが、兄、頼朝の蜂起でその運命は激変していく。坂東武者たちの大軍を率い、平家と戦う日々。異なる志を持つ弟、義経との相克。そして平家を滅ぼしたあとに、ほんとうの試練が訪れる。

ここからネタバレ

なお、大河ドラマ『鎌倉殿の13人』をご覧の方は、今後の展開内容が書かれているので、ネタバレを避けたい方はお気をつけて!

源範頼の生涯を描く

『弟切抄 鎌倉幕府草創記』は、源範頼(みなもとののりより)を主人公とした作品だ。源範頼は、平治の乱で死んだ源義朝(よしとも)の六男。兄には鎌倉幕府をひらいた頼朝(よりとも)。弟には天才的な軍事的才能を持ちながら、非業の死を遂げた義経(よしつね)がいる。

頼朝と義経の知名度が圧倒的なので、その陰に埋もれてしまいがちだが、源範頼は源平合戦(治承・寿永の乱)では、大軍を率いて源義仲(よしなか)、そして平家を滅ぼす大功を挙げている。血統による人事とはいえ、無能な人間が、偏屈者揃いの坂東武者を率いて結果を出すことは難しかったと思うので、範頼も相応の才覚があった人間なのではないかと思われる。

ちなみに、激動の生涯を生きた、源義朝の九人の息子たちラインナップはこんな感じ。

  • 義平:平治の乱後、捕縛され処刑
  • 朝長:平治の乱の戦傷がもとで死亡
  • 頼朝:鎌倉幕府を創建、征夷大将軍
  • 義門:詳細不明も平治の乱後に死亡
  • 希義:配流先の土佐で決起するも討たれる
  • 範頼:源義仲、平家を滅ぼすも頼朝に疑われ配流先で死亡
  • 阿野全成:仏門に入るも頼朝に合流。二代将軍、頼家と対立し配流先で死亡
  • 義円:平家との戦いで戦死
  • 義経:平家との戦いで大功を挙げるも、頼朝と対立し平泉で戦死

天寿を全うできたのが頼朝しかいねー。源氏バトルロワイヤルが怖ろし過ぎる。

溢れる才能を隠して生きる

本作の中で描かれる源範頼は、溢れんばかりの軍事的、政治的才能を持ちながらも、立場を自覚して、目立たぬよう、出しゃばらぬよう、友らと静かに生きていきたいと欲している。しかし、時の流れはそれを許さない。

弟、義経の軍事的才能は、戦術級レベルの戦闘スキルに特化されている。これに対して、範頼の才能は、作戦級、戦略級レベルの、より広い視野での軍事スキルとして描かれており、一軍の将としてはこっちの方が怖いよね。頼朝が脅威を感じるのもわかる。

世に平穏がもたらされたとき、新たな戦乱をもたらす存在はどうなるのか。義仲が死に、平家が滅び、義経が討たれたとき、範頼は自分の血統と才能が、新たな戦乱の火種となってしまうことを自覚する。曾我兄弟の敵討ちを、範頼の処罰とどう絡めて来るのか。大河ドラマとはまた違った解釈でこの事件を扱っていて、なかなか興味深かった。

ラストシーン、このまま討たれちゃうのかな?せめて義経の遺児くらいは逃がすのかな?と思っていたら、まさかの小山朝政(おやまともまさ)、下河辺行平(しもこうべゆきひら)による救援エンド!頼朝も、梶原景時も甘すぎない??って、『鎌倉殿の13人』の殺伐とした世界観に毒され過ぎか。。。まあ、こういう優しい世界があってもいいか。

余談:藤原範季が面白い

ちなみに、源範頼の「範」は、庇護者であった藤原範季(ふじわらののりすえ)から一字をもらったものとされている。藤原範季に関するWikipedia評。

有能な行政官・政治家でありながら、平清盛に滅ぼされた源義朝の遺児である範頼を育て、九条兼実の家司でありながら兼実とそりの合わない後白河院の院司を兼ね、源義経が頼朝に追われた際には義経を支持し、奥州藤原氏の滅亡後に藤原泰衡の弟・高衡を匿う等、当時の権力者の意向に背く危険な選択を選び続けたため、アナーキー性の持ち主だと評価されることもある。

藤原範季 - Wikipediaより

メッチャキャラ立ってるじゃん!大河ドラマに出てきてもおかしくないレベルの人物。『弟切抄 鎌倉幕府草創記』の中でも出番は少ないながらも、要所要所で範頼に影響力を及ぼしている。もうちょっと、深掘りして調べてみようかな。

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