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『黄昏の百合の骨』恩田陸 それからの理瀬の物語


「理瀬」シリーズの実質的な二作目!

2004年刊行作品。講談社のミステリ誌『メフィスト』の2002年5月増刊号~2003年9月増刊号に連載されていた作品をまとめたもの。表紙及び、作中の扉絵イラストは北見隆。『麦の海に沈む果実』後の水野理瀬を描いた作品である。

講談社文庫版は2007年に登場。こちらは篠田真由美の解説が巻末に収録されている。

黄昏の百合の骨 (講談社文庫)

おススメ度、こんな方におススメ!

おすすめ度:★★★★(最大★5つ)

「理瀬」シリーズの一作目『麦の海に沈む果実』を読んで、その後の水野理瀬がどうなったか気になる方。長崎の街が好きな方。女同士の心理戦を堪能したい方。サイコサスペンス的な作品が好きな方におススメ!

あらすじ

「自分が死んでも、水野理瀬が半年以上ここに住まない限り家は処分してはならない」そう言い残して逝った祖母。かくして白百合荘を訪れた理瀬だったが、"魔女の館"と近隣に噂されるこの館では奇怪な事件が続発していた。この家に隠された秘密とは何なのか。先客の二人の叔母、梨南子と梨耶子。そして遅れてやってきた二人の従兄弟、亘と稔。五人の想いが錯綜する中で事件は起こった。

ココからネタバレ

『麦の海に沈む果実』のネタバレも含むので注意!

ややこしい人間関係を整理

まずは、本作に登場するキャラクターたちの人間関係を整理しておこう。

  • 水野理瀬(みずのりせ):主人公
  • 祖母:故人
  • 校長:理瀬の父親。祖母の前の夫との子
  • 梨南子(りなこ):祖父の前の妻との子
  • 梨耶子(りやこ):祖父の前の妻との子
  • 稔(みのる):理瀬の従兄弟。父親が校長のいちばん上の兄
  • 亘(わたる):理瀬の従兄弟。稔の弟

書いてみたけど、この家系、よくわからない(笑)。祖父も祖母もそれぞれ再婚しているからややこしくなっている。

理瀬から見たら、稔、亘は従兄弟。梨南子、梨耶子は叔母にあたる。とりあえずはこれだけ把握しておけばなんとかなる。

ついでに、理瀬の親族以外のキャラクターも紹介しておこう。

  • 勝村雅雪(かつむらまさゆき):朋子の幼馴染
  • 田丸賢一(たまるけんいち):雅雪の親友。朋子が好き
  • 脇坂朋子(わきさかともこ):理瀬の同級生
  • 脇坂慎二(わきさかしんじ):朋子の弟。病弱

 

 

 

水野理瀬ふたたび

本作では『麦の海に沈む果実』に登場していた水野理瀬が登場し、再度主役を務める。本書だけ読んでも十分楽しめる内容になってはいるが、『麦の海に沈む果実』は読了してから本書に臨みたい。

更にそのルーツともなっている『三月は深き紅の淵を』も出来れば読んでおきたい。「理瀬」シリーズは全三部が予定されており(当時)、三作目のタイトルは先日発売されたばかりの『薔薇のなかの蛇』である。

 

魅力的な舞台装置、白百合荘

前作の舞台は北海道。閉ざされた湿原の学園であった。うって変わって、今回は長崎県が舞台。坂の町、長崎の住宅街に立地する白百合荘で物語は展開されていく。

白百合荘は古い洋館で、かつては軍関係者が出入りされていたとも噂されている。館の内部には百合の花が飾られ、濃厚な香りが常に漂う(これ、毎日だとけっこうキツイと思う)。周囲からは"魔女の館"と畏れられ、小動物の不審な死が相次いでいる。

そして祖母の突然の死。魔女の死である。祖母は生前にこう言い残している。

「自分が死んでも、水野理瀬が半年以上ここに住まない限り家は処分してはならない」

遺言となったこの言葉にはどんな意味があるのか。なかなかにミステリアスな導入部である。

 

なお、幼い日の理瀬は祖母と、稔、亘の兄弟と、白百合荘で暮らしていた。当時のエピソードは短編「睡蓮」に詳しいので気になる方はチェックしてみて頂きたい。

女同士の心理戦

限定された時と場所で繰り広げられる、虚々実々の心理ゲームは恩田作品の基本パターンである。本書では理瀬の祖母が残した白百合荘という館での一連の騒動が物語られている。

比較的キャラクター先行の作品が少ないこの作家にとって、珍しくキャラが立った作品といえる。二人の叔母や、友人の朋子との駆け引きや暗闘がな毒々しくて良い感じ。綺麗で強い、でもかよわくないヒロイン像ってのは実にいいと思う。

良くも悪くも学園という名の檻で守られていた理瀬が、現実の世界へと足を踏み入れたわけで、むき出しの悪意や欲望と対峙してみせるその姿は美しくもあるが、切なくもある。少女という属性を喪失し、無垢なもの、純粋なものと訣別し、「一族」の一員として生きていく厳しい選択を自ら選び取ったその理由は何なのか、多くは未だ語られていないのでそれは今後の展開に期待したい。

祖母の遺言の意味

ところで、祖母の遺言にはどんな意味があったのだろうか。旧軍が残した死体処理装置である「ジュピター」の後始末を理瀬に託した?しかし、それなら校長や稔に託しても良かったはずである。

白百合荘は理瀬にとって少女時代を象徴する場所である。そして一族の闇の部分。後ろ暗い側面を象徴する場所でもあった。想像するに、この場所で、少女時代の最後の時間を過ごして欲しかった。そんな意図があったのではないだろうか。

理瀬の一族の考え方では、善は悪の中に包含される。「善など悪の上澄みのひとすくい」に過ぎない。理瀬にとっての幼き日の思い出の地は、数多の死が積み重ねられてきた忌まわしい館でもあった。白百合荘の真の姿を知ることで、理瀬に彼女自身の本来の姿を再認識させる意味あったのではないだろうか。

二人の少年とは誰なのか?

物語の終盤にはちょっと気になることが書かれている。

そして、二人の少年が静かに準備を始めていた。将来再びめぐりあうことになる少女にその道が繋がっていると、一人は知っていて、もう一人は知らずに。

『黄昏の百合の骨』文庫版 p395より

この二人の少年とは誰だろうか。「少年」とあるので、稔や亘は年齢的に除いて良いだろう。となると、候補は限られてくる。

おそらく、一人は勝村雅雪。雅雪は「上澄み」の側の人間だが、不思議と理瀬の本質を理解できていた人間である。その可能性は高い。

そしてもう一人は、脇坂慎二だろう。作品の中盤で退場してしまった彼は最終盤にふたたび物語に戻ってくる。このエピローグを読むと、冒頭の「ある独白」が慎二のものだったこともわかる。彼が想起している「あの人」とは理瀬のことだったのだ。

雅雪と慎二が理瀬の物語に、どのようにして再び関わってくるのか。非常に気になるところである。

おまけ:長崎に行ってきた!

『黄昏の百合の骨』を読んだ当時、たまらなく長崎に行きたくなってしまい撮影したのがこちらの写真。2005年撮影。雰囲気だけでも感じて頂ければ。

長崎はエキゾチックな観光スポットを訪ね歩くのも楽しいが。独特の雰囲気がある丘陵地の住宅街を歩くのもたまらなく楽しい。

日本二十六聖人記念碑

日本二十六聖人記念碑

オランダ坂

オランダ坂

坂の町長崎

坂の町長崎

いい感じの階段も多い

いい感じの階段も多い

山の斜面に住宅地が続く

山の斜面に住宅地が続く

夕暮れの長崎駅前

夕暮れの長崎駅前

うーん、また長崎に行きたくなってきた。

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