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『キョウカンカク 美しき夜に』天祢涼 第43回メフィスト賞受賞作品

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天祢涼の第一作

2010年刊行作品。天祢涼(あまねりょう)のデビュー作。第43回のメフィスト賞受賞作品である。講談社ノベルス版のカバーイラストは鈴木康士(すずきやすし)が担当している。

作者の天祢涼は1978年生まれ。デビュー以降、年二冊近いペースで作品の刊行を続けており、二十作に近い著作を誇る。近年のメフィスト賞受賞作家の中では多い方ではないだろうか。

講談社文庫版は2013年に登場。当初のタイトルは『キョウカンカク』であったが、文庫化の際に『キョウカンカク 美しき夜に』と改題された。カバーイラストは吉田ヨシツギが担当している。

 

キョウカンカク 美しき夜に (講談社文庫)

おススメ度、こんな方におススメ!

おすすめ度:★★★(最大★5つ)

メフィスト賞作品なら全部読む!という方。「キョウカンカク」って何?と不思議に思った方。ちょっと特殊な設定のミステリ作品を読んでみたい方。天祢涼の初期作品を読んでみたい方におススメ。

 

あらすじ

X県星守市。姿なき連続殺人犯”フレイム”は、どうして殺害した被害者たちを燃やすのか。被害者の兄、天弥山紫郎は「キョウカンカク」の持ち主、探偵の音宮美夜と共に事件の調査に乗り出す。美夜は音を「見る」ことが出来る。早々に容疑者を特定した二人だったが、そこには鉄壁のアリバイが立ちはだかる。

ココからネタバレ

文庫版はほぼ別作品

文庫化に際して、大幅な加筆修正が施されている。

まず、主人公の名前が違う!ノベルス版では甘祢山紫郎(あまねさんしろう)だったものが、文庫版では天弥山紫郎(あまやさんしろう)に変更されている。

三人目の被害者の名前も、ノベルス版では神崎花恋(かんざきかれん)。文庫版では天弥花恋(あまやかれん)となっており。花恋は文庫版では神崎玲の従姉妹であったが、文庫版では主人公の妹に変更されている。

変更点はキャラクターの名前だけではない。文庫版では台詞や全体構成の部分にまで手修正が入っており、ほぼ完全に作り直されている印象である。巻末の小森健太朗の解説でも指摘されているが、これによってミステリとしての構成の弱さが大幅に改善されている。

 

ヒロインである音宮美夜の人間性にも微妙な改変が試みられている。ノベルス版よりも文庫版の方が音宮美夜のキャラクターに深みが出ているのは良改変であったかと思う。

 

キョウカンカクとは?

『キョウカンカク 美しき夜に』で探偵役を務める、音宮美夜(おとみやみや)は「キョウカンカク」の持ち主である。彼女は音を「見る」ことが出来る。フィクションの能力のように思えるが、実際に確認されている能力である。

Wikipedia先生から引用させていただくと、共感覚とはいかのような性質を指す。

共感覚(きょうかんかく、シナスタジア、英: synesthesia, 羅: synæsthesia)は、ある1つの刺激に対して、通常の感覚だけでなく 異なる種類の感覚も自動的に生じる知覚現象をいう。

例えば、共感覚を持つ人には文字に色を感じたり、音に色を感じたり、味や匂いに、色や形を感じたりする。

共感覚 - Wikipediaより

音宮美夜はキョウカンカクの力で警察の捜査に協力している。音を「見る」ことが出来ると、犯罪捜査上どう役に立つかというと、被害者が最後にかけて来た電話の音声から犯行現場を推定したり、容疑者の声を聴くだけで犯罪の意図を読み取ることが出来る。

本作は特殊設定ミステリとして分類できるだろう。キョウカンカクの活かし方がこの作品の魅力なのである。キョウカンカクで犯人が分かったとしても、キョウカンカクそのものに証拠能力は無いので、まっとうな証拠を見つけだす必要がある。

殺人者の声は赤く見える。音宮美夜は、絶対的な確信をもって神崎玲(かんざきれい)を犯人と指摘する。しかし神崎玲にはアリバイがある。神崎玲はいかにして不可能犯罪を成立させたのか。そしてのその動機はどこにあるのかが物語の肝となっていく。

キョウカンカクならではのホワイダニット

本作では五人の女性が死亡している。内容は以下の通り。

  1. 老田加奈枝(おいたかなえ) 老人ホームの業務用生ごみ処理機で発見
  2. 酒井清美(さかいきよみ) 酒造メーカーの酒樽の中から発見
  3. 天弥花恋(あまやかれん) 住宅街の公園で発見
  4. 綾小路彩子(あやのこうじあやこ) 自宅で発見
  5. 身元不明 星守湾で発見

共通点は全員が女性で、しかも「焼かれた」状態で発見されている点である。「フレイム」と呼ばれる犯人はどうして遺体を焼く必要があったのか。随所に伏線は散りばめられているのだが、ここでもうひとつのキョウカンカクが登場してくるとは想定外であった。メフィスト賞作品らしい無茶な動機だが、キョウカンカクが存在する世界なのであれば、こんな動機があってもアリ?だろうか。

音宮美夜のその後が気になる

音宮美夜は自身の持つキョウカンカクの発現で母親を死なせ、姉を廃人に追い込んでいる。父親には見捨てられ、孤独の中で生きてきたところで、警察官僚の矢萩に拾われその力を捜査に利用されるようになる。そして、彼女の力は、法で裁けない犯罪者の殺害にも利用されている。

ラストシーン。暗い世界で生きて来た音宮美夜は、陽の当たる世界で生きて来た天弥山紫郎との会話に耐えかねてその場を去る。二人の道は一瞬交錯するが、ふたたび離れていく。視覚が音に塗り替えられてしまう「牢獄」の中で、彼女がどうやって生きていくのか。彼女が救われる日は来るのだろうか。

現時点で音宮美夜が登場する作品は、本作を含めて四作が世に出ている。

  • 『キョウカンカク 美しき夜に』(2010年)
  • 『闇ツキチルドレン』(2010年)
  • 『銀髪少女は音を視る』(2016年)
  • 『透明人間の異常な愛情』(2017年)

残りの三作もいずれ読んでいくつもりなので、しばしお待ちを。

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