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『嫉妬と階級の『源氏物語』』大塚ひかり

『図書室の海』恩田陸デビュー10年目の短編集

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初期代表作の外伝を含む、恩田陸の魅力が詰まった作品集

2002年刊行作品。各種アンソロジーやらネット媒体、雑誌等に掲載されてきた8編に加え、2編の書き下ろしを加えた短編集。この年、恩田陸はデビュー10周年だった。収録されている作品数が10編なのはこれにあわせてきたのかな?

『六番目の小夜子』『麦の海に沈む果実』『夜のピクニック』と、恩田陸の初期作品の外伝的なエピソードが収録されており、ファン的には是非読んでおきたい一冊である。

図書室の海

新潮文庫版は2005年に登場している。文庫版には山形浩生(やまがたひろお)の解説が付いてくる。

おススメ度、こんな方におススメ!

おすすめ度:★★★(最大★5つ)

『麦の海に沈む果実』『夜のピクニック』『六番目の小夜子』のスピンオフ作品を読んでみたい方。バラエティに富んだ、幅広いタイプの作品を網羅した短編集を読んでみたい方。恩田陸の短編作品に興味がある方におススメ。

あらすじ

「サヨコ」のゲームは続いていく。幾多の謎と伝説を残して来た「サヨコ」たち。しかしその陰には「わたすだけのサヨコ」と呼ばれる存在があった。処女作『六番目の小夜子』、発表十年目にして初の外伝は関根秋の姉、夏を主人公とした書き下ろし作品(表題作)。その他各誌に掲載されていた短編8編に書き下ろしを更に1編を収録。計10編の短編集。

ここからネタバレ

では、以下各編ごとに短評を……。

春よ、来い

1999年作品。井上雅彦監修のアンソロジー、異形コレクション<10>『時間怪談』(廣済堂出版)に収録されていた作品。

時間怪談―異形コレクション〈10〉 (広済堂文庫)

時間怪談―異形コレクション〈10〉 (広済堂文庫)

 

短い中でコンパクトにギミックがまとまっており、尚かつ春の抒情が静かに漂う佳品。しかし頭の悪いわたしは二度読まないと意味がわからなかった。

茶色の小壜

2000年作品。津原泰三監修『血の12幻想』(エニックス)収録作品。現在では、講談社文庫から出ているのでこちらのリンクを貼っておく。

血の12幻想 (講談社文庫)

血の12幻想 (講談社文庫)

 

サスペンスホラーというか、暗澹たるラストが好感触。女同士はやはり怖い。

イサオ・オサリヴァンを捜して

1998年作品。Web媒体である、SFオンライン掲載作品。これは当時300円の有償ダウンロード作品だったので読んでいなかった(←ケチ)だけに嬉しい。オリジナルの方には大森望の解説と田中光のイラストがついていた。

実はこれ、長編SF『グリーンスリーブス』のプロローグに当たる作品であったようなのだが、未だ音沙汰なしである。ただ、コンセプトは既刊の『夜の底は柔らかな幻』に継承されている模様。

夜の底は柔らかな幻 上 (文春文庫)

夜の底は柔らかな幻 上 (文春文庫)

 
夜の底は柔らかな幻 下 (文春文庫)

夜の底は柔らかな幻 下 (文春文庫)

 

睡蓮

2000年作品。ミステリアンソロジー『蜜の眠り』(廣済堂出版)収録作品。

蜜の眠り (光文社文庫)

蜜の眠り (光文社文庫)

 

初期の代表作『麦の海に沈む果実』のヒロイン理瀬が登場する作品。微妙にキャラクターの印象が違うのは意図的にメタな感じを出したかっということなのだろうか。

麦の海に沈む果実 (講談社文庫)

麦の海に沈む果実 (講談社文庫)

 

ある映画の記憶

1999年作品。ミステリアンソロジー『大密室』(新潮社)収録作品。

大密室

大密室

 

本書の中で一番ミステリ寄りの作品。が、本筋よりも引き合いに出される映画の方が強く印象に残る。元ネタの映画『青幻記』を是非観てみたくなる。

ピクニックの準備

書き下ろし作品。本屋大賞受賞作『夜のピクニック』の予告編として書かれた一編。学園モノラブな自分としてはこれが今回のイチオシ。イベント前日ならではの不思議な高揚感が伝わってくる。

夜のピクニック (新潮文庫)

夜のピクニック (新潮文庫)

 

国境の南

2000年作品。「週刊小説」掲載作品。タイトルがいい。人の心の底に澱む悪意について描く。あえて本人を登場させないことで、逆に存在感を高めることに成功している。

オデュッセイア

2001年作品。「小説新潮」掲載作品。移動する都市の年代記。短編のボリュームに圧縮。これも長編化の構想アリだったはずだけど、その後どうなった?

ググっていて判明したが、明治書院の国語の教科書「高等学校 現代文B」に掲載されている。すげーな。

図書室の海

書き下ろし作品。デビュー作『六番目の小夜子』ファンに思ってもみなかった外伝作品の登場。関根秋の姉にして、「渡すだけのサヨコ」であった関根夏が主人公。タイトルの意味がわかったときの清々しい心地よさが◎。しかし五番目のサヨコはどっちだったのだろう。

六番目の小夜子 (新潮文庫)

六番目の小夜子 (新潮文庫)

 

『六番目の小夜子』はわたし的に、偏愛してやまない作品なので、いずれガチでエントリ書く予定。

ノスタルジア

1995年作品。「SFマガジン」掲載作品。今回の収録作品の中で最も古い作品。構造的に『三月は深き紅の淵を』に通じるものがあったり、語り口がどことなく『黒と茶の幻想』を想起させたりと興味深い。

恩田陸作品に初めて触れる人にもおススメ

と、いうわけで駆け足でコメントしてきたのだが、ファンなら当然買いレベル。

学園モノから、本格寄りのミステリ、エスエフのジャンルまで、幅広い内容の作品が収録されているので、この作家の引き出しの多さと深さを知る意味では、意外と恩田作品の未読者が読んでみても良いのではないかと思う。

図書室の海

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