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『僕が君の名前を呼ぶから』乙野四方字 並行世界で生きる「もうひとりの栞」の物語


『僕君』『君僕』のスピンオフ長編が登場!

2022年刊行作品。乙野四方字(おとのよもじ)の最新作。2016年刊行の『僕が愛したすべての君へ』『君を愛したひとりの僕へ』と世界観を同じくする、スピンオフ作品だ。

僕が君の名前を呼ぶから (ハヤカワ文庫JA)

『僕が愛したすべての君へ』『君を愛したひとりの僕へ』は、2022年10月7日から、二作同時でのアニメション映画版の公開が決まっている。

劇場版の公開前に、きっちりと関連作を送り出してきたのは、商売としてはなかなかの営業努力。既刊の二冊は東宝のリリース記事によると累計部数で28万部を突破しているとのことで、ハヤカワJAとしては期待のシリーズとなっているはず。

『僕が愛したすべての君へ』『君を愛したひとりの僕へ』の感想はこちらから。

おススメ度、こんな方におススメ!

おすすめ度:★★★(最大★5つ)

前作『僕が愛したすべての君へ』『君を愛したひとりの僕へ』を既に読んでいる方(重要)。並行世界で生きる「もうひとりの栞」の運命を知りたい方。並行(平行)世界系の作品がお好きな方におススメ。

あらすじ

少しだけ今の世界とは異なる並行世界が無数に存在することが実証された時代。生まれつき、並行世界への移動「パラレル・シフト」を起こしやすい少女であった今留栞は、夏休みに訪れた廃病院で、内海進矢と名乗る大学生に出会う。失踪した少年を探していた進矢。この地でなにが起きたのか。そして、栞の持つ特殊能力は、思わぬところで発揮されることになるのだが……。

ここからネタバレ。『僕が愛したすべての君へ』『君を愛したひとりの僕へ』のネタバレも含むので注意!

三冊セットで、三番目に読むべし!

冒頭にも書いたが、『僕が君の名前を呼ぶから』は、『僕が愛したすべての君へ』『君を愛したひとりの僕へ』のスピンオフ作品だ。本作は一応、単独でも読める内容になっているが、『僕が愛したすべての君へ』『君を愛したひとりの僕へ』を読んでいないと、何がなんだかよくわからない点も多い。

読む順番としては

  • 『僕が愛したすべての君へ』
  • 『君を愛したひとりの僕へ』

を、先に読んでから、

  • 『僕が君の名前を呼ぶから』

へと進むのを強く推奨したい。

ちなみに作者、乙野四方字による、読む順番のおススメはこんな感じ。

もう一人の栞の物語

『僕が君の名前を呼ぶから』のヒロインの名前は今留栞(いまどめしおり)。一方で、既存作品の『君を愛したひとりの僕へ』では、佐藤栞(さとうしおり)という名前の人物が登場する。二人の苗字は異なるが、所属する並行世界が違うだけの同一人物かと思われる。

二人の栞の苗字が異なるのは、母親の佐藤絃子(さとういとこ)が、離婚しているかどうかの違いによる。『僕が君の名前を呼ぶから』の佐藤絃子は夫との不仲を乗り越え、離婚せずに済んでいる。一方で、『君を愛したひとりの僕へ』の佐藤絃子は既に離婚しており、高崎暦の父親との再婚話が進んでいる。

『君を愛したひとりの僕へ』の佐藤栞は、母親の再婚話から、想い人である高崎暦との前途に絶望し悲劇的な結果を招いてしまう。本作『僕が君の名前を呼ぶから』では、母親が離婚せずに済んだ世界、つまり並行世界上の「もうひとりの栞」の物語が描かれていく。

『僕が君の名前を呼ぶから』終盤のタイトル回収が美しい

今留栞は生来、虚質が安定せず、現世へにうまく定着できないでいる。幼いころから、自らの存在感の薄さに引け目を感じている。そんな彼女が、同じようなコンプレックスを抱いていた、行方不明の少年、鬼灯太郎を救うことになる。

「私があなたの名前を呼ぶから!」

この一言で、現世にうまく定着することが出来ずにいた、鬼灯太郎の残留思念が繋ぎ止められ、遺体を回収することが出来た。

この事件をきっかけとして、佐藤栞は意中の相手であった内海進矢との距離感が急接近する。進矢との交際が進展する中で、佐藤栞の不安定さが次第に消えていく。

人間の存在感。自分はこの世界にに居ても良いのだと思える自信。生きていく気力というものは、少なからず、信頼すべき他者から認められることで高められている。「名前を呼ばれる」のは、他者からの承認をもっともわかりやすく示すものだろう。

「僕が、君の名前を呼ぶから」

進矢のこの言葉が。進矢との関係性が、この世界での栞を現世に繋ぎ止めた。それは別の世界で結ばれることがなかった、高崎暦と佐藤栞の関係性にとっての救いでもある。

 

余談ながら、このシリーズで再三登場する、大分市の中心部、昭和通り(「レオタードの女」像前)は、作者自身のツィートでご紹介。アニメ版が公開されたら、更に聖地巡礼をする方が増えそうだな。

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