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『水に描かれた館』佐々木丸美「館」シリーズ3部作を読む(2)

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遅々として進まない、佐々木丸美作品の全作レビューだが、本日は「館」シリーズ二作目の『水に描かれた館』をご紹介したい。

佐々木丸美「館」シリーズの二作目

1978年刊行作品。佐々木丸美としては四作目。この時期までは「孤児」シリーズと、「館」シリーズが交互に発表されていたのである。

水に描かれた館 (1978年)

水に描かれた館 (1978年)

 

最初の文庫化は講談社から。1988年に登場している。

水に描かれた館 (講談社文庫)

水に描かれた館 (講談社文庫)

 

その後、佐々木丸美の作家活動が、1980年代に終了してしまったこともあり、本作も1990年代以降は入手困難な状態が続いていた。しかしながら今世紀に入ってから、ファンを中心とした復刊活動が起こり、まず2007年に東京創元社版が登場した。

水に描かれた館 (創元推理文庫)

続いて2008年にブッキング(復刊ドットコム)版が登場している。

水に描かれた館 佐々木丸美コレクション

水に描かれた館 佐々木丸美コレクション

 

ちなみに、東京創元社版は1988年の講談社文庫版を、そしてブッキング版は1988年の単行本版を底本としているようだ。

なお『水に描かれた館』は以前紹介した『崖の館』に続く作品である。当然のことながら作中では『崖の館』の結末について、惜しげもなくネタバレされてしまう。

出来うることなら『崖の館』を読んでから本作にとりかかることを強くお勧めする。なお、本作読了後は、シリーズ最終作の『夢館』を必ず読むように。「館」シリーズは三冊読んで初めて、全てがつながる作品群なのである。

あらすじ

財産目録の作成に立ち会うため、ふたたび崖の館に集った四人のいとこたち。そこに五人の鑑定家が来訪する。しかし招待したのは四人の筈。招かれざる客は誰なのか?聖書を携えた謎の少女の来訪。発見される千波の二冊目の日記帳。謎の襲撃者の登場。そして遂に最初の被害者が出てしまう。犯人は誰なのか?その目的は?

ココからネタバレ

無意識、深層心理の世界

前作の『崖の館』はと比較して、本作では本格色はやや後退して、その分佐々木丸美らしい衒学趣味的な側面が強く押し出された作風となっている。特に再三語られる、人間の無意識、深層心理の不可思議についてはメイントリックとも絡んだ構成となっており、ここは好き嫌いが別れるところかもしれない。

作者の超心理学、霊学、夢診断など、スピリチュアル方面への強い傾倒が伺われるが、このあたりは次巻の『夢館』への布石でもあるので、こっち系のお話が苦手な方も、あと少しだけ我慢して読んでいただきたいのである。

石垣さんがカワイイ

本作の真のヒロインは石垣さんである。異論は認めない(笑)。仕事第一!仕事が全て!仕事至上主義者の石垣さんが、館の魔力でみるみるうちに、ステキで愛らしい美女に変貌していくのは、やり過ぎな気がしないでもないけど、かわいいから許す。昔の少女マンガとかだと、メガネ外して、髪下ろしたらメチャ美人!みたいなタイプだと思う。石垣さんが殺されちゃったらどうしようと、本作ではそればかりが気になってしまった。

不在のヒロイン千波の存在感

「孤児」シリーズで凄い人らしい!として、噂だけ出ていた吹原さんが、なんとこの作品で登場。「孤児」シリーズと「館」シリーズが世界観を同じくする物語であることがわかる。

千波の二冊目の日記が発見され、前作同様に強い存在感を放つ。メインの事件と並行して、千波についての更なる秘密が明らかになり、彼女の過去がもたらす因果が語り手である涼子の精神にも影響を与える。今回の涼子の行動や心情は、ややもすると道化というか、霊媒じみているというか、本人の意思を越えたなにものかに動かされているようで、ちょっと可哀そうに思えた。

 

本作だけ読むと、未消化な部分も残るのだが、このシリーズは三作すべて読んで評価されるべき作品なので、ラストの『夢館』も是非読んで頂きたいところ。

その他の佐々木作品の感想はこちら

佐々木丸美の「館」シリーズ1作目『崖の館』の感想はこちらから!

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佐々木丸美の「孤児」シリーズ1作目『雪の断章』の感想はこちらから!

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佐々木丸美の「孤児」シリーズ3作目『花嫁人形』の感想はこちらから!

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