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グインサーガ続篇149巻『ドライドンの曙』(最新刊) ヴァレリウス、クリスタルパレスに戻る

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続篇グイン・サーガ1年7カ月ぶりの新刊

2024年6月刊行作品。前巻の148巻『トーラスの炎』が2022年11月刊行だったので、およそ1年7カ月ぶりの新刊。147巻と148巻の刊行間隔が2年4カ月だったので、それに比べれば早かったとはいえ、相変わらず刊行ペースはゆったり。

ドライドンの曙 (ハヤカワ文庫JA)

タイトルの『ドライドンの曙』は「ドライドンのあけぼの」と読む。表紙絵はレムス。って、メッチャ久しぶりじゃない??

あらすじ

かつて中原の華と称えられたパロの首都クリスタル。しかしヤンダル・ゾックと、彼に動かされたイシュトヴァーンの侵攻により、この街は壊滅的な打撃を受けていた。沿海州から派遣されたドライドン騎士団は、パロ宰相ヴァレリウスを伴い、クリスタルへの遠征を企図する。アルゴ河を遡上し、ダネイン大湿原を経てカラヴィアに入った一行は、遂にクリスタル入りを果たすのだが……。

この巻で起こること

復讐に燃えるブラン、マルコらによるドライドン騎士団と、それに同行するヴァレリウス&アッシャ師弟による、沿海州から、パロ、クリスタルまでの道中が描かれる。

タイトル的にはいかにも、ドライドン騎士団が活躍しそうな感じがするのだが、実質的にはヴァレリウス巻である。

以下、ポイントごとに重要な展開をまとめておいた。

ドライドン騎士団パロへ

海洋国家の集まりである沿海州から、内陸国のパロへどう入るのか?一行は沿海州から南へ下り草原地方へ。ここで南の大河アルゴ河を遡上し、アルゴス、カウロスの領土内を通りながら上流のダル湖を目指す。かつて草原地帯からパロを目指したスカールとベック公(←懐かしい!いまどうなってるこの人?)はウィレン山脈越えという常識外のルートを選択したが、ドライドン騎士団はあくまでも船で行けるところまで行きたかったようで、ダル湖経由でダネイン大湿原に入るコースを選んだ模様。大陸の大河ってのは、小河川しか知らない日本人からは想像がつかないけど、大きな船がかなり上流まで入れるような余裕があるんですな。

今回派遣されたドライドン騎士団は総勢50名ほど。実質的には副長のブランが実権を握る。これにイシュトヴァーン憎しで平常心を失っているマルコ、密命を帯びている謎の男ファビアンが加わっている。そして、「あのお方」に遭遇してから、メンタルボロボロで衰弱気味のヴァレリウスもこれに同行。さらに弟子のアッシャが付き従う。

カラヴィア、マルガ、そしてクリスタルへ

ダネイン大湿原を越えた一行はカラヴィア経由でパロに入国。このあたりはまだ、カラヴィア公の統治が行き届いているようで、それなりに魔物被害は受けているものの、文明国の体裁は整っている様子。カラヴィア公アドロンって、まだ生きてたんだ。久しぶり過ぎて記憶が薄れている。

しかし、アドリアンをあんなにあっさり死なせてしまったのは失敗だったと思うな。作者も後悔してる。貴重な若手キャラだったのに。パロは主要キャラを殺し過ぎたと思う。あと、リギアとヴァレリウスはちゃんと情報交換してください。

見るからにアヤシイ異国の騎士団が、まがりなりにも文明国(辛うじて)であるカラヴィア公領を平和裏に通過できるのは、パロ宰相ヴァレリウスが一緒にいるから。最近あまりに不甲斐なくて、ついつい忘れてしまうのだが、ヴァレリウスは落ちぶれたとはいえ中原最古の国家パロの宰相。本当は物凄く偉い人なのである。

ヴァレリウス吹っ切れる

クリスタルパレスに入ると、ヴァレリウスとアッシャは、魔導師カル・ハンによって、ドライドン騎士団と引き離され、ナリスとの対面を果たす。っていうか、魔道力のポンプとして使えるアッシャは便利だな……。

ここでナリスについての新情報が明らかに。

  • 死んだ身体の一部を使って、もとの身体を再生する魔道でナリスは復活した(クローン?)
  • ヤンダルがナリスを復活させたのは古代機械を使わせるため
  • でも、生前のナリスによって古代機械はシャットダウンされていて、いまのナリスは近づけない
  • 現在のナリスはパロへの忠誠や愛情を失っている。あらゆる桎梏から自由になった存在。もはやパロはどうでもよく、宇宙生成の真実を知りたいだけ
  • 自殺はできず、傷や毒にも影響を受けない身体になっている

と、復活の事情を説明し、ナリスは改めてヴァレリウスに「最高の股肱」として、ふたたび忠誠を捧げることを求める。

ここでヴァレリウスは、現在のナリスがかつて自らが愛情を捧げた人物とは、まったく異なる別人物だと確信。「あなたは「あの方」ではないのです」と告げて、袂を分かつことを宣言する。「孤独な小児の魂」を持ったかつてのナリスに惹かれていた。でも現在のナリスはその残滓に過ぎない。

ここしばらく廃人状態だったヴァレリウスがようやく精気を取り戻していく展開は、なかなかに爽快で胸が熱くなる。もともとナリスとヴァレリウスは対立させてナンボの構成だったはずなので、大変な回り道をしたけれど、これでようやく本来あるべき姿に戻ったのかもしれない。

レムス救出される

本来の目的であったカメロンの仇、イシュトヴァーンはクリスタルには居らず、ハシゴを外された感のあるドライドン騎士団。ここでブランは淫魔ユリウスに遭遇。ブランの貞操が心配です(笑)。それにしてもシルヴィアはどこに行ったのか?

一方で、古代機械の謎を探るファビアン。魔宮と化したクリスタルパレスに潜入し、なんだかよくわからないオーバーテクノロジーの秘密を嗅ぎまわる豪胆さって、実は評価すべきなのでは?ヤンダルの手の者に遭遇したら即死亡確定の劣悪環境なので、意外とスゴイ人物なのかも。ファビアンの真の目的がどこにあるのか、未だ明かされないので今後に注目である。あとがきでは、パロ以外にある古代機械の可能性も示唆(「紅蓮の島」にあったみたいなやつ)されているので、ファビアン側はなんらかの手札を持っていそうだな。

現ナリスと決裂し、にわかにやる気が出てきたヴァレリウスは、白亜宮に軟禁されているレムスの救出を提案する。ちなみに水晶宮に居るリンダは、結界によって手が出せないらしく今回は後回し。ヤンダル的にはレムスはもう利用価値ないけど、リンダはまだ必要ってことなのかな?

レムスによると、レムスは戴冠の際、ジェニュア神殿地下での「アルカンドロス王の試練」をクリアしていないことが明らかに。どうやらこの時点でヤンダルの操作が入っていたっぽい。まあ、戴冠時のレムスはカル・モル憑きだったから、ヤンダルに何されてもおかしくないけど。

ともあれ、「異国の魔導師に操られ国を滅ぼした王」が、このどん底からどうやって「パロ中興の祖」にまで返り咲くのか?かなり長い道のりになりそう。

次巻は2025年中に出るかな

次回はメモリアルな150巻となる。現在の刊行ペースだと2025年末に出ればラッキー?といった状況だろうか。タイトルは『ルアーの決断』とのこと。現在のこの作品で「ルアー」に相当する人物って誰だろう?お話の順番的にはイシュトヴァーン側のエピソードになるのかな?

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