ライトノベルに脚光があたり始めたころのガイドブック
2004年刊行。子ども向け、オタク向けの小説未満的な存在と捉えられがちだったライトノベル。しかし、2000年代に入ってからレーベル数が増え、刊行点数も飛躍的に伸びていく。この時期。『ライトノベル完全読本』や『このライトノベルがすごい!』などのランキング本も登場して、ライトノベル界隈はとても活気づいていた。
- 作者: 『このミステリーがすごい!』編集部
- 出版社/メーカー: 宝島社
- 発売日: 2004/11/26
- メディア: 単行本
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そんなムーブメントの中、俺たち(大森望・三村美衣)にもなんか言わせてくれよ!的に書かれたのが本書である。
前二作はランキング本でもあり、最初に出たライトノベルガイドという側面もあって、その歴史についての記述も、取り扱い書籍のレビューについても総花的な印象がどうしても拭いきれなかった。
その点本書はライトノベルの歴史について語ること、厳選された100タイトルのみにレビューすることの二点にポイントを絞っているだけに内容が濃くて非常に読み応えがある内容に仕上がっている。
内容はこんな感じ
ライトノベルって何?30年にも及ばんとするその歴史にメスを入れた画期的なガイドブックが登場。黎明期から発展期、そして現在に至るまでの流れを対談形式で紹介。大森望と三村美衣、このジャンルを語らせれば向かうところ敵無しの二人がライトノベル史をめった斬る。既刊数万にも達する膨大な作品群の中から100タイトルを厳選。
ライトノベル黎明期からの読み手が語る
筆者の二人は40代前半(当時)。ライトノベルの歴史の始まりからリアルタイムで読み続けている最初の世代である。なおかつ、現在でも書評で飯を食っているだけあって着眼点が卓越している。
わたしの場合だとライトノベル(と後に呼ばれるようになったもの)を読むようになったのは80年代の初頭。そのころは既にソノラマ文庫もコバルトシリーズも存在していた。つまり、物心ついたときにその手の読み物は存在していたわけで、「登場以前」の状況というものがどうもピンと来ないのだ。
ライトノベル黎明期からの歴史を振り返る
ライトノベルの特性を明確にしながら、その起源は平井和正の『超革命的中学生集団』である!なんてぶちかますあたりは、ああ、なるほどなと目からウロコな思い。リアルタイムでライトノベルの創世記に立ち会えているのは羨ましい。
それから興味深かったのは『ロードス島戦記』前後から始まったコンピュータゲームやらRPGからの影響について触れている部分。
【合本版】新装版 ロードス島戦記 全7巻 (角川スニーカー文庫)
- 作者: 水野良
- 出版社/メーカー: KADOKAWA
- 発売日: 2015/12/04
- メディア: Kindle版
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ゲーム的な概念が読み手に浸透してきた頃から始まる文体の変化。オタク的な文化の影響をモロに受けやすいこの手のレーベルの特徴は、既にこんな時期から始まっていたわけだ。
あえてこの本では詳しく扱っていないけど、ノベライズの受け皿、メディアミックスの一媒体としてのライトノベル。という捉え方も真面目に考察してみると面白そうだ。また書いてくれないかな(他力本願)。
男性向け、女性向けどちらもケア出来てる
筆者が男性、女性二人存在することでそれぞれの不得意分野が補完出来ているのもいいところ。個人的に、どうしても女性向けジャンルは不得手で、『十二国記』や『マリア様がみてる』みたいな超ヒット級しか読んでこなかったので非常に参考になった。
ちなみに本書で紹介された100冊の既読率は46%。コバルトやホワイトハートもちゃんと読まなきゃダメだな。食わず嫌いは良くないなと反省させられたのであった。
本書も刊行から、15年もの歳月が流れてしまった。ライトノベルの歴史も50年になろうとしている。この二人の組み合わせて、ライトノベル半世紀の歴史を振り返る企画を読んでみたいと思うのだが、どうだろうか。