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『真っ暗な夜明け』氷川透 第15回メフィスト賞受賞作

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覆面作家、氷川透のデビュー作

2000年刊行作品。第15回のメフィスト賞受賞作品である。氷川透(ひかわとおる)の最初の作品。この作家、東京大学文学部卒であることは開示されているのだが、それ以外のプロフィールがまったく不明と言う覆面作家である。性別、年齢すらも不明なのである。

真っ暗な夜明け (講談社ノベルス)

本作に先立ち、氷川透は1997年に『眠れない夜のために』で第八回鮎川賞の最終候補にまで残っていたのだが、惜しくも選に漏れている。この作品、島田荘司には高く評価されていたようで、結果的にデビュー作となった『真っ暗な夜明け』では、巻末に島田荘司による「薦」が収録されている。

『眠れない夜のために』はその後、『密室は眠れないパズル』 と改題され、同年のメフィスト賞受賞後、原書房より書籍化されている。

ちなみに、氷川透の作品は9作が世に出ているのだが、全て文庫化されていないという哀しい宿命を背負っている。2005年の『見えない人影 各務原氏の逆説』 以降は新作も出ていない。さすがにもう、作家としての活動はされていないだろうか。

おススメ度、こんな方におススメ!

おすすめ度:★★★(最大★5つ)

本格ミステリの真相を自分で考えて、自分で解明してみたいと思っている方。エラリー・クイーンテイストの、精緻でロジカルに構成されたミステリ作品を読んでみたい方。メフィスト賞受賞作品を読んでみたい方におススメ。

あらすじ

氷川透はミステリ作家志望のフリーター。学生時代のバンド仲間たちとの久々の再会を果たしたその晩に、中心的人物であった和泉吾朗が殺害される。現場は地下鉄M線の杉並駅構内。深夜ということもあり、その場に居合わせたのは氷川たちのグループのみ。密室状態の地下鉄駅構内で、事件はどのようにしておこったのか。

ここからネタバレ

端正に構築された論理のパズル

本作の主人公は氷川透。つまり主人公の名前が作家名と同じ。本格ミステリ界には定番とも思える、エラリー・クイーンの顰みに倣いたい!という志を感じるネーミングである。

端正に構築された、論理のパズルであり、真摯に向き合えばきちんと謎は解けるようなっている。一見して、どこから解けばいいのか悩むところもあるのだが、どうしてブロンズ像の台座が使われたのか。という点に注目していくと、するすると謎が解けてくると。絡み合った糸が、キレイに解けていくかのような快感を味わえるという点で、得難い作品と言えるかもしれない。

世界観的には仄かに青春ミステリ風なのだが、それほど感傷的な方向には走っていないあたりも好印象なのである。

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