高里椎奈による「密室本」
2002年刊行作品。講談社ノベルズ20周年企画「密室本」の一冊である。高里椎奈(たかさとしいな)と言えば、薬屋探偵シリーズが定番だったが(当時)、本作は初の非薬屋シリーズ作品だった。
その後『お伽話のように』『左手をつないで』と続いていくドルチェ・ビスタシリーズの一作目である。副題のドルチェ・ビスタという言葉には甘い景色というルビが振られている。
なお、本シリーズは全三巻構成となっているが、いずれもノベルス版のみで文庫化はされていない。
おススメ度、こんな方におススメ!
おすすめ度:★★★(最大★5つ)
ファンタジー世界を舞台とした、特殊な状況だからこそ成立するタイプのミステリ作品を読んでみたい方。ファンタジーでありながらミステリの要素を併せ持った作品がお好きな方。比較的初期の高里椎奈作品を読んでみたい方におススメ。
あらすじ
世界中でたった31人しかいない閉ざされた世界。生まれ落ちたばかりのキンカンはリラと名乗る少女に拾われ、彼女の仲間たちと共に暮らすようになる。五人の仲間はキンカンに優しく接してくれるのだが、ロールコールの集落の人々は彼に対して警戒の目を向ける。小さな世界の中で起きた殺人事件。人々の疑惑の視線はキンカンに注がれるのだが。果たして事件の真相は意外なところに……。
ここからネタバレ
ファンタジー世界での密室設定
ということで高里椎奈の新シリーズの始まりでもある。「密室本」なのでテーマは密室である筈なのだが、今回の事件は密室で起きているわけではない。舞台となる世界が極端に狭く閉じた空間なので、無理矢理に広義で捉えれば密室と言えなくもないのだが。
ファンタジー仕立てで、登場人物の中には人間ですら無いキャラクターも多数登場する。自然現象としてもこの世界ならではの事象が数多く発生。こうなるとオチはいくらでもファンタジー風に落とすことが出来る!
なんてミスリードさせといて、実は極めてミステリ的に現実世界の法則で落とし前を付けるんだろ、と裏読みしていたのに、最後はわりとド直球でファンタジーオチにしてきた……。えー、そうなのかよ。
作者が構築した独特の世界を楽しんでもらえる読者だけ読んでくれればいい。そんな香りが濃厚に漂うのはいかにも高里作品らしい。薬屋シリーズと同様に読み手を選ぶ作品だろう。生きていくのってタイヘンだよね。人を信じるのってシンドイ時もあるよね。でも頑張って暮らして行こうよ!って気持ちはわからないのでも無いんだけど、出会って数日の疑似家族相手に、これだけの感情が生まれてしまのは、違和感を覚えずにはいられないのであった。
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