木更津悠也が登場する短編集
2004年刊行作品。光文社のミステリ専門誌「ジャーロ」等に掲載されていた作品をまとめたもの。麻耶雄嵩(まやゆたか)作品における名探偵木更津悠也の活躍を描く。
作者の麻耶雄嵩は1969年生まれ。1991年の『翼ある闇 メルカトル鮎最後の事件』がデビュー作(これ大好き!)。
『貴族探偵』がテレビドラマ化されて一気に一般層での認知度が上がった感がある。けど、wikipedia先生では代表作が『貴族探偵』とされて、なんだか釈然としない気分である。個人的には1994年の『夏と冬の奏鳴曲』が最高傑作。
しかし『翼ある闇』で読んだ筈なのだけど。木更津悠也の存在を完全に忘れていた。摩耶作品で、探偵というとメルカトル鮎の印象があまりに強すぎるのがいけない。あちらは「銘」探偵だけどさ。
光文社文庫版は2007年に刊行されている。
あらすじ
京都の名家で起きた殺人事件。犯人は長男の嫁か、それとも放蕩者の甥なのか「白幽霊」。学園で発見された遺体。被害者は全身を石灰の粉に覆われていた「禁区」。初対面の男に酔った勢いで交換殺人を持ちかけてしまった男。その意外な結末とは「交換殺人」。女子大生は何故殺されなくてはならなかったのか。盲点は思わぬところに「時間外返却」。四編を収録した推理短編集。
堅実なミステリ
本作は摩耶雄嵩の作品としてはかなりノーマルな本格モノ。アクロバットな楽しみは無いが、堅実なミステリが楽しめる。説明不足に思える点が無きにしもあらずだけど、短編故のキレ優先と考えると仕方のないところだろうか。収録された四編にはそれぞれの作品に共通して「白い幽霊」が登場する。しかしその謎は本編では解明されない。え、これ次の話はどれ??なんだかとても気になる。
香月のキャラが面白い
ワトソン役の香月が盲目的に木更津を崇拝しているように見えて、意外にブラックなところがファン的には楽しめるところだろうか。木更津のキャラクターは典型的な「よくある」名探偵像。抜群の観察力と推理力を持つが、気むずかしくて、プライドが高い。判りやすいけど個性としては平凡で弱い。ま、記号みたいな扱いでいいのかな。
本作を読むと何故か無性に『翼ある闇』を再読したくなってくるのは何故なのだろうか。