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『輝く断片』シオドア・スタージョン 河出の「奇想コレクション」が面白い!

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河出書房新社「奇想コレクション」中の1冊

2005年刊行。河出書房新社が刊行していた「奇想コレクション」の第六集にあたる。

「奇想コレクション」は2003年から2013年にかけて、河出書房新社が刊行していた叢書で、海外のエスエフ、ミステリ作家らによる日本オリジナルの短編集だ。全20冊。

ラインナップの詳細はWikipedia先生を参照のこと。

ちなみに、わたしは全部集めたかったのだけど残念ながら挫折した。

輝く断片 (奇想コレクション)

気になっていながらも、なかなか手に入らず(当時、古本で探してたから仕方ないのだが)、ようやく近所の書店でみかけこれも縁だと思って引き取ってきた次第。「このミス2006」海外部門第四位。「ベストSF」海外部門第九位、そして星雲賞海外短編部門受賞。

2010年に河出文庫版が刊行されている。電子化はされていないもよう。こういう海外モノは版権処理が大変なのかもしれないね。

おススメ度、こんな方におススメ!

おすすめ度:★★★(最大★5つ)

シオドア・スタージョン作品を読んでみたいけど、どれから読んでいいから悩んでいる方、狂喜に満ちたエスエフ作品に触れてみたい方、読後になんとも言えない重た~い気分を味わいたい方におススメ。

あらすじ

資産家の叔母の財産目当てで乗り込んだ若い夫婦。彼らの元に降ってわいた謎の子供の正体とは?「取り替え子」。完全無欠の男に対する果てしなき妄執。その果てに行き着いたものは「マエストロを殺せ」。決して悪いことの出来ない男が人生を変えるためにした決意とその結果「ルウェリンの犯罪」他。短編小説の名手スタージョンの作品から選りすぐった至高のコレクション。

ココからネタバレ

スタージョン再評価の流れを作った一冊

シオドア・スタージョンはアメリカのエスエフ作家。恥ずかしながら海外エスエフ門外漢のわたしは、そもそもシオドア・スタージョンが、当時すでに故人であることを知らなかった。情けない限りである。

本書はあまり日本では知られていなかったスタージョンが、再評価されるきっかけとなった作品の一つ。八編の作品が収録されている。収録されている八編は、硬軟というか剛柔というか、それぞれ口当たりは変えていながらも、通底したテーマ「平穏な日常に突然わき起こる狂気」という部分で足並みを揃えていて、ここいら辺は選者の大森望のセンスなのだろう。

冒頭の三作は比較的軽め。挨拶代わりといったところだろうか。後半に収録されている作品ほど暗澹たるテイストになっていて、一番最後に登場する表題作「輝く断片」はその内容の重さと、最後に明らかになるタイトルの意味とで、やりきれない余韻がずっしりと心に残る。これを表題作にしたのは正解だと思う。

以下、特に気になった二作品について簡単にコメント。

ルウェリンの犯罪

生まれついての善人で悪いことなんか考えたことも無かった主人公が、パートナーの何気ない行為から人生を暗転させていくお話。邪悪な意思はどこにも存在しないのに、悲劇的な結末へと崩れ落ちていく展開がいたたまれない。

マエストロを殺せ

個人的に一番好み。醜男のバンドMCが、イケメンのバンドリーダーを殺そうと悪戦苦闘する話。音楽好きにはたまらない設定だろう。単なる小悪党の犯罪の記録と思わせておいて、実は音楽の本質はどこに宿っているのか?みたいな深淵をほんの少しだけ垣間見せてくれるのだ。

リーダー本人を殺しても、彼が残した音楽は死なずにバンドの中に生き続ける。どうすればその音楽は殺せるのか。どす黒い人間の妄念であふれかえった内容なのに、読後感は不思議にサッパリ。実に不思議な作品なのであった。この切れ味はたまらない。

ということで、スタージョンは面白い!奇想コレクション侮りがたしなのであった。やっぱり、また探して読もうかな。

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