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『#真相をお話します』結城真一郎 想像を超えた「真相」に震撼せよ!


日本推理作家協会賞、受賞作を収録

2022年刊行作品。作者の結城真一郎(ゆうきしんいちろう)は1991年生まれのミステリ作家。2018年に『スターダスト・ナイト』(刊行時のタイトルは『名もなき星の哀歌』)が第5回新潮ミステリー大賞を受賞し作家としてのデビューを果たしている。

『#真相をお話します』は2019年~2022年にかけて、新潮社の小説誌「小説新潮」に掲載された五編の短編作品をまとめたもの。収束柵のひとつ「#拡散希望」は第74回日本推理作家協会賞の短編部門を受賞している。

#真相をお話しします

本作は10万部を超えるヒット作となっており、書店で平積みされているのを見かけた方も多いのではないだろうか?

軽くググっただけでもたくさん記事が出てきた。本作は結城真一郎のブレイク作品となっている。

漢字は違うが、もうひとりの「ゆうき」こと、夕木春央が『方舟』で大ブレイクを果たしそうな勢いであり、今年のミステリ界はふたりの「ゆうき」が輝いた年として、後年記憶されていくことになりそうだ。

おススメ度、こんな方におススメ!

おすすめ度:★★★★(最大★5つ)

周到な仕掛け、意外な結末にとにかくビックリしてみたい方。短時間ですぐ読める、切れ味の鋭いミステリ短編集を読んでみたい方。「真相」を予想してみたい方。いま、話題のベストセラーミステリを読んでみたい方におススメ!

あらすじ

家庭教師のアルバイト先で起きた身の毛もよだつ出来事(惨者面談)。マッチングアプリで知り合った男女、それぞれの思惑とは(ヤリモク)。十数年前に行った「精子提供」で生まれた<娘>がもたらす意外な事実(パンドラ)。学生時代の友人たちとの気軽なオンライン飲み会が思わぬ展開に(三角奸計)。島に四人しかいない子ども。彼らは「ゆーちゅーばー」になろうとするのだが(#拡散希望)。五編を収録した短編集。

ここからネタバレ

以下、各編ごとにコメント。

惨者面談

初出は「小説新潮」2019年2月号。

東京大学在学。アルバイトとして家庭教師の営業をしている片桐は、新たな依頼を受け、相手先の家庭を訪れる。児童の名は矢野悠。12歳。平凡な家庭に思えた矢野家だったが、母親の謎の行動、怯え切った悠の態度に、次第に片桐は追い詰められていく。

家庭教師の営業で訪問した家の、母親が明らかにおかしい。ちょっとしたことでブチ切れて来るし、当初の依頼内容とつじつまも合わない。子どもの方も落ち着きがなくて、極度の緊張状態にある。どう考えても母親が怪しい。と、思わせておいて、実は子どもの方もというオチ。まさに「惨者」面談というところか。

ヤリモク

初出は「小説新潮」2021年2月号。

マッチングアプリで知り合ったケントとマナ。42歳のケントは美容師で、妻の奈々子と、大学生の娘、美雪がいる。ケントとマナは初対面だったが、いい感じでコトは進行し、ケントはマナの自宅に上がり込むことに成功する。しかし二人にはそれぞれ、「本当の目的」があって……。

マッチングアプリで、狙った通りに好みの女の子に出会えた主人公は、目的を達成できるのか?あまりに都合よく自体が進展していくので、これは罠が待っていそう。と、読み手を誘導しておいて、予想外の方向に裏切ってくる展開がお見事。「ヤリモク」というタイトルが最後に効いてくる。最後にもうひとひねりあるのもイイ!

パンドラ

初出は「小説新潮」2021年9月号。

主人公の翼は、妻の香織と高校二年生の娘、真夏の三人暮らし。かつて不妊治療で苦しんだ翼は、誰かの役に立てればと自らの精子を第三者に提供した過去がある。十数年の歳月を経て、もう一人の<娘>が自分に会いに来る。彼女は意外な事実を告げるのだが……。

翼がかつて精子を提供した女、美子(よしこ)の、元配偶者は、連続幼女誘拐事件の犯人として逮捕された宝蔵寺雄輔だった。というところから、翼夫婦と、娘、真夏の関係性にまでくさびを打ち込んでくる展開。タイトルの「パンドラ」は言うまでもなく「パンドラの箱」を示唆するもの。作中の表現を借りるなら「あえて原因の所在を突き止めずにおく」ものといったところか。

本作で問題となってくる、登場人物たちの血液型は以下の通り。

  • 美子:O型
  • 翔子:B型
  • 宝蔵寺雄輔:A型
  • 香織:B型
  • 真夏:AB型
  • 翼:A型のはずがB型?

O型の美子と、A型の宝蔵寺の間にB型の子どもは生まれない。結果として翔子は翼の娘ということになり翼はB型でなくてはならない。

だが、翼の妻の香織はB型で娘の真夏はAB型だ。これは翼がA型であれば問題ないが、B型であるとありえない話になる。

パンドラの箱の中には最後に「希望」が残っていたとする伝説がある。翔子は翼を実の父親と信じることで「希望」をつないだ。一方の翼は、パンドラの箱をそもそも「開けない」ことでこれからの人生を生きていくこと選ぶ。

三角奸計

初出は「小説新潮」2022年2月号。

主人公の桐山、遊び人の茂木、そしてお笑い担当の宇治原。三人は大学時代「イツメン(秀逸なメンズ)」として意気投合した間柄。社会人になって疎遠になったものの、久しぶりにオンラインでの飲み会が開催される。しかし、宇治原から届いた殺人予告のチャットメッセージに桐山は青ざめる。

茂木に向けられているとばかり思っていた宇治原の殺意が、実は自分に向けられたものだったとしたら。怖ええ~。オンライン飲み会を利用したアリバイトリック。離れた場所にいる彼らが、いかにして相手に意図を悟られずに犯行を成し遂げるか。Uber Eatsを使った、部屋の特定や、潜入工作が巧い。しかし、茂木はそこまで協力する義理はあったのだろうか。

#拡散希望

初出は「小説新潮」2020年2月号。

「#拡散希望」は現在、無料お試し版として読むことが可能(2022年11月5日現在)。

長崎県沖の孤島、匁島(もんめしま)。人口150人の島には、子どもが四人しかいない。東京からの移住組である主人公は、とある事件をきっかけに島の人々の態度がよそよそしくなったことを実感する。その事実の背景には何があったのか。

登場する島の子たちの一覧はこちら。

  • 渡辺珠穆朗瑪(ちょもらんま):主人公。東京からの移住組。
  • 桑島砂鉄(くわじまさてつ):東京からの移住組。
  • 安西口紅(あんざいるーじゅ):東京からの移住組。
  • 立花凛子(たちばなりんこ):唯一の島生まれの子。

移住組の子たち全てがキラキラネームなのにはきちんとした理由がある(酷い理由だけど)。教育のためと称して、スマホを子どもに与えない両親。殺されてしまった迷惑系YouTuber「キンダンショウジョウ」。そして、凛子が謎の死を遂げる。

大人たちの酷すぎる仕打ちと、ずっと虐げられてきたと知った主人公の造反。ダークに反転する物語構造と、暗澹たるラストが切ない。

物語の構造がひっくりかえる魅力

以上、『#真相をお話します』に収録されている五編をざっくりとご紹介させていただいた。いずれの作品も、当初読み手が抱いていた印象、先入観が、物語の終盤になって見事なまでにひっくり返される。どんでん返し系が好きな方なら、これは堪らないだろう。

しかも、よくよく読み込んでいくと、作中にはいくつもの手がかりが散りばめられている。実はヒントはしっかり提示されていたのだ。読み終えた瞬間に、もういちど読み返したくなる魅力に溢れた作品群と言える。今年のミステリ系各賞では、いいところまでいくのではなかろうか。

音声朗読のaudible版は2022年11月25日から配信開始予定。

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