「裏世界ピクニック」シリーズの第五弾
2020年刊行作品。『裏世界ピクニック ふたりの怪異探検ファイル』『裏世界ピクニック2 果ての浜辺のリゾートナイト』『裏世界ピクニック3 ヤマノケハイ』『裏世界ピクニック4 裏世界夜行』に続くシリーズ第五弾である。
音声朗読のオーディブル版はこちら。ナレーションは髙野麻美が担当している。
おススメ度、こんな方におススメ!
おすすめ度:★★★(最大★5つ)
ネット怪談、実話系怪談がお好きな方。怖くても泣かない!我慢できる!いや、むしろそれがいい!と思っている方。「遠野物語」的なエピソードがお好きな方。空魚と鳥子のその後が気になる方におススメ。
あらすじ
空魚と鳥子、更に小桜、茜理、夏妃たちまでをも巻き込んで開催されたラブホ女子会の顛末(ポンティアナック・ホテル)。鳥子の通う大学を訪れた空魚が迷い込んだ不思議な空間の秘密(斜め鏡に過去を視る)。裏世界に存在する奇妙な館と謎の老婆(マヨイガにふたりきり)。肋戸の消息を追うことになった二人が遭遇する、新たな脅威(八尺様リバイバル)。四編を収録したホラー短編集。
ココからネタバレ
以下、いつものように各編ごとにコメント。
本作に収録されているのは前半の二編が現実世界、中間領域のお話。後半の二編が裏世界のエピソードとなっている。
ポンティアナック・ホテル
鳥子(とりこ)に詰め寄られラブホ行きを余儀なくされた空魚(そらお)は、窮余の一策として、小桜(こざくら)、茜理(あかり)、夏妃(なつみ)を呼び寄せ「ラブホ女子会」を企画する。
前巻あたりから、グイグイ距離を詰めてくるようになった鳥子と、その想いを受け止めきれないでビビっている空魚の逡巡が楽しめるガールズトークエピソード。ポンティアナックについては、こちらの記事も参照のこと。
ちなみに空魚たちが泊まったホテルは、ハニトー(ハニートースト)が出てきていることから、こちらの系統の店舗かな?ハニトーは、カラオケのパセラ系列でも食べることが出来る。
作中で「獅子舞」と書かれていた「バロン・ダンス」はこんな感じものらしい。うーん、これは確かに「獅子舞」だ。
ストーリー的には、潤巳(うるみ)るなが地味に復活。「私、きれい?」は、1970年代後半に一世を風靡した「口裂け女」の決め台詞である。潤巳るなは、このまま怪異化していくのだろうか?
斜め鏡に過去を視る
ラブホ女子会から二週間。鳥子との連絡が取れなくなる。不安に駆られ、鳥子の通う大学を訪れた空魚は、そこで新たな怪異に遭遇する。中間領域に入り込んでしまった空魚。二人は再開することが出来るのか。
鳥子の通う学校、上智大学だったんだ!「中央線の四ツ谷駅を降りてすぐの場所」にある大学っていったら上智しかないよね。
迷い込んだ中間領域で、空魚は鳥子の視点から見た過去の自分を知ることになる。鳥子の自分に対する「好き」をまざまざと見せつけられ、空魚はこれほどの想いに真剣に向きあえるのかと自問自答する。じわじわと二人の距離感が縮まっていく流れがいい感じ。
ネタ元とされる「斜視」のお話はこちら。
ネタ元とされる「4Fの女子トイレ」のお話はこちら。
マヨイガにふたりきり
空魚と鳥子は<牧場>から、AP-1を持ち込み、裏世界の探索を再開。そこで二人は、奇妙なお屋敷に迷い込むことになる。そこで出会った、外館(とだて)と名乗る謎の老婦人。彼女の正体は……。
「マヨイガ(迷い家)」は、東方地方を中心に伝承される山中の謎のお屋敷。
ネット怪談としての「マヨヒガ」のお話はこちらから。
恐い話というよりは、不思議な話とするべきか。静謐で雰囲気のあるエピソード。外館と猟犬(ボルゾイ)のハナとの二人だけで閉じた関係性は、これからの空魚と鳥子の在りようを暗示している?裏世界の食べ物、とても美味しそうなのだけど、食べれば食べる程、帰ってこられなくなるような気がする。
八尺様リバイバル
夫を探してほしい。肋戸(あばらと)誠司の妻を自称する女、肋戸美智子の突然の来訪が、空魚と鳥子を困惑させる。つじつまのあわない美智子の話に、違和感を覚えながらも二人は、肋戸の痕跡を追うべく裏世界へ向かう。
シリーズ一作目、『裏世界ピクニック ふたりの怪異探検ファイル』収録エピソード「八尺様サバイバル」のその後的なお話。
巻末で紹介されている実話怪談史上重要な一冊とされる、1991年刊行の『あやかし通信』はこちら。
2002年に復刊されたハルキ・ホラー文庫版はこちら。どちらの版もAmazonのマーケットプレイスなら取り扱いがあるみたい。読んでみようかな。
身近な存在を装って接触を図ってくる八尺様(というか、その背後にある存在)が恐ろしい。ノスタルジーを喚起する昭和っぽい不思議空間は、怖いけどちょっと行ってみたい気もする。裏世界から回収された、謎の子どもは今後のキーパーソンになるのだろうか。