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『裏世界ピクニック3 ヤマノケハイ』宮澤伊織 怪異より怖いのはカルト!

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「裏世界ピクニック」シリーズの第三弾

2018年刊行作品。『裏世界ピクニック ふたりの怪異探検ファイル』『裏世界ピクニック2 果ての浜辺のリゾートナイト』に続くシリーズ第三弾である。

裏世界ピクニック3 ヤマノケハイ (ハヤカワ文庫JA)

これまで1冊あたり4編を収録して来た「裏世界ピクニック」シリーズだが、今回は3編のみを収録。ラストエピソードの「ささやきボイスは自己責任」のボリュームが多め。その分、新たな敵対勢力が登場し、物語が大きく動いていく展開となっている。

おススメ度、こんな方におススメ!

おすすめ度:★★★(最大★5つ)

ネットの怖い話が大好き!という方。「ヤマノケ」「サンヌキカナ」「地下のまる穴」「山の牧場」と聞いて、何の話かわかってしまう方。怪異×ガールミーツガールの組み合わせが大好物の方におススメ。

あらすじ

自走マシンAP-1を裏世界に持ち込み、現地の探検を再開した空魚と鳥子は、展望台のような不思議な建物を発見する(ヤマノケハイ)。カラテカこと瀬戸茜理が持ち込んだ厄介事。それは奇妙な老婆がもたらす怪異だった(サンヌキさんとカラテカさん)。閏間冴月の消息を巡り、怪しげなカルト集団が登場。空魚と小桜に危機が迫る(ささやきボイスは自己責任)。

ココからネタバレ

以下、今回も各エピソードについて個別にコメントしていこう。

ヤマノケハイ

AP-1での裏世界調査を開始した紙越空魚(かみこしそらお)と仁科鳥子(にしなとりこ)。そこで二人は奇妙な構造の展望台にたどり着く。突如出現した「ヤマノケ」の怪異。「ヤマノケ」に取り憑かれてしまった空魚に対して、鳥子が取った行動は……。

相変わらず、非日常的過ぎる裏世界で、まったりランチタイムを取れてしまう二人の精神構造が謎。しかも当然のようにピンチになってるし。イチャイチャするなら現実の世界でも出来るだろうに。というか、非日常の世界だからこそ、関係を深めることが出来るということなのか。

お互いに認知してなかったそれぞれの過去。空魚の親族に関するカルト絡みの話。鳥子にはママとお母さんがいた話(父親はいないのか?)。どちらも訳ありの過去を持っているようで、それを共有出来たことで更に親密度がアップした感じ。

このエピソードに登場するヤマノケはこんな怪異である。白いのっぺりとした体。頭が本来の位置に無く、胸の位置についている。ビジュアル的にこれはかなりキツイ。

サンヌキさんとカラテカさん

小桜の家で、空魚と鳥子はカラテカこと瀬戸茜理(せとあかり)に再会する。幼馴染の市川夏妃(いちかわなつみ)が「サンヌキカノ」の怪異に襲われている。助けを求められた二人は、市川夏妃の元に向かい、「サンヌキカノ」と対峙することになる。

これまで空魚が遭遇してきた怪異は、空魚自身が知っているネット怪談由来のものばかりだった。これは、裏世界の「かれら」が、空魚の頭の中にある怪異の知識を媒介として接触を図っているのではないか。との疑惑があった。

しかし、今回、事件を持ち込んだのは瀬戸茜理と市川夏妃であり、ネット怪談には全く詳しくない人間だ。空魚は裏世界の「かれら」が、表の世界での空魚たちに接触を図るために、二人を利用しているのではないかと推測する。裏世界だけでなく、表の世界までもが怪異に浸食され始めている点がなんとも不気味。

市川夏妃が事件に巻き込まれた発端として、Youtubeでの「ウルミルナ」動画の存在が判明する。知ったら伝染する自己責任系の話。伝染性の怪異をネットで故意に拡散している人間がいる。「ウルミルナ」は、次のエピソード「ささやきボイスは自己責任」

このエピソードに登場するサンヌキカノはこんな怪異。

ささやきボイスは自己責任

謎のカルト集団に拉致された空魚と小桜は、そこで閏間冴月(うるまさつき)を熱烈に信奉する潤巳(うるみ)るなに出会う。「魅了の声」の前に苦戦を強いられる空魚。小桜から情報を引き出した潤巳るなはDS研究所に乗り込み、閏間冴月の残したノートを手に入れようとする。

第三巻のメインエピソードである。この巻の後半半分はこのお話で占められている。三人目の第四種接触者として「魅了の声」を持つ潤巳るなが現れる。「邪視」の力を持つ空魚、「異界に触れる手」を持つ鳥子に対して、敵対勢力として登場するのである。

理由の全く分からない怪異も怖いが、物理的な暴力を伴った人間の妄念も怖い。最大の危機を迎えて、対カルトモードが再起動する空魚も主人公ながら相当に怖い。空魚の「邪視」は過去に瀬戸茜理に対して使われたことがあったが、敵と判断した相手に対して容赦なく使うと半端なくヤバい能力であることがよくわかる。カメラ越しでも有効なのかよ。とうとう、鳥子も生身の人間相手に銃撃ってるし。物語のヤバさが加速している感を強く覚える。

閏間冴月は何をしたいのか?

『裏世界ピクニック2』の「箱の中の小鳥」エピソードで、DS研究所を訪れた空魚(かみこしそらお)は、閏間冴月のノートを読み上げた。この際に閏間冴月の出現を目撃している(鳥子は見ていない)。

『裏世界ピクニック3』でも閏間冴月の幻影は、空魚にだけ見える形で常に付きまとってくる。どうして鳥子や、小桜には見えないのか?髪を伸ばした空魚が、閏間冴月に似ていることは何かの意味があるのか?

「ささやきボイスは自己責任」のラストで、閏間冴月は禍々しい存在となって鳥子を連れ去ろうとする。閏間冴月は空魚にしか見えなかったくせに、実際に必要なのは鳥子の方だってことだよね。このあたりも実に謎である。

むやみやたらに鳥子を求めてくる点で、閏間冴月は闇堕ちした後の空魚なのでは?という仮説を立てておこうか。真相は続巻を読めばわかるはずである。

本作に登場する「地下のまる穴」はこんなお話。

そして「山の牧場」はこんなお話。

なお、巻末で紹介されている『「自己責任系」考察サイト(仮)』(http://www.geocities.jp/zikosekininkei/)は、作者が指摘している通り、ジオシティーズのサービス終了に伴い、現在は閲覧不可となっている。残念。

裏世界ピクニック3 ヤマノケハイ (ハヤカワ文庫JA)

裏世界ピクニック3 ヤマノケハイ (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者:宮澤 伊織
  • 発売日: 2018/11/30
  • メディア: Kindle版
 

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