三年間のブランク後の新シリーズ
2008年刊行作品。以前に紹介した『ミナミノミナミノ』から数えると、なんと秋山瑞人としては、三年ぶりに出た新刊が本作である。
一巻だけ出てその後三年間、何の音沙汰もなかった『ミナミノミナミノ』はいらない子であったと考えてよいかと思われる。酷い。酷すぎる。いくら『イリヤ』と話が被ってたいたからってあんまりである。
この作家は、更にもう一作『E.G.コンバット』を完結させずに放置しており、これで前科二犯なのだ。新シリーズはじめるなとは言わないけど、ちゃんと完結させて欲しい(切なる願い)。
おススメ度、こんな方におススメ!
おすすめ度:★★★(最大★5つ)
血湧き肉躍る、とても熱い中華ファンタジーを読んでみたい方。剣劇バトル系の作品がお好きな方。身分にものすごく差があるカップルモノに興味がある方。何年も続きが出なくても耐えられる方におススメ。
あらすじ
被差別民「言愚」の少年涼孤は天涯孤独の身の上。卯王朝の都、元都で似顔絵描きと、講武所の下働きで生計をまかなう日々。かたや月華は王国の第十八皇女。たびたび屋敷を抜け出してはお忍びの市中徘徊を楽しんでいた。出会う筈の無い二人が出会ってしまったことで時代は動き始める。"龍の末裔"たる涼孤の振るう剣はいかなる因果を世界に呼び込むことになるのだろうか。
ここからネタバレ
被差別階級の少年と皇女、超身分差カップルは成立するのか?
本作秋山瑞人初のオリエンタルファンタジーだ。架空の中国風王朝(卯王朝)を舞台とした物語である。見てきたような嘘をつく力はさすがに秋山瑞人。相変わらず物凄く上手い。空気の臭い。街の喧噪。光と陰のコントラスト。いきなり異世界へと読者を呼び込む筆力はやはり健在なのであった。
この作品ではかなり露骨に差別ネタが描かれていて驚かされる。小説以外のメディアではこういう話は出来ないだろうな。
主人公の涼孤(ジャンゴ)は言愚と呼ばれる、被征服民たちの中でも最下層の山岳民族という設定だ。まともな職業には就けないし、殴られようが何をされようが何も言えないような被差別階級である。涼孤はあまりに幼いころから迫害され続けてきたために、現実世界に一切の望みを持たなくなっている、諦観という言葉がもっともよく似合う主人公だ。
一方、ヒロインの月華(ベルカ)は、卯王朝の第十八皇女なのだ。皇女さまと被差別階級の少年。これ以上はないだろうという程の身分差カップルが、この先どうなっていくのかに注目である。本巻では月華の無垢にして無知な部分だけがひたすら強調されていただけに、これがいつ暗転してくるのか、ダークな期待を抱かずには居られない。秋山瑞人作品の常だとこういうキャラクターは長生きできない可能性大なので心配で仕方がない。
ただ一つの誇りは剣を振るうこと
侮辱を受け、罵倒され、暴力を振るわれてもヘラヘラとしていられる涼孤だが、唯一の拠り所として居るものが、屈指の腕前を誇る剣の腕である。天賦の才なのか、伝説の流派の生き残りなのか、涼孤が用いる剣術にはいろいろな秘密が隠されていそうなのだ。
そして、本作の面白いところは、なんと深窓の令嬢である月華にも、抜群の剣の天稟が備わっていたという点であろう。インフレ的に上達していく月華の技量が、次巻での注目ポイントかと思われる。
しかしながら、本巻は導入部、長大なプロローグ巻ということで、主人公たちの戦闘シーンは登場しなかった。こういう話は戦ってナンボなので、この辺は次巻に期待といったところだろうか。
一巻目は長大な導入部だった
『ミナミノミナミノ』でも思ったのだが、ライトノベル作家って、売れてくると一巻目での起承転結を問われなくなってくる傾向があるのではないだろうか?『E.G.コンバット』や『猫の地球儀』、『イリヤの空 UFOの夏』でさえも、単巻で最低限のオチは着いていたのである。それが『ミナミノミナミノ』や、本作になってくると一冊まるまる導入部なのだ。
売れっ子作家になってきて、続巻が出せることが明確だから、最初の一巻目だけで物語の決着をつける必要が無くなっているのでは?なんて考えてしまうのだが、邪推に過ぎるかな。
「龍盤七朝」シリーズは他にもある
あとがきによると、「龍盤七朝」シリーズは古橋秀之との共同企画であるらしい。共通の世界観を複数の作家で使っていこうという趣旨である。古橋版の「龍盤七朝」としては以下の作品が刊行されている(わたしは未読)。こちらも読んだら、後日感想をあげる予定なので、しばしお待ちを。
秋山瑞人作品全作レビューも残りあと一冊!次巻の『龍盤七朝 DRAGONBUSTER 02』の感想はこちらから。
その他の秋山瑞人作品の感想はこちら
代表作『イリヤの空 UFOの夏』の感想はこちらからどうぞ。
デビュー作『E.G.コンバット』の感想はこちらからどうぞ。
第二作『鉄コミュニケイション』の感想はこちらからどうぞ。
第三作『猫の地球儀』の感想はこちらからどうぞ。
第五作『ミナミノミナミノ』の感想はこちらからどうぞ。