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「裏世界ピクニック」シリーズの第四弾

2019年刊行作品。『裏世界ピクニック ふたりの怪異探検ファイル』『裏世界ピクニック2 果ての浜辺のリゾートナイト』『裏世界ピクニック3 ヤマノケハイ』に続くシリーズ第四弾である。

裏世界ピクニック4 裏世界夜行 (ハヤカワ文庫JA)

おススメ度、こんな方におススメ!

おすすめ度:★★★(最大★5つ)

怪談、特にネットで語られる不思議な話に興味がある方。「件(くだん)」「パンドラ」「禁后」「赤い人」「こんなキーワードにビビッと感じるものがある方。ガールミーツガール系の冒険譚を読みたい方におススメ。

あらすじ

空魚と鳥子は、潤巳るな率いるカルト集団が残したアジトを探索する(あの牧場の件)。怪異のターゲットは遂に、現実世界の空魚自身に!謎の隣人がもたらす恐怖(隣の部屋のパンドラ)。小桜のくれた温泉旅館への招待券。そこで遭遇するあらたな怪異(招きの湯)。パワーアップしたAP-1で乗り出した夜間の裏世界の旅(裏世界夜行)。

ココからネタバレ

以下、例によって各編ごとにコメント。

あの牧場の件

空魚と鳥子は、潤巳(うるみ)るな率いるカルト集団が残した本拠地<牧場>の後始末に呼ばれる。怪を語れば怪至る。さまざまなネットロアのシチュエーションが再現された<牧場>で、二人は新たな怪異に遭遇する。

DS(ダークサイエンス)研究奨励会の事務局長、汀曜一郎(みぎわよういちろう)のビジュアルが初登場。袖口から見えるマヤ文字の刺青がヤバそう。このシリーズは、ハヤカワ文庫のわりにはイラストが入っているのが嬉しい。DS研は潤巳るなの一件で、スポンサー収入が入るようになり、今後存在感を増してきそう。民間軍事会社トーチライトの笹塚二胡(ささづかにこ)も初登場している。

最後に登場する件(くだん)はこんな怪異。本作内では牛女の怪異とセットで現れる。

小松左京の「くだんのはは」にも登場したり、フィクションの世界でも比較的よく出てくるお馴染みの怪異である。

牛の身体に人の顔。これだけでも十分に怖いが、今回の件は、空魚の父親の顔を持ち、声は祖母のもの。不気味な怪異に肉親のパーツが使われているのはかなりキツイ。これはSAN値削られる。

件の怪異は、未来を予言するのが特徴である。件の言葉は以下の通り。

「あかいひとがくるぞ、もどってくるぞ、そらを」

「いまわしいおんな、わざわいのたねだ、おまえは、ははおやににてーー」

『裏世界ピクニック4 裏世界夜行』より

件の予言は必ず当たる。「あかいひと」「わざわいのたね」「ははおやににて」このあたりは今後の展開を予想するうえでのキーワードになるだろうか。特に空魚の母親は、実は重要人物なのではないかと思われる。

潤巳るな事件の後、閏間冴月(うるまさつき)の影響力が弱まり、空魚と鳥子の距離感がさらに縮まっている。ただ適正な距離をお互いに測りかねて戸惑っている印象。あくまでも対等でありたいとする空魚と、彼氏ポジションを取りたがる鳥子。鳥子は「ささやきボイスは自己責任」以降、完全に閏間冴月から、空魚に気持ちがシフトしている感があって、けっこうグイグイ来る。さすがは帰国子女の積極性である。

隣の部屋のパンドラ

怪異はついに、空魚の身近なところに迫ってきた。アパートの隣室に出現した怪異を前に、空魚は一時撤退を決意。茜理(あかり)の家、小桜の家を泊まり歩く。

このエピソードで登場する怪異は「パンドラ」「禁后」と呼ばれるもの。内容はこんな感じ。

前エピソードの予言がさっそく成就。赤い人の出現。隣室の鏡台の引き出しに入っていたものが気になる。空魚の真の名前とは何なのか。これも母親絡みなのかな。空魚の出生の秘密をめぐる闇はけっこう深そうな気がする。

茜理宅、小桜宅と続いて、最後は空魚宅へ鳥子が訪問。お泊りイベント三連発で、空魚と鳥子の関係性がまた一歩、前に進んだ感じ。

招きの湯

小桜が手に入れた全国温泉旅行ペア宿泊券。なりゆきから小桜、空魚、鳥子の三人は秩父の温泉宿に泊まることになる。

温泉回である。第二巻では水着回もあったし、このシリーズは季節の定番イベントを、しっかりやってくれるので嬉しい。

マネキンの怪異はこれかな?

小桜と空魚の怪異トークが意味深長である。

怪異は対象を恐怖で発狂させることで、普通とは違う精神状態に追い込んでいる。その際に、怪談のテンプレートやディティールを使ってくる。しかしその怪異現象は、対象者の執着を鏡のように映しているだけなのではないか。

つまり空魚の周囲に起きているさまざまな事象は、自身の執着心の裏返しなのではないかと小桜は推測している。謎の多い空魚の過去。鳥子への執着が強くなっていく中で、更に空魚は密度の濃い怪異を引き寄せてしまうような気がする。

一方で、空魚と鳥子の関係性は、遂に危険なコーナーに突入。お泊りイベントの次は、お風呂イベント。鳥子は完全にスイッチ入っちゃってるよね。

裏世界夜行

市川夏妃(いちかわなつみ)により、魔改造を施されたAP-1で、空魚と鳥子は念願の裏世界遠征に乗り出す。

長年空魚を魅了してきた赤い人がようやく登場。赤い人についてはこちらがいいかな。

空魚の母親は、やはり本作においては重要な意味がありそう。赤い人の呪縛からは逃れることが出来たけど、母親との因縁は当分続くのではないかと思われる。

今回は、キャンプの楽しみ編。どんどん距離を詰めてくる鳥子に対して、戸惑う空魚。鳥子の両親はやっぱり同性カップルなのかな?だから女同士でもためらいがないのか?それにしてもファーストキスから舌入れてくるのは、さすがにどうなのと思う。

もうおまえらつきあっちゃえよ

ということで『裏世界ピクニック4 裏世界夜行』の所感をお届けした。

閏間冴月も登場しないし、空魚の過去は更に謎めいているしで、ストーリーはあまり進展せず、より深みが増した印象がある。

一方で、空魚と鳥子の間柄はぐっと前に進んだ。お泊りイベントに、温泉回。クリスマスの夜にファーストキスまで、丁寧にイベントを積み重ねているのは好感が持てる。怪異に対しては積極的に攻めに行く空魚が、鳥子に対しては徹底して受け身にまわるのが楽しい。交際初期の、お互いの距離感をさぐりながら詰めていく時期は、戸惑いもあるけど、いちばん楽しい瞬間なのかもしれない。

裏世界ピクニック4 裏世界夜行 (ハヤカワ文庫JA)

裏世界ピクニック4 裏世界夜行 (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者:宮澤 伊織
  • 発売日: 2019/12/19
  • メディア: Kindle版
 

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