ネコショカ

小説以外の書籍感想はこちら!
2023年に読んで面白かった新書・一般書10選

『嫉妬と階級の『源氏物語』』大塚ひかり

『黒祠の島』小野不由美 閉ざされた島で起きる猟奇殺人

本ページはプロモーションが含まれています


明治の寺社統制に背いた島の物語

2001年刊行作品。タイトルの『黒祠の島』は「こくしのしま」と読む。

まずは祥伝社のノン・ノベルから新書版で登場。

黒祠の島 (ノン・ノベル)
 

2004年に祥伝社文庫版が登場した。

黒祠の島 (祥伝社文庫)

黒祠の島 (祥伝社文庫)

 

続いて2007年に新潮文庫版がリリースされている。現在入手しやすいのはこちらの版であろう。

黒祠の島 (新潮文庫)

小野不由美作品としては「十二国記」シリーズが特に名高いが、もう一つの系譜として「悪霊」シリーズに始まる一連のホラー作品群が存在する。民俗学的な要素や、土着の歴史、文化を取り込んだ小野不由美の怪奇小説は、独特の雰囲気や怖さがあり、こちらも非常に魅力的なのである。

おススメ度、こんな方におススメ!

おすすめ度:★★★(最大★5つ)

民俗学的要素を強く持ったミステリ作品がお好きな方。神社が好き。神社にまつわる伝承が好きな方。横溝正史の『獄門島』のような、おどろおどろしさと、めぐる因果の物語に興味がある方におススメ。

あらすじ

その島の名は夜叉島。現在では平凡な名前にその名は変えられてしまったが今でも土地の古老はそう呼ぶ。島中を風車と風鈴が覆い尽くすこの小さな島で、作家の葛木志保が失踪した。彼女の足跡を辿って島を訪れた式部剛だったが閉鎖的な島民たちは言を左右して容易に真実を語ろうとしない。やがて式部は猟奇的な殺人事件がこの島で起きていたことを突き止めるのだが……

ここからネタバレ

「黒祠」って何?

黒祠とは明治初期の神社統制に従わず、民間の信仰として残った社のこと。明治期には民間信仰に基づいた多くの小祠が国家政策の名の下に統廃合されていったらしいので、確かにこんな神社があってもおかしくない。ましてや離島ならなおさらのこと。神社フリークであるわたしとしては期待は大いに高まる。

『屍鬼』好きにはおすすめ、あともう少し

ノン・ノベル版の帯には1949年『獄門島』1987年『十角館の殺人』そして…、なんて惹句が書いてあるのだけれど、十角館はともかくとして(旦那の本だけど)、雰囲気は確かに獄門島に近い。本作もまた閉鎖社会の因習や土俗的な信仰から生まれた物語なのだ。

小野作品の例に漏れずかなりの長編なのだけれども、飽きずに最後まで読ませる力がある。特にストーリーが二転三転する後半は読み応えあり。ラストの暗転は相変わらずお見事で全く予想外。浅緋の登場には本当にゾクゾクするような戦慄を味あわせてもらった。

主人公が微妙……

が、惜しむらくは主人公が弱い。異常に神社に詳しいのは作劇上のご愛敬としても、なぜ仕事上の友人でしか無い人間の事件にここまで首を突っ込むのか、事件を追い続けるだけの明確な動機が描かれないので、逆に何かあるんじゃないかと勘ぐってしまいました。主人公の内面をもっと抉って欲しかった。

『屍鬼』までとは言わないが、もっと長い話になってもいいから徹底して書き込んで欲しかったかな。主軸としたかったであろう「罪と罰」の構図がどうも鮮明に浮かび上がってこなかったのも惜しい。

最後に出版社の人にお願い。登場人物一覧(系図付きで!)を載せて欲しい。『屍鬼』程じゃないけれど本作も登場人物が多く、しかも血縁関係ぐちゃぐちゃ。何度もこの人誰だっけと悩んでしまったよ。

黒祠の島 (新潮文庫)

黒祠の島 (新潮文庫)

 

マンガ版も出ている

2005年には山本小鉄子によってコミカライズ版が刊行されている。幻冬舎バーズコミックスからの刊行。書き下ろしで全三巻。

黒祠の島 (1) (バーズコミックススペシャル)

黒祠の島 (1) (バーズコミックススペシャル)

  • 発売日: 2005/11/24
  • メディア: コミック
 
黒祠の島 (2) (バーズコミックススペシャル)

黒祠の島 (2) (バーズコミックススペシャル)

  • 発売日: 2005/12/24
  • メディア: コミック
 
黒祠の島 3 (バーズコミックススペシャル)

黒祠の島 3 (バーズコミックススペシャル)

 

2009年には幻冬舎コミック漫画文庫版も登場している。こちらは上下巻構成。

黒祠の島 上 (幻冬舎コミックス漫画文庫 や 1-1)

黒祠の島 上 (幻冬舎コミックス漫画文庫 や 1-1)

 
黒祠の島 下 (幻冬舎コミックス漫画文庫 や 1-2)

黒祠の島 下 (幻冬舎コミックス漫画文庫 や 1-2)

 

小野不由美作品の感想はこちらから!

〇ゴーストハント(悪霊)シリーズ

『ゴーストハント1 旧校舎怪談(悪霊がいっぱい!?)』 / 『ゴーストハント2 人形の檻(悪霊がホントにいっぱい!)』 / 『ゴーストハント3 乙女ノ祈リ(悪霊がいっぱいで眠れない)』 / 『ゴーストハント4 死霊遊戯(悪霊はひとりぼっち)』 / 『ゴーストハント5 鮮血の迷宮(悪霊になりたくない!)』『ゴーストハント6 海からくるもの(悪霊と呼ばないで)』 / 『ゴーストハント7 扉を開けて(悪霊だってヘイキ!)』

〇十二国記シリーズ

『魔性の子』 / 『月の影 影の海』 / 『風の海 迷宮の岸』 / 『東の海神 西の滄海』 / 『風の万里 黎明の空』 / 『図南の翼』 / 『黄昏の岸 暁の天』 / 『華胥の幽夢』 / 『丕緒の鳥』  / 『白銀の墟 玄の月』

「十二国記」最新刊『白銀の墟 玄の月』を報道はどう伝えたか 

〇その他

『悪霊なんかこわくない』 / 『くらのかみ』 / 『黒祠の島』