「コーヒーが冷めないうちに」シリーズの五作目!
2023年刊行作品。『コーヒーが冷めないうちに』『この嘘がばれないうちに』『思い出が消えないうちに』『さよならも言えないうちに』に続く、「コーヒーが冷めないうちに」シリーズの五作目に相当する。前作は2021年刊だったので、今回は二年のインターバルで新作が出てきた計算になる。思っていたより早かったね。
「コーヒーが冷めないうちに」シリーズは2021年のサンマーク出版のリリースによると、国内でシリーズ累計140万部を突破しているとのこと。このリリースによると「映像化オプション権をハリウッドスタジオと締結」とあるのだけれど、その後音沙汰ないよね。どうなっているんだろうね。
音声朗読のAudible(オーディブル)版は10/4発売予定とのこと。
シリーズ一覧と作中の時系列
「コーヒーが冷めないうちに」シリーズの既刊は以下の通り。基本的に刊行順に読むのがおススメ。
- 一作目:コーヒーが冷めないうちに(2015年)
- 二作目:この嘘がばれないうちに(2017年)
- 三作目:思い出が消えないうちに(2018年)
- 四作目:さよならも言えないうちに(2021年)
- 五作目:やさしさを忘れぬうちに(2023年)
ただ、作中の時系列は刊行順とは違っていて、こんな感じ。
- コーヒーが冷めないうちに
- さよならも言えないうちに(一作目の翌年)
- やさしさを忘れぬうちに(一作目の翌々年)
- この嘘がばれないうちに(一作目の数年後)
- 思い出が消えないうちに(一作目の十数年後)
おススメ度、こんな方におススメ!
おすすめ度:★★★(最大★5つ)
「コーヒーが冷めないうちに」シリーズをずっと読んできた方。人の心の美しい部分に触れてみたい。温かい気持ちに触れてみたい。そう思っている方。とにかくしんみりと泣きたい!と思っている方におススメ。
あらすじ
東京都千代田区神田神保町。喫茶店フニクリフニクラには秘密がある。この店では、なんと過去に戻ることが出来るのだ。ただ一度だけ、もう会えない大切な人と再会することが出来たら?そんな人々の夢をかなえてくれる不思議な店には、さまざまな後悔を抱えた人々がやってくる。
ここからネタバレ
喫茶店フニクリフニクラのルール
喫茶店フニクリフニクラでは、過去に戻ることが出来る。だがそのためには、数々の非常にめんどうくさいルールを突破する必要がある。これまでの既刊で明らかになっているルールはこんな感じ。
一、過去に戻っても、この喫茶店を訪れたことのない者には会うことができない
二、過去に戻ってどんな努力をしても、現実は変わらない
三、過去に戻れる席には先客がいる その席に座れるのは、その先客が席を立った時だけ四、過去に戻っても、席を立って移動することはできない
五、過去に戻れるのは、コーヒーをカップに注いでから、そのコーヒーが冷めてしまうまでの間だけ『やさしさを忘れぬうちに』より
六、過去に戻れるのは一度だけ(二回目の挑戦は出来ない)
七、コーヒーが冷めてしまっても飲み干さなかった場合は、その時間に取り残され幽霊となる。
八、過去だけでなく未来にもいくことが出来る。但し未来は不確定であり、望んだ人物に必ず再会できるとは限らない
九、過去に戻れるコーヒーを淹れることが出来るのは時田家の女だけである
十、妊娠した子供が女児である時点で時田家の女はその力を失う『コーヒーが冷めないうちに』より
過去に戻ってどんな努力をしても現実を変えることはできない。ただし、ルールは現実を変えないためにその事象に関して影響を与えるが、人の記憶に干渉することはない。
『さよならも言えないうちに』より
更なる新ルール
「コーヒーが冷めないうちに」シリーズでは、新作が出るたびに、新たなルールが登場してきた。『やさしさを忘れぬうちに』では新たに二つの事実が明らかとなっている。
まず一つ目。
呪われるのは過去に戻りたいと思っている人だけなんス
『やさしさを忘れぬうちに』より
過去に戻れる席には先客がいるのだが、この先客を無理にどかそうとすると呪いがかかる。巨大な空気の壁に押しつぶされそうになったり、亡霊の不気味な声が聞こえてきたりする(『コーヒーが冷めないうちに』での清川二美子の事例)。
しかし、実際呪いがふりかかるのは「過去に戻りたいと思っている人」が対象であり、その意図がなかった時田ミキには呪いはかからなかった。
二つ目。
ルールでは冷め切るまでに飲みほす必要はあるが、誰がという指定はない。
『やさしさを忘れぬうちに』より
時間遡行者が元の時間にもどるためには、淹れられたコーヒーが冷めるまでに全て飲みほす必要がある。従来作では、この場合、時間遡行者本人がコーヒーを飲みほしてきたのだが、今回「コーヒーを飲みほすのは誰でもいい」ことが明らかとなった。
コーヒーを飲みほすということは、愛する人との永遠の別れを意味しており、時としてそれはあまりに辛い行為となってしまう。それならば、それを他の誰かに代替してもらうことで、新たな物語展開が作れるのでは?作者はそう考えたのかもしれない。この真ルールを使って、また別のエピソードも作れそうだな。
珠玉の四編を収録
今回収録されているのは以下の四編。
- 離婚した両親に会いに行く少年の話
- 名前のない子供を抱いた女の話
- 結婚を許してやれなかった父親の話
- バレンタインチョコを渡せなかった女の話
「離婚した両親に会いに行く少年の話」では、シリーズ最年少の時間遡行者、桐山(きりやま)ユウキくん(7歳)が登場。子供用にコーヒーにミルクを入れても温度が下がらないなんてすごい!
「名前のない子供を抱いた女の話」は、先述した、コーヒーを飲み干すのは時間遡行者本人でなくて良いの事例。我が子を見る前に死んでしまった夫。生まれてきた子に名前を付けて欲しい。過去は変えられないが、未来は変えられるのだ。
「結婚を許してやれなかった父親の話」は、不幸ななりゆきから、生き別れてしまった不器用な父と娘のお話。双方がフニクリフニクラを訪れて時間を超えようとしたところが、他の話と比べてちょっと変化球かな。
「バレンタインチョコを渡せなかった女の話」は「バレンタインチョコを渡せなかった女」が誰なのか。ちょっとしたミスリードが入る、叙述トリックも踏まえた切ないエピソード。過去に戻れる席にいる先客を、強制的にどかせる方法として、「数の淹れたコーヒーのおかわりは断れない」の法則が発動される。トイレに行かざるを得なくなり、無理やりどかされている要がちょっと可哀想。