ネコショカ

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川口俊和『この嘘がばれないうちに』数ちゃんの秘密が明らかに


『コーヒーの冷めないうちに』の続編が登場

2017年刊行。『コーヒーの冷めないうちに』シリーズの二作目。一作目は演劇作品を小説化したものであったが、続編の本作は最初から小説として書かれたのかなのかな?

本ブログは原則としてネタバレありでお届けしているが、本エントリでは更に、前作である『コーヒーの冷めないうちに』の内容についてもネタバレしているので、ご注意頂きたい。

この嘘がばれないうちに

あらすじ

「とある条件」を満たせば、望んだ時間にタイムスリップできる喫茶店フニクリフ二クラ。今日も噂を聞きつけた者たちが店を訪れる。もう二度と会うことが出来ない大切な人にもう一度だけ会いたい。大切な人に再会出来るなら、あなたは何を伝えますか?優しい「嘘」がつむぎだす四つの物語。

前提条件のおさらい

この店で、タイムスリップを成立させるために必要な厳しすぎるルールをもう一度確認しておこう。

一、過去に戻っても、この喫茶店を訪れた事のない者には会う事ができない
二、過去に戻ってどんな努力をしても、現実は変わらない
三、過去に戻れる席には先客がいる 席に座れるのは、その先客が席を立った時だけ
四、過去に戻っても、席を立って移動することはできない
五、過去に戻れるのは、コーヒーをカップに注いでから、そのコーヒーが冷めてしまうまでの間だけ

『この嘘がばれないうちに』より

前作を読まれた方であれば、更に加えて以下の条件が追加されることをご存じのはずである。

六、過去に戻れるのは一度だけ(二回目の挑戦は出来ない)
七、コーヒーが冷めてしまっても飲み干さなかった場合は、その時間に取り残され幽霊となる。
八、過去だけでなく未来にもいくことが出来る。但し未来は不確定であり、望んだ人物に必ず再会できるとは限らない
九、過去に戻れるコーヒーを淹れることが出来るのは時田家の女だけである
十、妊娠した子供が女児である時点で時田家の女はその力を失う

さらに厳しくなってる(笑)。

今回のテーマは「嘘」

タイムスリップを成功させるための制約が厳しすぎるので、どうしても似たような話ばかりになってしまうのが本シリーズの宿命である。そのための対策として考えたのかどうかは定かではないが、今回は「嘘」という共通テーマを軸として様々な別離の姿を描いていく。

時を越えて再会を果たす四組の人々は、死によって別れを余儀なくされている。彼らは未だ悲嘆に暮れ、強い後悔を抱えて生きている。そのためフニクリフ二クラでの再会に寄せる想いも強い。大切な人の死は、遺されたものたちに深い悲しみや絶望をもたらすが、死者は後に残るものたちが不幸になることを望んでいるわけでは無い。本作では四編のエピソードを通じて、身近な人を亡くしたものこそ、幸せにならなくてはならないと繰り返し訴えかけている。

全編を通じて描かれる数の秘密

この物語では、幽霊となってしまったワンピースの女は数の母親であること。母親を過去に送るためにコーヒーを淹れたのは幼い日の数自身であること。母親を死なせるきっかけとなった自分を許せず、数は幸せな人生を選べないでいることが明らかになる。これまで描かれてこなかった数の秘密がようやく判明するのである。

あくまでも数メインの単独話を作らず、間接的にしか彼女の話を書かないのはもどかしいと思える反面、最後まで読み手の興味を繋がせる役割も果たしており、上手な仕掛けだなと感心した。

第四話で時間を超える万田清は、刑事という職業柄か、なんとこれまでのタイムトラベル事例を全て調べ上げていた。結果として、彼はこれまでに数が救ってきた全ての人々の感謝の気持ちを代弁する役割を負うことになり、その言葉に俄然説得力が増してくる。万田の説得を受けて、ようやく数の長年のわだかまりが氷解するわけで、今回も構成的には非常に良くできている。実に手堅いウェルメイドな出来栄えなのであった。

この嘘がばれないうちに

この嘘がばれないうちに

シリーズ一作目『コーヒーの冷めないうちに』の感想はこちらから。

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