五編を収録した初作品集
1999年刊行作品。作者の本多孝好(ほんだたかよし)は1971年生まれ。主要シリーズとしては、「MOMENT」シリーズ、「ストレイヤーズ・クロニクル」シリーズあたりが有名だろうか。
冒頭に出てくる「眠りの海」が1994年の第16回小説推理新人賞受賞作で一番最初の作品である。残りの四編についても全て「小説推理」に掲載されたもの。1999年になってようやく単行本化されており、本書が最初の作品集ということになる。
2000年版の「このミステリーがすごい!」では国内部門で10位にランクインし、にわかに脚光を浴びた。
双葉文庫版は2001年に登場。
角川文庫版が2013年に刊行されており、現在手に入るのはこちらであろう。
おススメ度、こんな方におススメ!
おすすめ度:★★★(最大★5つ)
失われた何か、とりかえしのつかないもの、もうどうしようもないことについて、考えてみたい方。最初期の本多孝好作品を読んでみたい方。乾いたテイストのミステリ中編集を読んでみたい方におススメ。
あらすじ
恋人に死なれ、故郷の海で自殺を図った私は死にきれず浜へ打ち上げられる。そこで出会った少年は彼女の死について意外な真相を解き明かす「眠りの海」。目の前で事故死した妹を悼み、いつまでも妹として振る舞い続ける少女。その行動には隠されたもう一つの理由が……「祈灯」。老人ホームの祖母からの意外な依頼。老人は何故、女子高生を尾行させるのか「蝉の証」他、喪失にまつわる計五編の短編を収録。
ここからネタバレ
距離感を覚える乾いた文体
いささか強引かもしれないが、「日常の謎」系と無理矢理分類出来ないでもないけど、北村薫や加納朋子のそれにあるようなウェット感は少なめ。乾いた筆致である。主人公視点の一人称で物語は進行するのだが、更にその上から見下ろしたような距離感を文章に感じる。
全編に漂う手遅れ感。諦観、取り返しのつかない状態。決定的な事件は既に起こってしまった後であり、主人公はそれをもはやどうすることも出来ないという現実が、いずれの作品にも共通してあるせいかもしれない。収録されている五作中でベストを一つあげるならやはり「瑠璃」だろうか。この手のいまは亡き……系には、わたくし、はなはだ弱いのである。