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『マルドゥック・スクランブル』冲方丁の大出世作

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日本SF大賞&ベストSFのダブル受賞作

2003年刊行作品。2003年の日本SF大賞受賞作。そしてベストSF2003の国内部門でもダントツの第一位を獲得した作品である。

ちなみに冲方丁は「うぶかたとう」と読む。「おきかたちょう」じゃないぞ(最初の頃はそう読んでいた)。デビュー作は1996年に、第1回スニーカー大賞の金賞を受賞した『黒い季節』である。 

 『マルドゥック・スクランブル』は各界で高評価を受け、セールスも好調であり、冲方丁にとっての大出世作となった。

2009年には全三巻を一冊に合本化した上で、内容を刷新した改訂新版が登場。

マルドゥック・スクランブル〈改訂新版〉

マルドゥック・スクランブル〈改訂新版〉

  • 作者:冲方 丁
  • 発売日: 2010/09/24
  • メディア: 単行本
 

2010年には「完全版」と銘打った再文庫版が登場している。現在出回っているのはこちらの版である。

マルドゥック・スクランブル The 1st Compression─圧縮 〔完全版〕 (ハヤカワ文庫JA) マルドゥック・スクランブル The 2nd Combustion─燃焼 〔完全版〕 (ハヤカワ文庫JA) マルドゥック・スクランブル The 3rd Exhaust─排気 〔完全版〕 (ハヤカワ文庫JA)

おススメ度、こんな方におススメ!

おすすめ度:★★★★★(最大★5つ)

サイバーパンク系のエスエフ作品が好きな方。翻訳エスエフ作品的な、ちょっと凝ったテイストの文体でも大丈夫!という方(かなり癖のある文体)。少女と知性を持ったネズミの活躍に興味がある方。初期の冲方丁作品を読んでみたい方におススメ。

あらすじ

賭博師シェルによって爆殺された未成年娼婦バロット。マルドゥック・スクランブルと呼ばれる特例措置により、高度な科学技術の提供を受け蘇った彼女だったが、犯行の露見を怖れたシェルは殺人兵器ボイルドを刺客として差し向ける。ネズミ型万能超兵器ウフコックの協力を得、バロットは自らの存在を賭して数々の危難に立ち向かっていく。

ココからネタバレ

大長編だがぐいぐい読める

全三巻、原稿用紙にして1,800枚を越える程の大作だが、いざ読み始めるとテンポ良くスピーディにストーリィが展開していくので、読み止めるのが惜しいくらい。自分でも驚くほどの速さで読了してしまった。第一巻のクライマックスであるバロット対ボイルドの銃撃戦の格好の良さはエスエフならではの迫真の出来。『マトリクス』見てなくて良かった(それよりも前に書かれてはいるのだけど)。

終盤のカジノバトルが凄い

圧倒的な迫力での見事なガンバトルを堪能させてくれた第一巻なのだが、この物語、第二巻から思わぬ形に戦いの場を変えていく。自らの犯罪記憶を封印した宿敵シェル。その記憶が保存された100万$のコインを巡っての凄絶なカジノバトルが繰り広げられるのだ。

無理矢理過ぎる展開に、当初は違和感を覚えたものの、いざカジノシーンへ突入してみるとその思いは一掃された。不幸な人生を送ってきた少女バロットの人間存在を賭けた戦場として、あえてカジノを選んだ作者の本気度は生半可な物ではなかった。全体の1/3ものボリュームを占める長大さでありながら、読み手を決して飽きさせない、終始手に汗握らされるスリリングな展開が圧巻であった。

次々と登場する曲者揃いのディーラーたちがこれまた、味のあるキャラクター揃いでお見事。終始高いテンションを保ちながらラストのシェルとの直接対決まで持っていった筆力は素晴らしい。なんだかカジノへ行ってみたくなった一作。もちろんウフコック必須で(笑)。

コミカライズ版と劇場アニメ版もある

コミカライズ版は『聲の形』『不滅のあなたへ』でブレイクする前の、大今良時(おおいまよしとき)が作画を担当している。全七巻。

劇場アニメ版は全三作。監督は工藤進。バロット役は林原めぐみ、ウフコック役は八嶋智人が演じている。