ネコショカ

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奏でる喜び、合わせる喜び、佐藤多佳子『第二音楽室』音源付き!


School and Musicシリーズ一作目

2010年刊行作品。2005年から2009年にかけて、「別冊文芸春秋」「飛ぶ教室」に掲載されていた作品を単行本化したもの。学校音楽をテーマとしたSchool and Musicシリーズの一冊目である。

第二音楽室

第二音楽室

 

文春文庫版は2013年に登場。こちらは湯本香樹実の解説が付いてくる。

第二音楽室 (文春文庫)

あらすじ

鼓笛隊なのに6年生に上がっても楽器を貰えない、ピアニカ組に割り振られた六人の、奇妙な友情を描いた「第二音楽室」。男女ペアで歌わなければならない音楽の試験をめぐる一幕「デュエット」。卒業式で演奏するためのリコーダーアンサンブルに抜擢された四人の一年間を綴る「FOUR」。不登校からの再チャレンジで軽音部に入った少女が体験する不思議な出来事「裸樹」。学校音楽をテーマとした四編の短編集。

学校での音楽活動をめぐる物語

本作は小学校の鼓笛隊、中学の音楽のテスト、中学の卒業式向けのリコーダーアンサンブル、そして高校の軽音楽部と、全て学校での音楽活動をテーマとした短編集である。当然主人公は全て十代のこどもたちである。

では、例によって各編ごとにコメントしていこう。

「第二音楽室」たまたま集まった六人の。みんなのいい感じ。

初出、別冊文芸春秋2008年5月号。

この学校の児童たちは鼓笛隊に属さなくてはならない。通常六年生になればなんらかの楽器を割り当てられて、ようやく本物の鼓笛隊らしく振る舞えるのだが、主人公たちはハズレ組とも言える「ピアニカ」班になってしまう。受験に専念したい、なんとなく、オーディションに落ちちゃった、様々な理由で集められた、普段であったら絶対につるまないであろう六人。

第二音楽室は屋上にある、通常の音楽の授業では使わない音楽室だ。はぐれモノのような存在になった六人は、この不思議な音楽室で奇妙な連帯感を育んでいく。学校イベントでは、時としてこういうイレギュラーな「チーム」が形成されることがある。この「チーム」という奴は、ごくまれにメチャメチャハマることがあって、ほんの刹那、魔法のような時間を過ごすことが出来る。

ラストの合奏シーンでは、バラバラであった皆の音が揃い始める、音を合わせることがもたらすゾクゾクするような感覚は、演奏者でしか味わえない喜びなのである。

 ※参考音源 「ミッキーマウスマーチ」鼓笛隊(ちょっと年齢幼め)

「デュエット」そこには三野田と私の二つの声しか無かった

初出、季刊飛ぶ教室2005年Spring。

中学校の音楽の試験で、男女ペアの二声で『翼をください』を歌う話。恐ろしいことにペアの組み方は自由!ペアの組み合わせを巡って、クラス内では俄かに告白合戦がスタート!主人公は憧れのボーイソプラノ君とペアを組めるのか?

って、自分の時代にこんなのあったらペア組めなくて、絶望で打ちひしがれてたに違いない(笑)。中学校くらいまでだと、男子に奇跡的な美声のボーイソプラノ君がいたりして、こういう話もありそうではある。気になる異性と声を合わせて二人で歌う(しかもみんなが見ている前でだ!)、生涯忘れられない経験になりそうだよね。

 ※参考音源 「翼をください」女声二部版 ハモリ部分ももちろんいいけど、ユニゾン部分がメチャ揃ってて綺麗

「FOUR」最後だ、と吹きながら、また思った。

初出、別冊文芸春秋2009年3月号。至高のリコーダー小説。

 「第二音楽室」同様に「チーム」のお話。吹奏楽部を持たない中学校で、卒業式用のBGMを吹くために選抜されたリコーダーアンサンブルメンバー四人の物語だ。同じクラスになっていたとしても、きっと仲良くはならなかっただろう子と親友になれる。気になる異性と過ごす一年間限定の集まり。一人で奏でる楽しさは、やがて皆と合わせる喜びに昇華していく。

これは名作だ!って本を読んでいる時に「読み終えたくない」気持ちが生まれるように、これは名演だっ!て演奏をしているときに「演奏を終わりたくない」気持ちが生まれることがある。大人になると忘れてしまう、音楽の一期一会感を思い出させてくれる一作。今回の四編中ではこれがベストかな。

※参考音源 「スタンドバイミー」

※参考音源 「ドラゴンクエスト序曲」リコーダー四重奏版

※参考音源 「インスブルックよさようなら」リコーダーアンサンブル版

※参考音源 「アルハンブラの想い出」(オカリナ版で許して、、)

※参考音源 「G線上のアリア」リコーダー四重奏版

 ちなみに、初代マクロスOPのリコーダー演奏はさすがに発見できなかった。

「裸樹」夢がかなうことって、あるんだ。

初出、別冊文芸春秋2009年9月号。

最後の作品はスクールバンド編。中学時代の不登校の経験から、実力もやる気もないバンドメンバーに迎合しながら、道化キャラを演じ続ける主人公のお話。主人公は誰よりも演奏が上手いのに、目立つこと、疎まれることを気にして本来の力を発揮できない。

それでも、隠そうとしても隠しきれない、奏者としての自己顕示欲。謎めいた経歴を持つ美月先輩の出会い。「裸樹」という曲を自分で弾きたいという想いが、次第に主人公を成長させていく。夢中になれること、心の底から没頭できるなにかがある事は時として人を救う。音楽がもたらしてくれる福音に胸が熱くなる一作。

※参考音源 堀内孝雄「裸樹」(元の「裸樹」はオリジナル曲なので全然違うのだけど、こっちもギター弾き語りだし雰囲気だけでも……)

みんなと奏でる喜び

本作に収録されている四つの短編作品は、いずれも学校音楽に関する物語だ。さらに、全ての作品が「誰かと音を合わせること」ことで成り立っている。音楽は一人で演奏しても楽しいが、他の誰かと合わせることでその楽しさは何倍にもなる。奏でる喜びが、いつしか合わせる喜びになり、それが時として人生を救う事すらある。

本作は、音符を音にするだけで楽しかったあの頃に戻れる魔法のような作品集である。第二シリーズの『聖夜』も出ているようなので、こちちらも続けて読んでみる予定。ちょっと待っててね。

聖夜 (文春文庫)

聖夜 (文春文庫)