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『夏の名残りの薔薇』恩田陸 物語の揺らぎを楽しむ

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あとがき+解説+インタビュー付き

2004年刊行作品。「別冊文藝春秋」の245号から250号にかけて連載された作品を単行本化したもの。文藝春秋の「本格ミステリ・マスターズ」レーベルからの登場であった。

単行本にしてはめずらしくあとがき付き。更に杉江松恋による解説、インタビューまでついてくる。豪華なおまけ三点セットがファンには嬉しい。巻末の作品リストもありがたい。

文春文庫版は2008年に刊行。単行本に収録されていたあとがき、杉江松恋による解説、インタビューはそのまま収録されているが、単行本版にはあった作品リストは割愛されている。

夏の名残りの薔薇 (文春文庫)

おススメ度、こんな方におススメ!

おすすめ度:★★★(最大★5つ)

恩田陸の描くミステリ作品が好きな方。知的で優雅で、それでいて退廃感の漂う小説を読んでみたい方。先行きの見えないタイプの小説が好きな方。タイトルでピンと来た方におススメ。

あらすじ

晩秋。とある観光地のクラシカルなホテル。年に数日だけこの豪奢なホテルは沢渡一族の貸し切りとなる。長老格の三人の老婆に選ばれた者たちだけがここに集うことを許されるのだ。秘められた過去の罪。禁断の不倫。幾重にも重ねられた嘘。わき起こる猜疑心。数多の想いが渦巻くこの場所で起きた殺人事件。一体誰が、そして何故。二転三転する物語の帰結は。

ココからネタバレ

本格モノと思わせて……

周囲から隔絶された豪華ホテルでの殺人。いかにもいわくありげなクセの強いキャラクターが次々と登場する。

だいたい文藝春秋が出しているこのレーベル、その名も「本格ミステリ・マスターズ」ってことで、普通に考えると、おおっ、遂に恩田も本格推理の長編を書く気になったのか!って期待がかかるところなんだけど、そんなノリで読んでいくと第二変奏の序盤でガクっとずっこけることは必至である。

引用の元ネタの『去年マリエンバートで』やタイトルの元ネタであるハインリヒ・W・エルンストの『夏の名残りの薔薇』についての知識があれば予想もつくのだろうけど、おいおい桜子生きてるじゃん!って心の中でツッコミを入れたのは絶対にわたしだけではない筈。

去年マリエンバートで(字幕版)

去年マリエンバートで(字幕版)

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変奏を楽しむ

そもそも、目次にある「主題」「第一変奏」「第二変奏」と続く流れで判れよってことなのだろう。主題で示されたモチーフ「罪深き女が復讐者によって殺される」が手を変え品を変え繰り返される。明確な解決はいずれのエピソードでも示されることはない。

恩田陸作品が明確な着地点を示さないのは今回に始まったことではないが、さすがに何度もやっていることだけに本作ではその手際が洗練されてきている。敢えて作品を閉じないことで醸し出される余韻。物語の揺らぎを今回は素直に楽しむことが出来た。登場人物(特に桜子)が魅力的に描けていたこともあるかな。

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