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『天の光はすべて星』フレドリック・ブラウン 宇宙に憑かれた男は夢をかなえられたのか

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邦題タイトルがかっこいい!

1953年作品。オリジナルの米国版のタイトルは『The Lights in the Sky Are Stars』。

筆者のフレドリック・ブラウン(Fredric William Brown)は1906年生まれのアメリカ人作家。1972年に亡くなられている。

最初のハヤカワ文庫版1982年に登場。

本作は長らく入手困難な時代が続いていたが、2008年に新装版が登場した。解説は中島かずきが担当している。本作の復刊に中島かずきが果たした役割は大きいので、これはとても納得感のある人選だ。

天の光はすべて星 (ハヤカワ文庫 SF フ 1-4)

『天の光はすべて星』は、2007年放映のアニメ『天元突破グレンラガン』の最終話タイトルに使われ、アニメファン的な知名度が爆上がりした。ハヤカワの新装版は2008年に刊行されているので、間違いなく『天元突破グレンラガン』による影響かと思われる(そもそも、解説に中島かずきが起用されているわけだし)。

中島かずきは『天元突破グレンラガン』で、シリーズ構成及び、メイン脚本家の役割を果たしている。『天の光はすべて星』との関連については、ハヤカワの新装版『天の光はすべて星』の解説パートに詳しく書かれているので、気になる方は是非チェックしてみていただきたい。

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おススメ度、こんな方におススメ!

おすすめ度:★★★(最大★5つ)

宇宙開発モノ、ロケットモノの作品がお好きな方。年をとっても情熱をもって生きていきたいと思っている方。諦めきれない夢がある方。タイトルを見てカッコいい!と思った方。『天元突破グレンラガン』ファンの方におススメ。

あらすじ

1997年、人類の宇宙開発は停滞期を迎えていた。元宇宙飛行士マックス・アンドルースは57歳。宇宙への憧れは未だ衰えないが、既に活躍の場は奪われており、彼は不毛な毎日を過ごしていた。そこに木星探査計画を公約に立候補した、上院議員候補エレン・ギャラハーが現れる。再び宇宙へ。生涯の夢をかけて、再起を狙うマックスは、彼女への接触を図るのだが……。

ここからネタバレ

現実の世界とは少し違う世界線のお話

『天の光はすべて星』で描かれている宇宙開発の進展状況は、現実の世界とは少々異なる。この世界では、1960年代に原子エネルギーの宇宙開発転用が成功している。なんと1965年の時点で人類は火星への到達を果たしているのだ。ロケットはコストはかかるものの、飛行機よりも早く移動できる乗り物として、地球内の移動にも使われている。

ただ、1990年代に入ると、かつての宇宙熱は沈静化。コストのわりには採算が取れないとして、宇宙開発は冬の時代を迎えていた。

57歳の元宇宙飛行士が主人公

主人公のマックス・アンドルースは、本作開始時点で57歳。マックスは豊富な経験と知識、豊かな人脈を持つが、この世界では宇宙飛行士は30歳で引退が基本。ロケット整備士でも50歳までしか採用されない。しかも、マックスは若き日に事故で片脚を失っており、宇宙に関わる仕事に就くのは絶望的とされている。

そろそろ老境に入ろうかというマックスだが、それでも宇宙への憧憬を抑えきれない。この世界ではマックスのような宇宙に魂を奪われたものたちを「星屑」と呼んでいる。

主人公の行動力がヤバい

年齢の問題。身体的なハンデ。斜陽を迎えている宇宙産業。宇宙への夢を諦めかけていたマックスだったが、上院議員候補エレン・ギャラハーが、木星探査計画を公約に立候補したことで、再びその情熱に灯がともる。

エレンの存在を知ってからのマックスの行動力がヤバい。エレンの対立候補のスキャンダルネタを暴いて失脚させるし、エレンのもとに通い詰めて恋仲になってしまう。エレンの掲げる木星計画に関与するため、マックスは工学の学位を取得、巨大空港の管理職にもなってしまう。友人たちも皆、マックスの夢を実現させるために最大限の協力を惜しまない。このあたり、とんとん拍子過ぎて、オッサンのドリーム小説かよ!と、さすがに引いたのだが、本作は終盤に入り意外な展開を迎える。

次の千年で人類はどこまで行くだろう

相思相愛で、マックスの強力なパートナーであったエレンが、脳腫瘍でこの世を去る。ここからマックスの計画は暗転していく。エレンは、マックスのために木星計画の重要ポストを用意していたのだが、これも意外な理由で頓挫してしまう。マックスが申告していた宇宙飛行士としての実績は真っ赤な嘘で、本当は地球から外に出たことすらもなかったという事実が発覚するのだ。

エレンの死と、潰えた宇宙への夢。絶望の底に沈むマックスだったが、最終的には自らの夢を次世代に繋ぐことを決意する。マックスは甥のビリーに「星屑」としての想いを託す。ラストシーンで、マックスはロケットの打ち上げをビリーと共に見守る。新装版の表紙ビジュアルはこのシーンだろう。

マックスはこの先には行くことはできない。『天の光はすべて星』というタイトルは、あくまでも地球から星々を見上げる、「見送る立場」の存在を意図しているように思える。

だがマックスの夢はビリーへと引き継がれる。外へ!外へ!この想いがある限り、人類はもっと遠くへ行けるだろう。静かな情熱を湛えたラストシーンが本当に美しい。

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