伊坂幸太郎の第五作
2003年刊行。このミス2004、国内部門第二位の作品。東京創元社のミステリレーベル「ミステリ・フロンティア」枠からの刊行であった。伊坂幸太郎(いさかこうたろう)としては、五作目の長編作品ということになる。
創元推理文庫版は2006年に刊行されている。
おススメ度、こんな方におススメ!
おすすめ度:★★★(最大★5つ)
気軽に読めるミステリを探している方。伊坂幸太郎作品が気になるけど、どれから読んでいいか悩んでいる方。意外な結末にビックリしたい方。映画版を見て、原作版も読んでみたいと思った方におススメ。
あらすじ
春から大学生となる椎名は引っ越し先のアパートで謎めいた青年河崎に出会う。初対面にもかかわらず「一緒に本屋を襲わないか」と提案する河崎に椎名はたじろぐ。目的は広辞苑の強奪。なりゆきから手を貸すことになってしまった椎名はモデルガンを片手に書店の裏口に立ちつくす。河崎の真の狙いは。そして二年前に起きた悲劇とは。
ここからネタバレ
二つの時間軸で物語が進行
物語は現在編の椎名と河崎の話と、過去編の河崎、琴美、ドルジの話、二つの時間軸で交互に展開されていく。この手の構成だと、スレた読者は当然叙述トリックを疑うわけだけど、最後まで全然見抜けなくて我ながらショック。まあ、気付かないで済んだ分だけ、二つの時間軸の話がピタリとつながるシーンのカタルシスを堪能することが出来たからよしとすべきか。
タイトルが恰好いい!
タイトルセンスがいつにもまして非常に秀逸で、作品の本質をパーフェクトにすくいあげた見事なチョイス。感動的なシーンをお涙頂戴的にベタベタさせずにさらりと書けるのも好印象なのである。やはりこういう部分はセンスなのだろうね。熱狂的な伊坂ファンではない自分でも、素直に格好がいいなと思ってしまった。売れているのも納得出来る。
伊坂作品はこれから入るといいかも
個人的に伊坂作品とは相性が合わない点がいくつかある。作品そのものは非常に良く出来ているのに、キャラクターが許容できなくてハマれないことがあるのだ。一部の登場人物の倫理観がわたし的に受け入れられないのである。説教強盗クンとか、壁落書き兄弟とか、わたし的にはちょっと無理な方々……(好きな方ゴメンね)。本作で言うと河崎(オリジナル)とか、とにかくアホの子琴美ちゃんとかが自分としてはあんまりお友達になりたくないタイプの皆さん。
でも今回、意外に読後感が悪くなかったのは彼らがいずれも「過去」の人だったからなのかな。なによりドルジの人柄の良さに救われている面が大きかったのかもしれない。椎名君のお人好し度たっぷりのいい人ぶりも救いだった。
個人的には、伊坂作品を読み始めるなら、この作品からかなと思ってみたりもする。
映画版であのトリックをどう処理したのか?
本作は映画版が存在する。2007年の公開で監督は中村義洋である。残念ながら未視聴なので、近々見てみるつもり。Amazon Prime対応なので、Prime会員の方はすぐに見られる。視聴後追記するかも。。