菅浩江の代表作
2000年作品。1993年から1998年にかけて、早川書房「SFマガジン」に単発で掲載されていた作品群に書き下ろし(「この子はだあれ」)を加えて、単行本として刊行された作品である。
第54回日本推理作家協会賞の長編および連作短編集部門、更に第32回星雲賞日本長編部門を受賞。加えて、早川書房刊の「SFが読みたい!2001年版」で国内編第1位を受賞している。菅浩江の代表作の一つと言っても過言ではないだろう。
ハヤカワ文庫版は2004年に登場している。
おススメ度、こんな方におススメ!
おすすめ度:★★★★★(最大★5つ)
博物館、美術館が大好きな方。「博物館惑星」というタイトルに魅力を感じる方。学芸員の仕事に興味がある方。美とは何なのか。美しいものを美しいと感じる人間の心の動きが気になる方におススメ!
あらすじ
「アフロディーテ」は地球軌道上に浮かぶ、人類史上最大の博物館。そこにはあらゆる年代、あらゆる場所の音楽、美術品、動植物が所蔵されている。あまりに膨大な収蔵物に対応するため、「アフロディーテ」の学芸員たちは自らに改造を加え、直接脳からデータペースコンピュータに接続する機能を持たされていた。学芸員・田代孝弘の元へ持ち込まれる様々なトラブルを描く連作短編集。
魅力的な菅浩江の短編作品
「雨の檻」の頃から菅浩江は短編の方が実は上手なんじゃないかと思ってはいたのだが、その真骨頂が発揮されたのが本作である。
古今東西、人類の叡智を集めた博物館を、人工衛星上に築こうという発想がまず素晴らしい。
9編の作品群にはいずれもSF的な趣向が凝らされており、それでいて全編を通じて美とは何なのか、美しいと感じる人の心の動きは何なのかといった問いかけが一貫して続けられ、物語の太い柱となっている。
主人公とその妻の描写がやや少なすぎるように思えたのが少々惜しいところか。二人の関係がもつれていく部分をもう少し膨らませて書いてくれていたら、最終シーンでの余韻は更に奥深いものになったに違いない。
ミステリ的にも読める「天上の調べ聞きうる者」「この子はだあれ」、芸道の持つ底知れぬ闇の深さを垣間見せてくれる「夏衣の雪」「享ける形の手」など、いずれも力作揃いではあるのだが、表題作の「永遠の森」とラストの「ラブ・ソング」を個人的には推したい。現実では起こりえない、SFならではの身震いがする程の美しい光景を読み手にイメージさせるのがこの作家は本当に巧いのだ。
続篇も出ていた!
なお、本エントリを書いていて初めて気が付いたが(←情弱)、『博物館惑星』シリーズに19年ぶりの続篇『不見(みず)の月 博物館惑星II』が登場していた!2019年の4月だからつい最近ではないか!
とか思っているうちにシリーズ三作目『歓喜の歌 博物館惑星III』も出ていた!これは読まなくてはなるまい。
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