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『パラ・スター Side 百花/Side 宝良』阿部暁子 目の前のたった一人のために


阿部暁子、久しぶりの新刊!

2019年は一冊も新作が出なかった阿部暁子(あべあきこ)。2018年の『また君と出会う未来のために』以来、久しぶりの新作オリジナル小説となる。『どこよりも遠い場所にいる君へ』『また君と出会う未来のために』のシリーズは人気が出たから、この路線を踏襲するのかと思っていたけど、全く違うジャンルで攻めてきた。

※映画版『思い、思われ、ふり、ふられのノベライズは書いているけど……

『パラ・スター』は全二巻構成となっており、前編の<Side 百花>が2020年2月刊行。後編の<Side 宝良>が2020年3月刊行。車いすテニスの世界を描いた作品で、<Side 百花>では競技用車いすメーカーに勤務する山路百花(やまじももか)の視点から。<Side 宝良>ではプロ車いすテニスプレーヤーの君島宝良(きみじまたから)の視点から描かれる。本日はこの二冊をまとめてご紹介したい。

おススメ度、こんな方におススメ!

おすすめ度:★★★★(最大★5つ)

女性同士の友情について描かれた作品を読んでみたい方、熱くたぎるスポ魂小説を読んでみたい方、矜持を持って生きる職業人の姿に触れてみたい方、パラスポーツ、特に車いすテニスの世界について知りたい方におススメ!

ここからネタバレ

『パラ・スター Side 百花』あらすじ

最高の競技用車いすを作りたい。事故により下半身が麻痺。車いすテニスの世界へ挑む親友、君島宝良のため、山路百花は車いすメーカー藤沢製作所に入社する。二年目にしてようやく、競技用車いすの製造部門に配属された百花だったが、理想と現実のギャップに苦しむことになる。世界的なプレーヤーに成長していく宝良。百花は次第に焦燥感に駆られていく。

パラ・スター <Side 百花> (集英社文庫)

車いすテニスを支える人々の物語

大多数の読み手に取って、競技用車いす業界は未知の世界であろう。作者は丁寧な取材を重ね、知られざる裏方たちの姿を明らかにしていく。人間の身体は一人一人全て異なるし、障害の程度や、競技に臨む姿勢も様々である。そのため、競技用車いすは究極のオーダーメードの世界となる。

「その人を自由にする車いす」を作るために、現場の人間がどれほどの苦労と工夫を重ねているのか。そしてクライアントのために何が出来るのか。本作では、誠意とプライドを持って製作にあたる職人たちの姿が温かくも熱い筆致で描かれており、読むものに強い感動を与えるのである。

百花の苦悩と成長を描く

『パラ・スター』の前編とも言える<Side 百花>では、老舗車いすメーカー藤沢製作所で、競技用車いすの製作に携わる短大卒二年目の社員、山路百花が主人公を務める。親友の君島宝良は世界的に活躍するプロ車いすテニスプレーヤー。百花は宝良のために最高の競技用車いすを作りたいと願い、日々努力を重ねていく。

中学時代に虐めから救ってくれた宝良に対して、百花は強い依存心を持っているように思える。頼るべき存在であった宝良が思わぬ障害を負い、心を閉ざしてしまう。これまで守られる立場であった百花は、ここで初めて宝良のために自分は何が出来るのかを真剣に考えるようになる。

車いすテニスに転向後、僅か三年で世界ランキングに名を連ねる程の高みに達した宝良に対して、まだ新卒二年目で大きな仕事を任せて貰えない百花は焦りを感じている。車いす競技者に真摯に向き合い、自身の仕事に誇りをもって取り組む藤沢製作所の社員たちの中にあって、百花は己の未熟さに苦悩する。

引っ込み思案で、自分をあまり主張しない性格の百花が、宝良や、藤沢製作所の先輩社員小田切夏樹とのを通して成長していく。「その人の本当の気持ちに寄り添う」こと。「その人のために何が最善か考える」こと。ようやく自分の立ち位置を認識できた百花の姿がなんともいじましくも爽やか。こんな子が周りに居たら、小田切夏樹でなくても助けてあげたくなりそうである。

『パラ・スター Side 宝良』あらすじ

東京パラリンピックを目前に控えて、車いすテニスプレーヤー、君島宝良は空前のスランプに悩んでいた。結果の出ない日々が続く中で、周囲からの期待とプレッシャーだけが高まっていく。悩んだ末にプレイ環境を変えること選んだ宝良だったが、それは新たな試練の始まりでもあった。世界屈指の競合が集うジャパンオープン。再起をかけて宝良の挑戦が始まる。

パラ・スター <Side 宝良> (集英社文庫)

車いすテニスプレーヤーの日常

『パラ・スター』の後編<Side 宝良>では言うまでもなく、プロ車いすテニスプレーヤーの君島宝良が主人公である。天上天下唯我独尊。誇り高く気が強く、毒舌キャラで一匹狼。友達は百花だけ。下半身が全て麻痺してしまう大事故を負いながらも、奇跡の復活を果たした宝良。<Side 宝良>では、そんな宝良の日常を描くところからスタートする。

ベッドから降りる。服を着替える。それだけでもひと手間もふた手間もかかってしまう。そして、宝良の身体は尿意を感じない。そのために定期的に自身でカテーテルを入れて排尿を強制的に行う必要がある。<Side 百花>では描かれなかった、宝良の障がい者としてのふつうの暮らしが描かれる。読者に非常に強いインパクトを与える導入部である。

絶望の中からいかにして立ち上がるか

一般テニスの世界で頭角を現しつつあった宝良だが、交通事故での下半身麻痺となりその夢を絶たれてしまう。母の献身と、百花との友情。憧れあり、目標でもある世界トッププレーヤー七條玲の存在。そして何よりも宝良自身のふたたびテニスをしたいという気持ちが再起に繋がっていく。

しかし人生に訪れる不幸はひとつだけとは限らない。「隕石のように」突然降ってくる苦難にどう向き合えばいいのか。「たったひとつの希望で照らし切れるほど人生は短くも簡単でもない」。突然の不幸は誰にでも訪れるのである。長い長い時間をかけて立ち上がっても、また隕石は落ちてくるかもしれない。それでも人生を続けていくしかない。そんな宝良の述懐が胸に迫る。

プロフェッショナルとしてそこにあること

最終章は、一章まるまる使っての七條玲戦である。世界ナンバー1プレーヤーの七條玲は天真爛漫な無邪気キャラでありながら、車いすテニスの普及を誰よりも真剣に考えているプロ中のプロ。自分の勝ち負けしか考えていない宝良とは次元の違う存在だ。スランプを克服して本来の実力を取り戻しつつある宝良が、トップオブトップの七條玲と戦う。この展開は王道パターンとはいえ燃える。スポ魂小説としても、メッチャこの作品は面白いのである。

試合会場には、営業設計に関わるようになり、現地での車いす修理にも携わるようになった百花の成長した姿がある。百花も百花なりの苦悩を乗り越えてこの場所に立っている。かつては依存対象であった宝良との立ち位置も、相互に高めあえる関係性にまで変化している。

最後の最後になってようやくデレてくれる宝良の内面描写も良い!成長した百花と宝良の二人の距離感、相手を大切に思う気持ち。まだまだこの暖かい世界に浸っていたくなる。これは続篇を読みたくなるのだけど、この先を書いてくれないだろうか。

パラ・スター <Side 百花> (集英社文庫)

パラ・スター <Side 百花> (集英社文庫)

  • 作者:阿部暁子
  • 発売日: 2020/04/03
  • メディア: Kindle版
 
パラ・スター <Side 宝良> (集英社文庫)

パラ・スター <Side 宝良> (集英社文庫)

  • 作者:阿部暁子
  • 発売日: 2020/05/11
  • メディア: Kindle版
 

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